海外展開事例 ゼロイチ回想録

株式会社九州築地 代表取締役 築地 加代子氏

株式会社九州築地

代表取締役 築地 加代子氏

所在地宮崎県

分野鮮魚卸売業

URLhttps://www.kyushu-tsukiji.co.jp/

進出形態輸出

進出地域タイ、香港、シンガポールほか

業種・取扱商品鮮魚

輸出の物流拠点まで物理的に距離があるというハンデにも負けず、地元宮崎の鮮魚をブランディングして海外マーケットへ乗り出している鮮魚卸企業です。HACCP(注1)認証取得にチャレンジしつつ、生産者とタッグを組みながら海外展開を加速されています。 (注1)HACCP(ハサップ)とは、食品等事業者自らが食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因(ハザード)を把握した上で、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程の中で、それらの危害要因を除去又は低減させるために特に重要な工程を管理し、製品の安全性を確保しようとする衛生管理の手法。

Q.

元々、日本国内のホテルなどに、宮崎で獲れたカンパチやタイといった鮮魚を卸していたと聞きました。海外にも販売を進めていこうと思ったきっかけを教えてください。

A.

私は平成22年に先代から事業を引き継ぎました。この会社の代表に就任した際、自社で最も多く取り扱っていたのは県外の養殖魚でしたので、地元宮崎に養殖をしている方がどれだけいるのかといろいろ回っていたところ、「宮崎県内でこんな素晴らしいお魚が養殖されているのか!」と感動する場面に数多く巡り合いました。生産者の方々はみなさん、養殖に対して本当に熱い思いを持たれていたので、市場にあまり出ていないお魚を我々が直取引で仕入れ、生産者と一緒にブランディングしていきながら県外に販売していきました。

このような取組みをしている中で、地元の漁場、養殖場や港が、元気がある場所として続いてほしいという思いが私自身の中で強く芽生えました。そのための一つの方策として、海外展開はすごく魅力的だなと思い、「宮崎の魚を世界に持っていくぞ!」と意気込み、最初は県の水産物海外展開PR施策を利用してタイへの輸出を開始しました。その後、香港やシンガポールなどへも展開し、現在の輸出の割合は10%程度となっています。また、現在は、台湾にも輸出をしていこうと動いています。

Q.

輸出を始めて大変だったことはありますか?また、それをどのように克服していきましたか?

A.

輸出を始める前から大変でした。海外市場に行く前に国内で勝負する必要があるからです。私たちが輸出に向けて準備を重ねているあいだ、国や県の政策の後押しもあり、海外へ輸出していこうという風潮がだんだん強くなっていきました。宮崎県の私たちだけでなく、日本中の水産物を取り扱う事業者が次々と海外へ向かうようになっていきました。このような状況で、宮崎県産のカンパチやタイを地域ブランドとしてアピールしても、海外のバイヤーには通じず、結局は「日本産の魚」というくくりでしか見られないことにショックを受けました。

その経験から、海外に行くためにはまずは外国の方にも説明できるような付加価値がないと、海外にまでは到達しないのだなと気付かされました。また、宮崎は、貿易商社などが多く存在する物流拠点や輸出の窓口の港湾(例えば、豊洲、関西や福岡)まで距離があります。鮮度だけの競争では不利なため、時間が経過しても変色を抑えられるブリなど、距離に負けないお魚をバイヤーに向けて提案しなければいけないということに至りました。また、それまで一般的なお魚を多く取り扱っていましたが、輸出向けの商品としてアカバナなどの他県では養殖してないお魚や、完全無投薬ヒラメなど健康志向を意識したお魚など、海外市場のニーズをよく考えてバイヤーへ提案するように変わりました。

Q.

単に鮮魚を輸出するのではなく、海外にも通用する価値を付加して、市場のニーズをつかんでいく必要があると考えられたのですね。実際、輸出に向けて私ども公庫のトライアル輸出(注2)を利用されました。利用してみていかがでしたか?

