海外展開事例 ゼロイチ回想録

代表取締役 高橋 嘉陽氏

Orwood株式会社

代表取締役 高橋 嘉陽氏

所在地東京都

分野マーケティング支援

URLhttps://orwoodjapan.com/

<特別編>海外展開ゼロイチ企業を支援する事業者へのインタビュー

日本と海外をつなぐスタートアップ企業にインタビューしました。

Q.

御社は、日系中小企業の海外展開を支援するマーケティング事業を手掛けていると伺いました。事業を始めたきっかけを教えてください。

A.

私は以前、中国を代表するIT企業であるアリババに勤務し、大手を含む日系企業の中国市場開拓支援に従事していました。当時はダイナミックな仕事にやりがいを感じる一方、クライアントの反応が見えにくく手応えを感じづらい面もありました。こうした中、知人からの紹介で日系中小企業による中国市場進出をサポートする機会がありました。具体的には、現地市場の調査、小紅書(RED)をはじめとするSNSの活用、越境ECの構築・運用等に関するサポートです。勤務時のノウハウを活用できたことに加え、私自身が日中のハーフであることから、言語や文化的背景を理解できることも強みとなることを実感しました。また、クライアントからとても喜んでもらえたことに確実な手応えを得たこともきっかけとなり、2023年に創業しました。現在は、中国、台湾、シンガポール、マレーシア等の中華圏へ海外展開する日系中小企業へのマーケティング支援を主に手掛けています。

Q.

日系中小企業が中華圏へ進出するにあたり、留意しておくことはありますか?

A.

「スピード感」と「柔軟性」を持つことだと思います。特に中国は事業環境の変化が速く、判断・実務の双方における「スピード感」が求められます。また、日本で売れている商品・サービスでも、必ずしも海外で成功するとは限りません。こだわりを大事にしつつ、変化を恐れない「柔軟性」が重要であると考えています。中国の消費者の動向、中国の販売チャネルの特性とクライアントの商品の特性を踏まえ、どのようなマーケティングが効果的かをクライアントと共に考え、実効性のある支援になるように取り組んでいます。飲食店を例にみると、中国の消費者は日本と比べ、ボリュームや見た目のインパクトを重視する面があるため、食器の選定や盛り付けの工夫、メニューの見直し等も有効です。

Q.

マーケティング支援以外の事業もされているのですか?

A.

日系中小企業への海外マーケティング支援を手掛けるなかで、海外展開を担当する人材確保に関するニーズがあることが分かりました。海外向け販売が増えてくると、海外からの問い合わせに対応しなければなりませんが、英語や中国語のできるスタッフがいないといったクライアントからの相談がしばしばあります。私自身が清華大学に在籍する大学院生でもあり、当初は友人を個別に紹介したこともありましたが、より大局的な目線でみて国際的な人材の需給バランスの調整にビジネスチャンスがあると考え、新規事業として準備を進めているところです。クロスボーダーでの海外人材マッチングサービスはまだ少ない状況です。ミスマッチを防ぐため、インターン制度による試行期間を設けるといった工夫も欠かせません。当社としてはこの分野でのプラットフォームを立ち上げ、清華大学や北京大学といった中国の名門大学と連携しながら、職を求める優秀な海外人材と人材を求める日系企業との橋渡しをしていきたいと考えています。

Q.

海外の優秀な人材を受け入れるにあたり、日系企業側にはどのような課題が挙げられますか?

A.

優秀な海外人材を活かすための組織体制が十分に整っていないことが課題だと感じています。日本的な年功序列や終身雇用は、安定性や帰属意識を強化するメリットがありますが、海外の優秀な人材は 成果・スピード・流動性・自己実現を重視する傾向にあるため、認識にギャップが生じがちです。そのため、まずは経営者自らがビジョンを明確に示し、失敗を恐れずにスピードを優先する覚悟を持って事業に臨み、組織体制を変革していくことが求められると思います。

Q.

資金はどのように調達していますか?

A.

クロスボーダーマッチング事業はプラットフォームの開発に先行投資が必要であり、成長面ではどうしてもJカーブを描かざるを得ず、軌道に乗るまでの投資段階では赤字が続きます。したがって、安定収入を得られるマーケティング事業をキャッシュエンジンにするとともに、ベンチャーキャピタル(VC)からの出資によるエクイティ調達も行いました。また、マーケティング事業については毎月の返済原資を確保できるため、日本公庫から運転資金を借入するなど、デットで調達しています。

Q.

VCからの出資を受けることで、資金調達以外のメリットはありましたか?

A.

VCには会社の株主である立場から、新規事業へのアドバイスをしてもらっています。社長という立場はどうしても孤独になりがちですが、外部に協力者ができることで1人ではないのだという安心感を得られています。まさに、「心の株主」ともいえる存在だと思います。

Q.

事業の軸と今後の目標を教えてください。

A.

事業の軸は、「日本と海外をつなぐ」というもので、これが変わることはありません。実績は少ないのですが、中国企業が日本市場へ進出する際の支援も行っています。今後は、抖音(Tik Tok)のライブコマースで生鮮食品販売を行う中国企業の日本進出支援に取り組む予定もあります。ライブコマースは日本では流行らないと言われることもありますが、SNSの浸透等を背景として十分に成長の余地があるとみています。

また、クロスボーダーマッチング事業においては、日系中小企業の海外展開に関する多くの課題のうち、海外の優秀な人材の活用もその課題の一つであるとの捉え方をしています。今後は、「クロスボーダーで働くためのインフラを整備する」ことと、「市場での圧倒的なプラットフォーマーになる」ことを目標としています。日本のカルチャーやコンテンツはとても魅力的で、Z世代をはじめ、海外には日本で働いてみたいと考える多くのファンがいます。こうした機会を活かすべく、マーケット・人材の両面から日本と海外をつなぐことに全力を注いでいきたいと思っています。