海外展開ガイド

COLUMN

海外展開に備えて
海外知的財産権を取得しよう

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近年、海外展開を行う中小企業の増加に伴い、知的財産権に関連するトラブルが増加しています。
ここでは、海外知的財産権の概要や、ニーズが大きい海外特許権・海外商標権及び公的機関が提供するサービス等をご紹介します。
海外知的財産権の取得や活用には専門知識が必要です。取得を検討する場合は、専門家に相談しながら手続きをしましょう。執筆協力:東京都知的財産総合センター

  1. 1.海外展開に伴う知的財産リスク
  2. 2.海外知的財産権の種類
  3. 3.海外知的財産権の調査
  4. 4.海外特許権
  5. 5.海外商標権
  6. 6.海外知的財産に関する情報

1. 海外展開に伴う知的財産リスク

海外展開に伴う知的財産リスク 模倣品の出現 企業秘密・技術の流出 再三者の権利侵害

日本国内での既存事業や新規事業を海外で展開する場合に、現地で製造・販売を予定する自社製品の権利保護が不十分だと、侵害品・模倣品が出回るリスクが生じます。

また、事業展開先国における第三者の知的財産権に対する注意を怠ると、第三者の知的財産権の侵害につながってしまい、米国等の国によっては巨額の損害賠償をしなければならなくなるリスクが生じます。

さらに、提供する技術や企業秘密が第三者に漏洩するリスクもあります。

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2. 海外知的財産権の種類

海外にも日本同様、特許権、商標権、実用新案権、意匠権、著作権といった知的財産権が存在します。これらの知的財産権は国ごとに独立して存在しているため、日本における知的財産権は、著作権を除いて外国では無効です。したがって、自社製品を輸出したり海外で製造したりする場合には、各国で特許等の知的財産権を取得しておかないと、その国で競合メーカに模倣された場合に権利を主張できません。逆に、外国で知的財産権を取得すれば、その国に市場を持つ競合メーカに対して、侵害の差止め、損害賠償の請求及び実施料の徴収等が可能となります。

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3. 海外知的財産権の調査

また、自社が事業展開先国における第三者の知的財産権を侵害しないためには、しっかりと調査を行う必要もあります。その結果、問題が発生しそうな第三者の知的財産権が見つかった場合には、研究開発や製品の製造・ 販売の中止、研究開発の方向転換、製品仕様・設計の変更等を検討して権利侵害とならないような措置を講じる必要があります。また、場合によって権利者側にライセンスを申し入れて許諾を得ることも考えられます。

情報が網羅されているとは限りませんが、以下のデータベースで、海外の知的財産権を調査することが可能です。

世界知的所有権機関(WIPO)
PATENTSCOPE(特許)、Global Brand Database(商標)、Madrid Monitor(商標)等
欧州特許庁(EPO)
Espacenet(特許)
欧州連合知的財産庁(EUIPO)
e-Search plus(意匠・商標)、TMview(商標)等
米国
Patent Fulltext Database(特許・意匠)、TESS(商標)
中国
Patent Search and Analysis of CNIPA(特許)、CNIPR(特許・意匠・実用新案)、CNPAT(特許・意匠・実用新案)、中国商標網(商標)
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4. 海外特許権

1. 発明の選定、出願国の選定

原則として、特許性があり、他社の実施可能性や、実施規模が大きいものは外国出願するべきです。なお、日本では権利化が困難と思われる発明でも外国では可能な場合があるので注意が必要です。

また、日本で特許権を取得した製品を海外の自社拠点で製造する場合や、現地の会社へ技術供与する場合等はその発明を外国特許出願すべきです。一方、主に日本国内だけで使われる技術は日本国内のみで権利化すれば十分であり、外国出願するメリットはありません。

発明の重要度が高いものほど、幅広く出願国を決定します。具体的には、特許権を使用している自社製品の輸出や現地製造のある国、競合メーカーが製造拠点や市場を有している国、さらに、発明技術についてライセンス契約を結ぶ可能性が高い国等から選定します。

2. 出願方法

特許の外国出願には大きく分けて以下の2つの方法があります。

  1. 1. 直接出願

    外国の特許庁に個別に出願する方法です。初めての特許出願から外国に出願することはまれで、通常は国内に最初の出願(基礎出願)をしてから、パリ条約※に基づき外国出願をします。基礎出願から1年以内であれば、優先権を主張することが可能です。※パリ条約とは
    特許・実用新案・意匠・商標・サービスマーク・商号、原産地表示・原産地名称・不正競争の防止といった工業所有権の国際的保護を図ることを目的として1883年にパリで締結された条約。本条約では、日本で最初に出願して、一定期間(特許・実用新案:12カ月以内、意匠・商標:6カ月以内)にパリ条約加盟国に出願すれば、日本で出願した日に外国で出願したとみなされる優先権が認められています。

