Vol.2

理容業・美容業の創業ポイント

理容業・美容業の創業ポイント

1.業種の概要

今回は理容業・美容業(以下、「理美容業」といいます。)の創業について、重要なポイントを解説します。
厚生労働省の「令和4年度衛生行政報告例」によると、美容所の数が269,889軒、理容所は112,468軒となっています(図表-1)。前年度対比では、美容所が5,666軒増加しているのに対して理容所は1,935軒減少しています。
新規出店数は美容所が14,934軒、理容所が2,004軒ですが、統計データから逆算すると閉鎖や廃業した店舗も、美容所が9,268軒、理容所が3,939軒と、少なくありません。また、平成7年以降の施設数の推移をみると、美容所数は増加傾向が続いていますが、理容所は減少傾向にあります(図表-2)
こうしたデータをみると、理容業よりも美容業のほうが活況のように思えますが、経済産業省の「第3次産業活動指数」(サービス業の生産活動を表す経済指標)によると、コロナ禍を経て理容業は早い回復を示しているのに対して、美容業は回復が遅れていることが指摘されています。美容業は軒数が増加していますが、競合は激化していることが推測されます(図表-3)。
理美容業は、人々の生活で不可欠なサービスですが、人口減少の中で競合激化もあり、事業を継続するのは容易ではない業種といえます。創業する際は綿密な準備が重要です。

軒数 前年度比 使用確認件数
(新規出店数)
閉鎖・廃業
美容所

269,889

5,666

14,934

9,268

理容所

112,468

-1,935

2,004

3,939

※「閉鎖・廃業」は「前年度比-使用確認件数」で算出
図表-1 理美容所の軒数等(出所:厚生労働省「令和4年度衛生行政報告例」)
図表-2 理容所・美容所施設数推移(出所:同上)<
図表-2 理容所・美容所施設数推移(出所:同上)
図表-3 理美容業の第3次産業活動指数の推移(出所:経済産業省HP『理容業・美容業の今』2024.3.26)
図表-3 理美容業の第3次産業活動指数の推移(出所:経済産業省HP『理容業・美容業の今』2024.3.26)

2.必要な許認可等

(1)理容師・美容師免許

理容所・美容所を営業するためには、理容師免許、美容師免許を所有している人が必要です。経営者が所有していなくても、スタッフに免許所有者がいれば営業可能です。ただし、経営者であっても、お店に立ちお客様に対して理容師・美容師としてサービスを提供する場合は、美容師免許が必要です。

(2)管理理容師・管理美容師

開業する店舗に常時2名以上の理容師(美容師)が勤務する場合は、「管理理容(美容)師」を置くことが義務づけられています。理美容業は公衆衛生にかかわる業態であるため、管理理容(美容)師には施設の衛生面を管理する役割が求められます。
開業時は美容師1名でも、開業後の人員増員を考えるなら、管理理容(美容)師の資格保持者を雇用するか、経営者自身が理容師(美容師)の場合は管理理容(美容)師の資格を取得しておくことが望ましいといえます。

(3)開設届(保健所の確認)

理容所・美容所を開設する前には、管轄の保健所に開設の申請をして確認を受ける必要があります
保健所が確認する項目は、免許所有者のほか、床面積、客の待合場所、採光・照明・換気等の施設基準などをクリアしていることです。詳細は管轄の保健所に確認しましょう。

3.商品・サービスとセールスポイント

競合が激しい中で、理美容業が創業して長く繁栄するには、「経営理念」「コンセプト」「マーケティング」といった観点で綿密な検討と準備が必要です。

(1)経営理念

まずは、ぶれない指針を明確にするために「経営理念」を固めましょう。「経営理念」というと難しそうに思うかもしれませんが、「ミッション」「ビジョン」「バリュー」に分けると考えやすくなります。
「Mission(ミッション)」は、「企業・組織が果たすべき使命や存在意義」、「Vision(ビジョン)」は「事業や店の理想像、中長期的な目標」、「Value(バリュー)」は「ミッションやビジョンを達成するための具体的な行動指針、価値観」のことです。
具体例を示したのが図表-4です。これらの例はごく一般的なものですので、ぜひあなたのお店ならではの特徴ある内容を検討してください

