「自分の店を持ちたい」を継ぐスタで実現
そば店の譲受により独立 飲食業界でのキャリア活かす

名古屋の老舗そば店の継ぐスタが実現。飲食店初心者にはマネジメントが難しい席数60席の店舗を譲り受けたのは、元飲食店店長だった継ぐスタ希望者。既存の設備や環境を引き継げる点が、譲渡側と譲受側を引き合わせたメリットだった。

Story’s Point

  • 名古屋市瑞穂区で40年以上にわたり地元の味として愛されてきたそば処正衛(昭和58年創業)。店主の服部正巳氏は地元出身のUターン組。開店当初は小さなお店だったが、常連が増えて駅近に進出を果たした頃には店内席数60席の繁盛店に。しかし、気づくと70歳が近づき、老後を考える年代になっていた。後継者はなく閉店するにも費用がかかるため、日本公庫の事業承継マッチング支援にオープンネームで登録した。
  • 譲受側は、宮崎県出身の木村玲氏(現店主)。「将来は自分のお店を持ちたい」と飲食業界でキャリアを重ねていた。当時勤務していたそば店チェーンが名古屋に進出したことをきっかけに愛知県に移住。日本公庫との創業相談で継ぐスタに興味を持ち、事業承継マッチング支援に登録した。
  • 両者は、令和6年4月に事業譲渡契約。服部氏のお店は40年以上の歴史に幕を下ろし、事業を譲り受けた木村氏は、屋号を「蕎麦処三代目木村屋」に変えて新しいスタートを切った。

Company Information

蕎麦処三代目木村屋

そば処正衛(蕎麦処三代目木村屋に屋号変更)
所在地 愛知県名古屋市瑞穂区 創業 昭和58年11月 
業種 そば店
従業者数 14名

譲渡側:そば処正衛(店主:服部氏)
昭和58年に地元名古屋にUターンし開店。後継者不在で廃業を検討していたが、テナントを原状回復するには費用がかかるため、第三者承継を希望。その後、日本公庫の事業承継マッチング支援に登録し、後継者を探していた。

譲受側:継ぐスタ希望者 木村 玲氏
高校卒業後、飲食業界で長く勤務していたが、いずれは独立したいと考えていた。勤務していたそば店チェーンが名古屋に進出した際は、店長として家族と一緒に移り住む。移住後、日本公庫にて創業相談を実施。事業承継マッチング支援に登録し、継ぐスタに関心を寄せていた。

ーー事業譲渡が完了してしばらく経ちました。現在の状況や事業承継の感想をそれぞれお願いします。

譲受側:木村氏

令和6年4月に開店してから1年以上が経過しました。今回の譲り受けでは、「自分のお店と味を作っていきたい」との思いでスタートしましたが、お客さんに恵まれたと感謝しています。私たち夫婦でも話をするのですが、本当によくしてもらっています。そこに尽きると思っています。

譲受側:木村氏

譲渡側:服部氏

そば店の経営を連休なしで40年間続けてきたので、今は奥さん孝行をしています。月2~3回ほど一緒に旅行に行っています。また、私の趣味が落語なので、寄席や落語会を鑑賞するなど毎日を楽しく過ごしています。

譲渡側:服部氏

ーー今回の事業承継を考えた動機と経緯について教えてください。

譲渡側:服部氏

地元の名古屋で、そば処正衛を始めたのは29歳の時でした。そば粉やだしといった素材にこだわりをもって続けてきた甲斐もあって、開店当初は20席ほどの小さなお店でしたが、お客さんが少しずつ増え始めて、念願の駅近の物件への移転と店舗拡張が叶うなど、順調に営業することができたと思っています。私が日本公庫の事業承継マッチング支援に登録したのは、愛知県事業承継・引継ぎ支援センターの紹介です。できるだけ早く相手が見つかればと思い、オープンネームで登録しました。

譲受側:木村氏

私は飲食業界が好きで、将来は自分のお店を持ちたいという夢がありました。日本公庫とはコロナ禍前になりますが、福岡の居酒屋で働いていた時に創業の相談をしたことがありました。その後、宮崎を拠点とするそば店チェーンに転職しまして、その企業が名古屋に進出する際に移住したことが当地との縁になります。進出の際は店長を任されていましたが、店長であっても自分が行いたいことを実現するには限界を感じ、名古屋市内の日本公庫の支店に相談して事業承継マッチング支援に登録、継ぐスタに関心を持ちました。譲り受けられる飲食店がないか探していたところ、ホームページ内でオープンネームの案件である「そば処正衛」を見つけ、自宅からも近いのでぜひ会って話を聞いてみたいと日本公庫の担当者にお願いしました。夫婦そろって“そば好き”だったので問題なかったですね。

