発達障害がある人への支援をライフワークにする経営者が、後継者不在の業歴50年の縫製工場を引き継いだ。彼らの手先の器用さが縫製に活きるとのねらいから、第一歩を踏み出した。
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株式会社佐藤縫製工業 |
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譲渡側:株式会社佐藤縫製工業(代表:佐藤氏)
佐藤氏は後継者不在のため、70歳を過ぎた頃から第三者承継を模索。検討先は一時10社近くに及んだが、なかなか良縁にたどり着くことができなかった。
譲受側:株式会社Merry Land ホールディングス(代表:若林氏)
若林氏は発達障害の子供のための通信制高校を設立。子供たちの将来の自立を考え、就労継続支援の一環で働く場を提供したいとの目標があった。
譲受側:若林氏
異業種でもあり、全くの無知の状態でスタートしましたが、分からない点は佐藤会長から指導やアドバイスをいただき、現場の従業員さんからも都度指導してもらいながら、周囲に支えられて何とかここまで来ることができたというのが正直なところです。譲り受け当初から(通信制高校の理事長職との兼ね合いから)私は常駐できない形だったので、10年以上のキャリアがあるベテランの従業員にマネージャー職に就いてもらいました。仕事の管理や従業員への指導を含めたマネジメントなど、彼女に現場を回してもらっていて、本当に助かっています。ありがたいですね。
譲受側:若林氏
事業を譲り受けてから1年3ヵ月ほどが経過し、良いシナジーが出ていると実感しています。というのも、私は発達障害のある生徒のための通信制高校を経営しています。私自身、保育園を経営する両親のもとに育ったこともあり、子供の発達障害は身近なテーマでした。佐藤縫製工業に興味を持ったのも、そうした生徒たちの卒業後の進路や将来の仕事の選択肢として、縫製という仕事に可能性を感じたのがきっかけでした。就労継続支援の一環で佐藤縫製工業の技術や知識を正しく伝えることで、「私はこの道で生きていきたい」と思ってもらえる子が一人でも増えるように、という思いでスタートしました。現在、4人の卒業生(通所者)らが検品や仕上工程で活躍しています。本人たちからは「この仕事は楽しい」「働いてお金がもらえてうれしい」といった声があり、譲り受けて良かったと思っています。佐藤縫製工業からみてもたくさんの仕事を手伝ってもらえる戦力であり、何より会社として地域社会と共に生きていくという意味において、社会貢献になっていると感じています。
譲受側:若林氏
就労継続支援というのは、福祉的な支援を受けながら縫製の訓練を受けているというイメージを持ってもらえればと思います。通所者のなかには精神障害の人もいるので毎日通えないこともあります。1日5時間の開所時間すべて仕事ができるわけではありませんが、「仕事が楽しい」と言ってくれる子が増えてきているという実感があります。
譲受側:若林氏
発達障害の子供たちの就労継続支援のための通信制高校を運営するなかで、生徒たちの将来を考えた時に手に職をつける必要があるとずっと思っていました。手先の器用さが活きるよう、作物を栽培したり、藍染めによる染物製品を作ったり、家庭用ミシンを何台か購入して縫製にも挑戦してみたり、試行錯誤を続けていました。そのようななか、オープンネーム後継者募集イベントに佐藤縫製工業が登壇したとのニュースを見て、これだと思い、その日のうちに佐藤会長に面談を申し入れました。佐藤会長に初めてお会いした時は“ザ・仕事人”という印象でした。縫製業を50年以上営んでこられた貫禄のある雰囲気を感じましたし、いざ話題が仕事の話になると佐藤会長のこだわりや思いが伝わってきました。私も夢があって通信制高校を設立したこともあり、共感するところが多かったので、初対面にも関わらず時間を忘れて盛り上がってしまいました。
譲受側:若林氏
初回面談の後、数回にわたり交渉の場を持ちました。私自身、縫製業界のことを全く分からない状態だったので、佐藤会長の「私ができる限り教える」との言葉には力をもらいました。正式に株式譲渡が決まるまでの間、佐藤会長から業界知識や会社運営について、一つひとつ丁寧な指導をしていただきました。本当に感謝しています。従業員たちには正式に社長に就任してから個人面談を行って、お互いの理解を深めました。実は会社を譲り受けるのに先立って佐藤縫製工業の設立50周年のパーティーがあり、そこに司会者役で顔を出しました。私なりに従業員全員の顔が見たい、組織の雰囲気をもっと知りたいとの思いが強かったのかもしれません。そのおかげもあって、第三者承継後もすんなり組織に溶け込むことができたと感じています。従業員たちは薄々気がついていたのかもしれませんが(笑)。第三者承継後、取引業者へのあいさつは佐藤会長と2人で回りました。今回の第三者承継に際しては、事業を譲り受けるために持株会社「株式会社Merry Land ホールディングス」を立ち上げました。また、譲渡契約書の作成では、栃木県事業承継・引継ぎ支援センターの支援を受けました。佐藤会長に選んでもらえたのは、私自身の若さや、わずかながらではありますが経営者としての経験、何より私の夢について理解を示してくださったからだと思っています。佐藤会長の思いにしっかり応えていきたいです。
譲受側:若林氏
情報をキャッチするというところではインターネットを活用しながら、ホームページを新しくしたり、インスタグラムを開設したり自分なりに工夫しています。会社の数そのものが地域から減っていく縫製業界にあっても、地域にある一定数のニーズを着実に取り込んでいきたいです。今ある取引先のニーズにしっかり応えていくのはもちろん、目を外に向けて日本のみならず海外からのニーズにも“広い視点“をもって対応していきたいですね。
譲受側:若林氏
“ゼロイチ”で事業を始めるには莫大なお金がかかり、知ってもらうためにも時間が必要になります。私が通信制高校を設立したのは29歳の時でした。教育だけでなく福祉も絡んでいるので、県内の行政の方や学校の教員の方に理解してもらうのに時間がかかりました。譲り受ける側で考えると、先代が続けてきた事業を承継して発展させるので、ある意味“足し算”ということになりますが、もうひとつ“掛け算”という選択肢もあると思います。今回であれば福祉と縫製という掛け算になりますが、その可能性を追求していくと非常に面白い色が出るのではないかと感じています。