業種別の創業ポイント集

タイトル画像 Vol.1 居酒屋の創業ポイント

Vol.1

居酒屋の創業ポイント

1.業種の概要

今回は飲食業の中で、居酒屋を例にとって創業のポイントを解説します。
一般社団法人日本フードサービス協会の調査(2023年)によると、外食産業の中で居酒屋の売上水準は、コロナ禍前2019年の水準を下回る状況が続いています。また、日本政策金融公庫「新規開業パネル調査2021年12月」によると、2016年に創業した企業のうち2020年末までに廃業した割合は、全業種で8.9%なのに対して「飲食店・宿泊業」は14.7%と高い数字となっています。
居酒屋は、現在の社会情勢も考慮すると難しい業種といえるので、創業する際は綿密な検討と準備が不可欠です。

2.必要な許認可等

(1)飲食店営業許可

居酒屋開業に際しては、保健所の「飲食店営業許可」が必要です。申請には「食品衛生責任者」や、「防火管理者」(収容人数30名以上の飲食店を開業する場合)の設置が必要です。許可申請については、管轄の保健所に相談しましょう。

(2)深夜酒類提供飲食店営業開始届

午前0~6時に営業し酒類を提供する場合は、「深夜酒類提供飲食店営業開始届」を管轄の警察署に申請する必要があります。ただし、深夜の酒提供が認められない地域もあるので、事前に確認することが重要です。

(3)創業融資と許可取得のタイミング

創業融資においては、許認可を取得することが融資の条件となります。金融機関の審査によりますが「融資後に確認する条件」となるケースが多いので、その場合は、融資実行後に許可申請をすることが可能です。

3.商品・サービスとセールスポイント

お客様が居酒屋に行く理由は、表面的には「おいしい料理と酒を味わいたい」ですが、もっと先に真の目的があります。たとえば「一緒に行く人と仲良くなりたい」「スタッフと楽しく会話したい」「ひとりで静かな時間を過ごしたい」などです。
居酒屋の商品やサービスは、おいしいものを提供するだけでは不十分で、お客様の真の目的を満たすことを意識して組み立てることが重要です。

(1)経営理念とコンセプトを固める

「飲食店はコンセプトが重要」といいますが、その前に「経営理念」を明確にしておきましょう。
経営理念は、それほど難しく考える必要はありません。居酒屋A店の経営理念は「お客様に暖かい料理を提供し、楽しい時間を過ごしていただきます」というシンプルなものですが、「暖かい」という漢字を使うことで、料理の温度のことだけではなく、過ごしやすい雰囲気を表しています。
次に、コンセプトを固めるには、以下の3点を検討しましょう。

①どんなお客様へ
年齢、住まい、職業、年収、グループ人数や特徴など、来店してほしい顧客像を想定します。

②何を提供するか
焼き鳥、海鮮料理など、メインとなる料理や酒類を決めて「鹿児島産の地鶏」「駿河湾の新鮮な魚」「手作り」など、分かりやすい特徴を出しましょう。

③どのように提供するか
営業時間、価格設定、支払方法(カード、電子マネー)、などを検討します。

(2)店舗物件とレイアウト

店舗物件は、コンセプトに合う物件が理想ですが、タイミングよく見つかるとは限りません。「理想的ではないけどいい物件」に出会ったら、コンセプトを物件に合わせて修正する柔軟性も必要です。
次に、店舗内装や座席のレイアウトの検討を行います。カウンター、テーブル席、座敷など、お客様が利用しやすく、回転率も高まる構成を検討しましょう。

(3)商品の構成

居酒屋が繁盛し続けるためには、リピーター客の確保が不可欠です。
筆者は経験上、「定番メニュー」を安定して提供することに加えて「集客メニュー」も必要と考えています。
「定番メニュー」とは、お客様が「あの居酒屋の○○が食べたい」と思うもので、利益率を高めに設定できるものが望ましいです。「集客メニュー」は「今日のおススメ」といった旬の料理などで、利益率が低くても話題性あるものです。
「定番メニュー」と「集客メニュー」のバランスをとって、リピーターを増やしましょう。

(4)接客サービスの工夫

居酒屋のお客様の中には「店主やスタッフと楽しく会話したい」という方も多いので、接客サービスは店の魅力の一つとして重要です。居酒屋B店では、スタッフの行動規範として『お客様から「すいません」と呼ばれないように、気配りのある接客をします』を掲げて繁盛しています。
お客様が気持ちよく過ごせて、店の売上もアップするように、接客サービスの工夫を行いましょう。

(5)開業前からできるマーケティング活動

いいお店でも、お客様を集めるマーケティングを行わないと繫盛しません。①マーケティング活動⇒②新規来店客の確保⇒③リピーター化⇒④店の経営安定化、という流れをつくりましょう。
マーケティングでお勧めなのは「やれることはすべて取り組む」という姿勢です。SNSのほか、チラシ配布、グルメサイト掲載、ホームページの構築、店舗前の看板やディスプレイの工夫などです。予算の制約はありますが、できる限りのことを行いましょう。
とくに、開業する前から、InstagramやXなどのSNSで情報発信することで、多くのファンを確保できる可能性があります。居酒屋C店は、開業の2年以上前から、コツコツと料理や酒の情報発信を行って、開店時の集客に成功しました。