ーー事業譲渡の際の不安や課題を教えてください。

譲渡側:服部氏

譲渡条件として既存設備をそのまま引き継いでもらえる人を探していました。というのも、かつて店舗拡張の際に、隣接するテナントの壁をなくして60席を確保した経緯があるので、お店をやめるとなればテナントを原状回復しなければなりません。廃業する場合は、原状回復の費用がかかってしまいます。老後の不安もありますし、なるべく出費は抑えたい。私としては原状回復費用がかからない引継ぎを希望しましたが、譲り受ける側からすれば「初めて店を持つのに60席は広すぎる」となってしまいます。実際に木村さんにお会いするまでに何人かの候補者と交渉しましたが、そこがネックになっていました。後継者には、仕入れから調理方法まで教え込むつもりでいましたが、いざ未経験の人を前にすると不安を感じたこともあります。せっかく時間をかけて教えても「やっぱり辞めます」と言われても困りますしね。

譲受側:木村氏

初めてお店を訪れた際の第一印象ですが、広さに違和感はなく、この店で始めたいと思いました。設備をそのまま使うことができるので、設備費用を抑えることができるメリットの方が強かったですね。ただ、服部さんと店舗の話をするなかで、テナントの保証金が高額だったので、とても用意できないと思いました。改めてオーナー側に相談したところ、服部さんの時と比べて保証金を引き下げることができました。当初の保証金のままだと、引継ぎが難しいと感じていたので良かったです。

ーー第三者承継が実現した「決め手」をそれぞれ教えてください。

譲渡側:服部氏

木村さんの前にいくつか候補のお話はいただいていたのですが、そば店を含めて飲食店勤務が未経験の方がほとんどでした。未経験者の場合は一年間技術をお伝えしてから譲渡するつもりでしたが、木村さんの場合は飲食店勤務が豊富で座席数の多い大型店舗での店長経験もありました。未経験の人に教えるという心理的負担がないというのが大きかったですね。未経験でいきなり大きなお店を回すのはたいへんだと思います。

譲受側:木村氏

譲渡金は高額となりましたが、設備がそのまま使えたため、準備期間に間が空かず、いわゆる休業期間がなかったことが最も大きな利点でした。というのも、機械を一度止めてしまうと故障につながることが多いからです。そのため、休業期間を挟まずに譲り受けられる当店に魅力を感じました。お店を譲り受けた後、機械を更新した部分はありますが、ゼロから始めることを考えると良かったですね。服部さんが長年使っていたゆで釜は今も現役で活躍してもらっています。

譲受側:木村氏

ーー実際に事業を始めてからの課題は。

譲受側:木村氏

もう少し売上を上げたいというのが本音ですね。開店以来、おかげさまで売上は小幅ながらも前月を上回るペースで推移しています。来店客数は平日で1日平均70人と悪くはないのですが、創業計画の数字と比べると見劣りしています。年間を通してみると、夏の暑さや冬の寒さに応じてそばは人気のメニューなのですが、春や秋の季節は客足が鈍いですね。SNS映えするメニューを検討するなど、もっと工夫が必要だと感じています。

譲渡側:服部氏

確かに春や秋の季節は困りましたね。夏であればざるそばとか冷や麦を選ぶ人が圧倒的に多くなると思うのですが、春と秋はそのほかの選択肢が増えてしまうので、私がそば店をしていた時も客足が伸びずに困りましたね。

ーー出身地である宮崎のチキン南蛮をお店で提供するなどメニューも豊富ですね。

譲受側:木村氏

何種類になるのか数えたこともないのですが、50種類以上はあると思います。特にお昼どきは、お得なランチセットメニューを提供するようにしています。開店当初は品数も少なかったのか来店客数は伸びませんでしたが、値段とボリュームを意識したセットメニューを提供するようになって客足が大きく伸びましたね。そばをメインにミニ丼のセット、さらにサラダ、小鉢がついて1,000円ちょっとです。周りには学生さんも多いので、普通のそば店と比べて量を多めに盛りつけたり、ランチメニュー以外のそばは一人前の料金で麺の量2倍まで選べるようにしたり工夫しています。お客さんには値段以上の価値を感じてもらいたいです。日ごろから名古屋のそば店を食べ歩いて、食べ物などの提供の仕方を研究しています。当然、新メニューの開発も続けています。何が当たるか分かりませんからね。

ーー最後に第三者承継を検討されている人にメッセージをお願いします。

譲渡側:服部氏

日本公庫のサポートは非常に大きかったです。私はこういった交渉は苦手で、お店のパート・アルバイト募集でも店の前に張り紙を出すことくらいしかできない。今回の件でも、日本公庫の担当者の方には遠方から足しげく通ってサポートしてもらい、本当に感謝しています。個人事業主の高齢化が進むなかで、お店を辞めたくてもそれができない人が今後増えるのではないかと思います。そういう意味では区切りをつけることができたのはありがたかったです。

譲受側:木村氏

魅力を感じるとつい判断が先走ってしまいがちなので、一度冷静になって現状を見つめ直す機会を持つことが大切です。あとはいろんな専門家の考えや意見を聞くことですかね。日本公庫の担当者の方には、服部さんとの間に入ってもらっていろいろお手伝いしてもらいました。すごくありがたく感じました。

譲渡側:服部氏 譲受側:木村氏

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