図表-4 「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の例図表-4 「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の例
図表-4 「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の例

(2)コンセプト

①コンセプトの例

続いてコンセプトを検討しましょう。コンセプトとは、諸説ありますが、「誰のためにどんな商品・サービスをどのように提供するのか」「店舗の基本的な姿勢」「お客様やスタッフに店舗のブランドや魅力を伝える表現」といった意味があります。経営理念は主に企業(店舗)側の視点で決めますが、コンセプトはよりお客様からの視点で検討することが重要です
コンセプトの例を挙げると図表-5のように多種多様なものが考えられます。

コンセプトの表現 具体的内容

ラグジュアリー・リトリート

豪華な個室でリラックスできる空間を提供

ファミリー・フレンドリー

家族全員が利用できるアットホームな雰囲気

メンズ・グルーミング

男性専用のグルーミングサービス

オーガニック・ビューティ

ヘアカラー剤などにオーガニック製品を使用

ママ・キッズサロン

ママがお子様連れで来店しやすいサロン

ウェルネス・ビューティ

ヘアケアと共にリラクゼーションサービスも提供

クリエイティブ・スタジオ

ユニークなカットやカラーリングの施術

モバイル・サロン

介護施設や病院などに訪問して施術

図表-5 理美容院のコンセプトの例

②コンセプトを固める手順

コンセプトを固めるために必要な手順を解説します。コンセプトは、開業した後で変更するのは容易ではありません。店舗物件の立地条件、内装や設備、価格設定などと連動するからです。そのため、開業前に以下のポイントに留意して綿密に検討しましょう

コンセプト検討のために重要なポイント

以下では、それぞれについて具体的に解説していきます。

出店する店舗物件の市場調査

店舗物件が立地する場所の市場調査を行います。具体的には以下について調べましょう。まだ物件を探している段階であれば、それぞれの候補地における状況をチェックすることで、出店地を決める材料になります。

  • 人口や世帯数の動向、年齢分布、所得層
  • 自治体の政策の特徴(子育て支援が手厚いなど)
  • 駅の乗降客数の動向
  • 大企業や役所等の有無
  • 競合店の状況

競合店の状況については、予定物件の近くだけではなく、近隣の大きなターミナル駅近くの店も競合になる可能性があるので、広めのエリアで調べることが重要です。図表-6のような表を作成して比較しましょう。調べる方法としては、競合店のWebサイトのほか、サロン検索サイトの掲載内容、外から目視するなどが有効です。

調査項目

A店

B点

C店

立地条件

A駅徒歩2分
住宅街の中
B駅徒歩5分

来客状況

予約が先まで多い

予約はまばら

土日は行列ができている

ホームページの有無

有(古臭い)

SNSでの発信

週3回の投稿
フォロワー多

週1回の投稿
フォロワー少

ほぼ毎日投稿
フォロワー多

経営理念

明記あり

記載なし

明記あり

コンセプト

トリートメントに強い
お客様に合うスタイリング

自然派染髪剤で髪に優しい
個室でゆったり

低料金
カット20分

料金設定

やや低価格(具体的な金額を記入)

高価格(具体的な金額を記入)

激安(具体的な金額を記入)