(6)セールスポイントを際立たせる

セールスポイントとは、お店の強みや特長、競合優位性、お客様から選ばれる理由、といったものです。セールスポイントがないと繁盛しないといっても過言ではありません。また、融資や補助金を申請する際も、セールスポイントの有無が審査を左右します。
セールスポイントは、図表―1のような切り口が考えられます。

  • 独自の仕入ルートがある
  • 勤務時代の実績
  • 独自メニューの開発力
  • 優秀な人材がいる
  • コンテンストなどの受賞歴
  • SNSの影響力が大きい
  • 顧客コミュニティがある
  • 安心安全な食材
  • 全国の銘酒を揃えている
  • 割安な価格設定
  • 映えるメニューが豊富
  • 提供スピードが速い
  • 接客サービスに特徴がある
  • 立地条件がいい
図表―1 セールスポイントの例

4.人材確保と定着化

人手不足が深刻な昨今、居酒屋もスタッフの確保と定着は容易ではありません。
「これが正解」という方策はないですが、うまくスタッフを確保して定着している事例をご紹介します。東京都内の居酒屋D店は、店主以外は全員大学生のアルバイトで、常時8名ほどでシフトを組んでいます。
毎年5月くらいに、大学生をターゲットにして求人広告を出すと、20名ほどの応募があります。面接してそのうち3~4名の大学1年生を採用します。大きな特徴は、4年生になって卒業するまで継続して働いてくれるところです。
求人広告では、学生アルバイトが楽しく仕事をしている姿を掲載しています。定着率が高いのは、店主が直接指示命令するのではなく、上級生が下級生をうまく指導する体制ができているのが大きな理由です。
居酒屋にとって人材確保と定着は大きな課題ですが、常識にとらわれずD店のように工夫を凝らしてください。

5.開業時の資金計画

居酒屋開業に際しては、図表―2のような資金が必要になります。
まずは設備資金や運転資金について、考えられるものをすべてピックアップしましょう。そのうえで「できるだけ初期投資は抑える」という観点で、必要最低限に絞ることで、開業後の採算がとりやすくなります。
設備資金については、業者へ見積書を依頼しましょう。とくに内装工事については、相見積もりをとって、最適な依頼先を決めることが大切です。

設備資金

  • 店舗取得費(敷金・保証金等)
  • 内装工事・電気工事
  • 厨房機器
  • 什器・備品
  • 看板工事

運転資金

  • 食材・酒類仕入れ
  • 家賃
  • 人件費
  • 水道光熱費
  • 広告宣伝費
  • 消耗品費
  • その他諸経費
図表-2 必要な資金の例

6.収支計画策定上の留意点

(1)売上予測の根拠を明確に

居酒屋の場合、売上予測は「客単価×座席数×回転数」で算出するのが一般的です。たとえば、@3,000円x30席x1回転=90,000円/1日の売上、という計算です。
ここで重要なことは「客単価や回転数など売上の根拠」を明確にすることです。売上予測の根拠の例を挙げると、以下のようなものが考えられます。

①前勤務先でのデータ
前職で居酒屋に勤務していたなら、そのときの経験から、客単価、回転数(来店客数)などを算出します。可能な限り、勤務時に店の売上データを分析しておくことが有効です。

②市場調査
店舗予定地周辺の市場調査は徹底的に行いましょう。人口や世帯数、年代、駅の乗降客数、大企業等の所在地、通行量、競合店の状況、などです。
市場調査は、国の統計システムである「e-Stat」にある「地図で見る統計(jSTAT MAP)」などを活用しましょう。
また、通行量や競合店の状況は、実際に現場に行って足と目で調査することをお勧めします。競合店については、居酒屋だけではなく、イタリアンレストランなどの他業態の飲食店のほか、スーパーの総菜売り場等も間接的に競合する可能性があります。
店の広さ、メニューの特徴、客数を、ウィークデーと週末などに観察して、表にまとめましょう。

③SNSなど顧客候補リスト
前述のように、SNSで多くのフォロワーがいるとか、独自に集めた顧客リストを持っているなどの場合は、告知することで集客効果が期待できるので、売上予測を立てる上での根拠の一つになるといえます。

(2)原価・コスト計算を綿密に

料理やドリンクメニューは、できるだけ原価計算をしておきましょう。食材や酒類が高騰している昨今、それぞれの原価率を計算することが重要です。それによってメニュー価格の決定や、食材仕入先の選定に生かすことができます。 また、洗剤などの消耗品費、水道光熱費、広告宣伝費等の経費についても、どれくらいかかるのかを調べましょう。

以上のような点を考慮して、お客様に長く愛される居酒屋を目指しましょう。

掲載日 令和6年5月24日

プロフィール

上野 光夫 上野 光夫

中小企業診断士・大正大学招聘教授。
九州大学を卒業後、日本政策金融公庫(旧国民生活金融公庫)に26年間勤務し、主に中小企業への融資審査の業務に携わる。約3万社の中小企業と約5,000名の起業家への融資を担当した。
2011年にコンサルタントとして独立。起業支援、財務コンサルティングを行うほか、講演、執筆などの活動を行っている。
主な著書に『事業計画書は1枚にまとめなさい』(ダイヤモンド社)がある。
日本最大級の起業家支援プラットフォーム「DREAM GATE」において、アドバイザーランキング「資金調達部門」で8年連続して第1位を獲得。

会社HP:https://mmconsulting.jp/
YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/@mkeiei

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