(注2)トライアル輸出とは、貿易商社のサポートのもと試験的な輸出を行うことで、輸出に関する手続きのノウハウ、海外での販路開拓に役立つ情報等を得ることを目的とした公庫の取組み。

A.

海外では、食品に対する嗜好や文化が日本と違う部分があると感じており、少し踏み込んだ海外現地の情報が欲しいと思っていたところ、公庫の職員の方からお声掛けいただいたので、トライアル輸出を申込しました。西米良サーモン、アカバナ、黄金いくらをシンガポールに輸出しましたが、貿易商社とのやり取りを通じて現地市場のニーズを把握できました。また、現地レストランのシェフの意見や、ECサイト上でのテスト販売を通じた一般消費者目線のアドバイスもいただきました。「規格として切り身があった方が消費者向けには適しているのではないか」といった、より現地の消費者が手に取りやすい商品にするための具体的なフィードバックをいただいたことに驚きました。

Q.

JETROのJapan Street(注3)も利用されたとお伺いしました。利用してみていかがだったでしょうか?

(注3)「Japan Street」はジェトロが招待した海外バイヤー(海外に販路を持つ国内のバイヤーを含む)専用のオンラインカタログサイト。出品者は、JETROから、バイヤーとの商談日程調整や無料の通訳手配、商談への同席などのサポートを受けられる。

A.

Japan Streetは、私たちの会社のような小さな企業でも、自分たちの商品を海外のバイヤーの方々に直接紹介できる場となっています。JETROにはこのような機会を提供してもらえたことがすごく嬉しかったです。一方で、必要事項は全て英語で登録しないといけないのが大変で、一つの商品を登録するのにすごく時間がかかりました。今は3つほど商品を登録しています。おかげさまで、Japan Streetに掲載したことによって、何件かお声がけをいただきました。もちろんうまくいかないこともありますが、気付きを得ることも多いです。アメリカのスーパーから「日本産のサーモンが欲しい」というお問い合わせをいただいたときもそうでした。お問い合わせ自体はよかったのですが、当社がまだHACCP認証を取得してない点が取引開始のネックとなりました。既にHACCP認証取得の必要性については感じていましたが、これが具体的に認証取得に向けて動き出すきっかけとなりました。

Q.

Japan Streetに出品してみて国際認証の重要性を再認識されたとのことですが、現在、認証取得についてはどのような状況ですか?

A.

宮崎の魚を世界に送り出そうと思って、生産者の方々と2年前から取り組み、2025年2月以降にHACCP認証を取得する予定です。併せて、競争力を高めるために、生産者の方々の、海外の市場で徐々に認知されてきているASC(注4)取得に協力しています。アメリカに関してはHACCP認証を取得した後で、それ以外の国に関しては生産者の方々のASC取得後を目標に本格的に輸出に取り組みたいと思っています。JETROには認証を取得次第、もう一度相談してみようと考えているところです。

(注4)ASC(Aquaculture Stewardship Council)認証とは、環境と社会に配慮した責任ある養殖により生産された水産物を対象とする国際認証。

Q.

認証を取得も目前でいよいよ本格的に輸出する体制が固まりつつある状態ですが、今後海外展開を考える中小企業に向けてコメントをお願いします!

A.

実際に挑戦してみて分かったことは、「海外にはこの商品!」というような感じで安易に決めてしまうのではなく、ブランドのコンセプトとかメッセージを現地の市場に合わせることが大切だということです。また、当初想定していた計画の修正を求められることが多く、状況に応じて戦略を見直す柔軟性を持つことが必要だと思います。加えて、海外の人でも日々のメールの返信や現地視察の際の対応などの一つ一つを丁寧に行うことで次の商談につながりますし、人対人の直接のコミュニケーションを通じて信頼関係を構築することは非常に大切だと思います。こういったことは、日本で生産者の方と一緒にこれまでやってきたことと全く変わらないのだと感じています。

これから海外展開に挑戦する企業の皆様には、海外には可能性が本当に広がっているので、新たなチャレンジをしながら日本の魅力を一緒に伝えていきましょう!と伝えたいです。