強み・特徴

有名チェーン店
広告を多く出しており知名度が高い
年齢層が幅広い

個人店で業歴長い
プライベートサロンで個室

低料金チェーン店
ミドル層の客が多い

強み・特徴の根拠

チェーン全体のHPに詳しく記載
スタッフの入賞歴を掲載

SNSにお客様のビフォーアフター掲載

低料金の理由を明示

スタッフの状況

若いスタッフが多く活気あり

店主のみ

パート主体

当店との競合度

非常に大
※この表は簡潔ですが、実際には詳細に記載することが重要です。競合店は可能な限り多く調べましょう。
図表-6 競合店調査表
ターゲットとするお客様

どんなお客様を主なターゲットとするかを検討します。その際は、年齢や性別などの属性情報に加えて、お客様の「悩み」、「ニーズ」(目的)、「ウォンツ」(手段・欲求)といった顧客心理まで掘り下げて検討しましょう。
よくある間違いは「20代から60代の女性」のように広すぎるターゲットにすることです。この場合、「最新の技術で女性を美しくするサロン」など、ありきたりなコンセプトになりがちです。お客様から見たときに、他店との違いが分からず、選択基準が価格だけになり、選ばれない可能性が高くなります。
ターゲットはできるだけ絞ることが効果的です。「絞ると来店客が少なくなるのではないか」と心配する方が多いのですが、競合が激しい中で選ばれる店になるためには、「○○といえばあのお店」と認識してもらうことが不可欠なのです
ターゲット選定は、図表-7の切り口で検討しましょう。

図表-7 ターゲット選定の切り口図表-7 ターゲット選定の切り口
図表-7 ターゲット選定の切り口

このように、さまざまな切り口でターゲットを検討することで、たとえば「○○駅周辺に住む共働きで子育て中のママがお子さんと一緒に個室で落ち着けるサロン」といったコンセプトにつながります。

自店のポジショニング

コンセプトを固める際に、自店のポジショニングを考慮することも重要です。ポジショニングとは、競合店との差別化ポイントを検討し、自店の立ち位置を明確にすることです。できるかぎり、競合店と異なる立ち位置を取ることが大切です。
ポジショニングを検討する際は「ポジショニングマップ」を描いてみると分かりやすくなります。切り口が異なる縦軸と横軸を引いて、競合店がどの位置にあるかを考えてプロットします。そのうえで、自店があるべきポジションを検討します。 縦軸と横軸の切り口の例を示すと、以下のようなものが考えられます。

  • 高価格と低価格
  • 駅近の立地と住宅街の立地
  • オシャレ重視と髪の悩み解決重視
  • 席数多と席数少
  • カジュアルな雰囲気とラグジュアリーな雰囲気
  • 効率重視とクオリティ重視
  • 来店頻度多い人向けと少ない人向け
  • 若者向けとシニア向け

ポジショニングマップは図表-8のようなイメージで作ってみましょう。

図表-8 ポジショニングマップの例
図表-8 ポジショニングマップの例
図表-8 ポジショニングマップの例

(3)マーケティング

理美容業はお客様からみて選択肢が多いので、マーケティングが非常に重要です。前述のコンセプトも、一つのマーケティングの要素です。しかし、魅力的なコンセプトを固めても、ターゲットとするお客様へ伝わらなければ集客できません。
マーケティングで重要なことは「やれることはすべてやる」という姿勢です。予算やマンパワーの制約があるので、やれることには限りがありますが、実践しなければ集客できないといっても過言ではありません
どのような方法が集客につながるかは、地域性などもあり、やってみなければわからないのが実態です。「マーケティングは確率論」といわれるとおり、手数を増やすことで「どの方法をどれくらい実行すればこれくらい効果が出る」といった法則が見えてきます。
マーケティングの方法は多岐に渡るので、すべてを説明することはできませんが、ぜひ開業前から知っておいていただきたい方法と、成果を出すためのポイントを解説します。

情報発信

①SNSは貴重な資産

開業前からSNSによる情報発信を行いましょう。たとえば「2年後に美容室を開業予定です」として、美容に関する情報や準備の状況を投稿します。
筆者の意見ですが、理美容院に効果的なのは、InstagramとYouTubeです。必ずしも顔出しをしなくても、継続的に発信することでファンが増えて開業後のお客様になる可能性が出てきます。
しかし、SNSは成果が出るまでに相当な期間がかかります。効果が出ないからとすぐにやめる人も多いですが、続けるうちに花開くことがあります。フォロワーがたくさんいれば、開業後に、商品、サービス、イベントなどを効果的に告知することもできます。
また、金融機関が創業融資の審査を行う際も、SNSのフォロワーが多ければ「独自の強みがある」と評価しやすくなるはずです。
SNSは、お店にとって大切な資産となります。ぜひ、開業を決意した瞬間から取り組んでください。