    直接出願のプロセス 直接出願のプロセス 出願人→基礎出願→外国の特許庁(米国・英国・中国) 個別に出願
  2. 2. PCT出願

    (PCT:Patent Cooperation Treaty)を利用した出願
    特許協力条約(PCT:Patent Cooperation Treaty)の加盟国(152カ国)を指定国とし、日本の特許庁へ出願する方法です(日本語もしくは英語での出願が可能)。PCTの目的は特許出願の手続き面における協力です。パリ条約に代わるものではなく、それをさらに踏み込んで外国出願の便宜を図ったものです。

    1. (ⅰ)PCT出願のプロセス

      (PCT:Patent Cooperation Treaty)を利用した出願
      日本語もしくは英語で作成した出願書類を日本の特許庁に提出することで、すべてのPCT加盟国を指定したものとみなされます。

      さらに、専門機関によって国際調査が行われ、その結果は国際調査報告書に記載されます。各国の国内段階への移行は、原則最初の出願日(優先日)から30カ月以内に翻訳文を提出することにより行われます。ただ、PCTは、国際特許という世界統一の権利を与えるものではなく、最終的に権利化の判断は各国特許庁によって行われることにご注意下さい。

      PCT出願のプロセス PCT出願のプロセス 出願人→基礎出願→PCT国際出願→国際調査→外国の特許庁(米国・英国・中国) 国内移行
    2. (ⅱ)PCT出願の主なメリット

      PCT出願は以下のメリットがあります。

      • PCT加盟国全てに有効な国際出願日を確保できます
      • 国際段階の手続きのほとんどを自国の言語(日本の場合は、日本語もしくは英語)で自国の特許庁で行えます
      • 原則優先日から30カ月という時間的余裕の中で各国の国内手続きに移行するか判断できます
      • 国際調査報告・見解書等を利用することによって特許性についての見解が取得でき、国内移行すべきか否かの適切な判断が可能になり、コスト節約につながります
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5. 海外商標権

1. 商標制度の特徴

今まで国内で長く使用してきた商標等は外国でも登録したいものです。しかし、商標は特許や意匠と違い、関連商品の発表や販売後であっても、その国に商標登録していなかったら他社が登録可能です。また、先使用権の主張は、他社の出願日時点でその国での商標の周知性が要求されるため難しいです。

このように、商標は国ごとに使用や登録が可能かどうかを事前に調査をしておかないと、他社の商標権を侵害してしまい、商品販売中止等、思わぬトラブルとなることがあります。

2. 出願国の選び方、出願方法

  1. 1. 出願国の選び方

    以下を参考に出願国を選定します。

    • 既に事業展開をしている国や今後具体的な計画がある国(市場の大きさや重要度で優先順位を決定)
    • 製造(委託も含む)をする国
    • 模倣品被害や対策予防が必要な国
    • 同業者のシェアが大きい国
    • 将来、事業展開が予想される国
  2. 2. 出願方法

    特許と同様に、各国ごとに直接出願をする方法と後述するマドリッド協定議定書(マドプロ)等の国際出願を利用する方法とがあります。

    商標もパリ条約に基づく優先権主張は可能ですが、主張期間は日本出願から6カ月以内で、特許の12カ月と比べると期間が短いので注意してください。

3. マドプロ出願

概要
「マドプロ」は「標章の国際登録に関するマドリッド協定に関する1989年6月27日にマドリッドで採択された議定書(protocol)」 の通称です。この制度を利用した出願を行う場合、日本国特許庁において既に登録商標を有しているか、商標出願を行っている必要があります。
メリット
  • 各国の出願手続だけでなく、現地代理人費用や翻訳費用が不要となり、手続きの簡素化、経費削減が可能
  • 審査国での審査期間が1年又は18カ月以内と保障される
  • 権利は単一で、登録後の更新や名義変更等は世界知的所有権機関(WIPO)に手続きをするのみでよい

日本国特許庁への提出日が原則として国際出願(登録)日とみなされ、国際出願は基礎となる日本出願の商標と同一なもののみが可能です。WIPOから通達を受けた指定国は1年又は18カ月以内に拒絶の通報をしない限り、国際出願日にその指定国においても登録されたものとみなされます。

海外商標権の有効期間は、国際出願(登録)日から10年間、更新後も10年間となります。

マドプロ出願と直接出願の違い マドプロ出願と直接出願の違い
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6. 海外知的財産に関する情報

1. 公的機関のサービス

工業所有権情報・研修館(INPIT)と日本貿易振興機構(ジェトロ)が各種サービスを提供しています。
また、東京都の中小企業は、東京都中小企業振興公社の東京都知的財産総合センターも利用可能です。 詳細はウェブサイトでご確認ください。

2. 助成金

海外へ事業展開する際に必要となる知的財産権の取得等には多額の費用がかかります。ジェトロ等には、費用の一部を助成する制度(中小企業等外国出願支援事業)が用意されています。制度内容や要件が変更される場合がありますので、ご利用の際は、ウェブサイトを確認するか、担当部署にお問い合わせください。

海外知的財産権に関するサービス

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