②開業時からできるホームページのSEO

理美容院は、自社ホームページが非常に重要です。サロン検索サイトをメインに位置付けている店もありますが、情報発信の旗艦として自社ホームページでの情報発信にも注力する必要があります。
また、お店のサイトをつくる以外に「縮毛補正専門」「ヘナカラーサロン」「自然派トリートメント」のように、一つのウリに特化したLP(ランディングページ)を制作する方法も有効です。
ただし、単にホームページやLPを作っただけでは、見る人はほとんどいません。SEO(検索エンジン最適化)やWeb広告等を行う必要があります。
そこで開業前からおススメな方法が、サイトに掲載するブログ記事を書くことです。たとえば「髪のツヤを保つ方法」「美容院の選び方」「髪のアンチエイジング」といったお役立ち情報を1,000~3,000文字程度の記事にまとめておきます。記事の執筆は、ChatGPTなどの生成AIを活用すれば効率化できます。開業前にホームページの準備をしておき、書いておいたブログ記事を掲載することで、SEO効果が期待できるのです。
なお、LPの場合はブログ記事を絡めるよりも、Web広告やSNS広告と連動させて集客するのが効果的です。

③目を引くチラシとは

チラシの配布は、理美容業のように実店舗を構えるビジネスの場合、一定の効果が期待できます。方法は、ポスティングや新聞折り込みなどがあります。とくに新規開店時にはチラシの配布を検討しましょう。
開店した後も、季節やイベントに合わせてチラシ配布をし、効果を上げている店もあります。チラシ配布は、エリアや枚数など、試行錯誤して効果を計測することが重要です。以前は「せんみつ」といって「1,000枚配布して3件の反応があれば良い」と言われていました。しかし、今はもっと確率が低いこともざらにあります。
反応率を上げるには、配布方法の工夫に加えて、内容が重要です。
チラシを読んでもらうためのコツは「何だこれは?」と思わせる内容にすることです。例を挙げると、あえてダサいチラシにする方法があります。デザインを追求したものが多いので、かえって目立つからです。
また、店主の想いやあいさつ文を手書きで書くと、意外と目を引きます。割引券や粗品贈呈券なども、効果が出る場合があります。
他店のチラシを見比べるなどして、効果的な内容を検討しましょう。

リピーターを増やすための方法

理美容院の経営を安定化させるには、来店されたお客様をリピーターにすることが必要です。そこで、リピーターを増やすための方法を解説します。

①店と来店客のミスマッチを防ぐ

店のコンセプトとお客様の志向がマッチしないと、「思っていたのと違う」と感じて二度と来店しないどころか、ネガティブな口コミ等の書き込みにもつながりかねません。
極端な例を挙げると、ていねいな施術でくつろいでいただく店に、短時間で終わらせたいというお客様が来店するケースなどです。お客様はサロン検索サイトで、場所や料金だけを見て選んだ可能性があります。
そうした店とお客様のミスマッチを防ぐために、店のコンセプトや雰囲気、スタッフの特徴、施術の特徴などを、ホームページやSNSで積極的に発信することが重要です。

②顧客満足度を高水準にキープ

理美容院のお客様は、たとえ長く通っている方でも、ちょっとした不満で離脱する可能性があります。ここでは、不満を感じさせるポイントと、離脱を防ぐための方策を紹介します。まずお客様が不満を感じるポイントは、以下のようにさまざまな理由が考えられます。

お客様が不満を感じる理由の例
  • 美容師の対応がマンネリ化して提案もなく飽きてきた
  • 要望を聞くことなく「いつものとおり」で施術されてしまう
  • 施術に関する説明がない
  • 希望のスタイルにならなかった
  • 電話で予約しようとすると応対が悪かった
  • 施術の時間が長すぎる
  • 予約していたのに待たされた
  • 料金説明が不明瞭(追加料金がある場合)
  • 友達感覚でプライベートな距離感が保てない接客
  • 施術後のフォローがない
  • いつも通っているのに「ロイヤルカスタマー」の対応がない

お客様が不満を感じず継続的に来店してくださるように、図表-9のような工夫を実施しましょう。

カウンセリング

初回に限らず、毎回、お客様の要望や悩みをしっかり聞く
ヘアスタイルなど施術に反映させる

施術メニュー

お客様ごとにカスタマイズした施術メニューを提供

アフターケア

アフターケアや日常のスタイリングをアドバイス
施術後にLINEなどでフォローメッセージを送る

カルテ作成

ヘアスタイル履歴や会話内容を記録して次回に生かす

特典進呈

誕生日や記念日を把握して、その月に特典を提供

次回予約

次回の予約をしたら割引などのメリットを提供
次回予約はお客様の都合によって変更可とする

接客技術

スタッフの接客態度を丁寧かつフレンドリーに保つ

お子様へのサービス

ちょっとしたプレゼント(百均などで購入)を贈呈

VIP待遇制度

VIPコースや特別会員コースを設ける
長期来店している方に感謝のギフトを定期的に渡す

お得情報の発信

LINE等でヘアケア商品の限定販売などの情報を提供

予約利便性

予約を取る手段をLINE、電話、Webサイトなど多様化

図表-9 リピート率アップのための工夫例

4.人材確保

昨今、理美容業においても人材確保が大きな課題の一つとなっています。スタッフが必要な業態の店は、人材の採用と定着が大きな課題です。
理美容院の新規開業時は、創業者が勤務時代に親交のある人を誘うケースが多いといえます。開業当初から求人広告を出すなどしても、実績のない店に応募する人は少ないのが実態です。
新規開業時は、まずは創業者ともう一人といった少人数でスタートして、集客実績を積んでから追加採用をするのが妥当です。人を雇用すると、人件費負担が大きいだけではなく、そのスタッフに対する責任が重くのしかかるからです
理美容院のスタッフ採用と定着の方法については、多くの情報がWebサイトに出ていますので、詳細はそれらを参考にしてください。
ここでは筆者の経験に基づき、新規開業時に人材を確保するための工夫と、留意点について解説します。

(1)人材確保の工夫

新規開業時に人材を確保するためには、以下のような方策を実施することをおススメします。

①コンセプト設計と言語化

店のコンセプト設計を綿密に行い、それを言葉にしておきましょう。コンセプトは明確に発信して、スタッフ採用のときにも理解と共感を得られるように徹底することが重要です。採用後の店とスタッフのミスマッチを防ぐ効果もあります。

②SNSでの情報発信

前述のとおり、開業前からSNSでの情報発信を積極的に行うことで、理美容院で働く希望の方へ訴求できる可能性があります。採用広告を出した場合も、その理美容院のSNSを見る人が多いからです。

③最初のスタッフとはよく話し合う

新規開業時に働いてくれるスタッフに対しては、経営理念(ミッション、ビジョン、バリュー)を理解してもらえるようにしっかりと話し合ってください。いわば「創業メンバー」としての同士ですから、可能な限り長期間に渡って協力し合える関係性を構築しましょう。

(2)人材採用上の留意点

次に、新規開業時に人材を採用する際の留意点について解説します。以下の3点に留意してください。

①仲良しでもうまくいくとは限らない

新規開業時には、学生時代や勤務時代からとても仲の良い友達をスタッフとして雇用するケースが多いものです。
ところが、どんなに気の知れた仲でも、開業後に意見が合わないとか売上への貢献が少ないなどの不満が噴出して、ギクシャクすることが少なくありません。長く良い関係を続けて店を繁栄させるためには、互いに敬意を払いながらも、オーナーとスタッフとの関係を保つことが重要です。
関係が上手くいかない場合は、仲良しでも袂を分かつ勇気が必要です。

②店の業績は経営者しだい

店の経営が順調でない場合、それをスタッフのせいにするオーナーが珍しくありません。しかし、店の業績はすべて経営者に責任があると認識してください。スタッフが思うとおりに動かないと思っても、経営者のマネジメントの問題と考えて、改善を図りましょう。

③スタッフは信じて育てる

中小企業の場合、優秀な人材を確保できる確率は低いと言わざるを得ません。しかし、経営者はスタッフの可能性を信じて、根気強く育てる姿勢を持ちましょう。筆者の経験では、経営者が当初「能力が低い」とみていたスタッフを根気強く育てた結果、店の稼ぎ頭になったという事例もあります。

5.資金計画

理美容院を開業する際に必要な資金について考えましょう。業態や立地条件によって異なりますが、図表-10のような資金が必要です。

項目

具体的な内容

設備資金

店舗取得費

賃貸物件の敷金・保証金等

内外装工事

コンセプトに合わせた内外装や看板等

理美容機器

理美容の椅子、機械、染髪台等

什器備品

テーブルや椅子、棚等

運転資金

材料代

理美容の材料

家賃

賃貸物件の家賃

人件費

スタッフの人件費

水道光熱費

水道代、電気代

広告宣伝費

チラシ配布やWeb広告にかける費用

その他の経費

消耗品、通信費、Webサイトサーバー代など

※日本政策金融公庫の『創業の手引』と『創業の手引+』もご参照ください。
図表-10 理美容院の開業に必要な資金

6.収支計画

収支計画は、日本政策金融公庫「創業計画書」の記入例を参考にしてください。

収支計画 記入例

収支計画策定上の留意点

収支計画を策定する際は、以下のポイントに留意しましょう。

①売上見込の根拠を明確に

理美容院の売上見込は、創業計画書の記入例のとおり「客単価×椅子の台数×回転数」もしくは「客単価×来店客数」で算出するのが一般的です。
客単価は、料金設定からある程度妥当な金額を予測できますが、回転数や来店客数は「なんとなく希望的観測」では意味がありません。売上見込は、その根拠を明確にして、実現可能性の高い計画にすることが重要です。
売上見込の根拠は、融資を受けるためというよりも、ご自身の店は実際に採算が取れると確信を持つために不可欠なのです。
売上根拠の見込は、図表-11のような多面的な観点で徹底的に検討してください。

売上根拠の例
  • 前勤務先での顧客リストから来店していただけそうな人数
  • 前勤務先での集客活動とその成果
  • 開業予定地の市場調査(商圏の顧客層、競合店調査)
  • 商圏の市場規模とコンセプト設計によるポジショニング
  • SNSでの影響度
  • 予定している広告宣伝と効果見通し

図表-11 理美容業の売上見込の根拠(例)

なお、日本政策金融公庫『小規模企業の経営指標調査』には、理美容業の椅子1台当たりの売上高などのデータが掲載されていますので、ご参照ください。
さいごに理美容業は、きわめて競合が激しい業種といえますが、本稿で解説した内容を参考にしていただくことで、きっと繁盛店を実現できると思います。
ぜひ良いお店を開業して、お客様を喜ばせてください。

掲載日 令和6年7月31日

■プロフィール

上野 光夫

上野 光夫

中小企業診断士・大正大学招聘教授。
九州大学を卒業後、日本政策金融公庫(旧国民生活金融公庫)に26年間勤務し、主に中小企業への融資審査の業務に携わる。約3万社の中小企業と約5,000名の起業家への融資を担当した。
2011年にコンサルタントとして独立。起業支援、財務コンサルティングを行うほか、講演、執筆などの活動を行っている。
主な著書に『事業計画書は1枚にまとめなさい』(ダイヤモンド社)がある。
日本最大級の起業家支援プラットフォーム「DREAM GATE」において、アドバイザーランキング「資金調達部門」で8年連続して第1位を獲得。

会社HP:https://mmconsulting.jp/
YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/@mkeiei