継ぐスタを志した現経営者が、業歴30年の自動車板金塗装工場を受け継いだ。現在は先代とともに技術者として業務に従事しながら、インターネットを活用して会社を発展させるため奮闘している。
左側(譲渡側):先代経営者 小林 正利氏
右側(譲受側):現経営者 佐野 智一氏
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ボディショップソレルナ |
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譲渡側:小林オート 小林 正利氏
板金塗装職人として修業した後、小林オートを創業。丁寧な仕事と魅力ある人柄が慕われ、多くの顧客を抱える。
譲受側:継ぐスタ希望者 佐野 智一氏
板金塗装工場や塗料メーカーでの勤務を経て、継ぐスタを検討。自分の経験やスキルを活かすことができる事業を探していた。
譲渡側:小林氏
車が好きでこの仕事を始め、他の会社で修業した後に独立しました。できるだけ長く続けたかったのですが、徐々に視力が低下してきて「この先、自分で納得のいく仕事ができなくなるのでは」と考えるようになりました。お客さまへ迷惑をかけないためにも、後継者は必要です。知人に声をかけてまわりましたが、引き受けてくれる人は見つかりませんでした。そんなときに融資でお世話になっている日本公庫から「事業承継マッチング支援」を紹介され、登録しました。
譲受側:佐野氏
私は板金塗装の会社に10年ほど勤務していた経験があります。その後、塗料メーカーに転職しました。当時は通勤時間に本をよく読んでいて、たまたま手に取ったビジネス書で、創業や継ぐスタという道があることを知ったんです。日本公庫のホームページでどんな会社が後継者を募集しているのか探してみたところ、「実名掲載譲渡案件」の特集で小林オートを見つけました。事業内容の具体的なイメージが湧き、自宅から通える距離だということも分かったのでお話ししてみようと思いました。
譲渡側:小林氏
社名を開示して後継者を募集していたんです。そのほうが手も挙がりやすいかなと考えました。取引先にも後継者を探していることは話していましたからね。他の方とも交渉しましたが、佐野さんは、「お客さまを大切にしたい」という私の思いに共感してくれたのが決め手になりました。お互いにビール好きだったので、すぐに意気投合しましたよね(笑)。
譲受側:佐野氏
「大切なお客さまに、納得のいく仕事を提供し続けたい」と、まだ現役で働いている段階で後継者を探し始めたという小林さんのプロ意識に胸を打たれました。また、板金塗装は「40代でも若手だ」と言われるほど奥が深い仕事です。この業界で経営者になれば、より多くの経験を積んで成長できると思い、事業承継を決意しました。
車が好きで30年前に事業を始めた小林さん
譲受側:佐野氏
事業承継後、私は塗装を、小林さんは板金を担当しています。車の色は1台1台微妙に違うので、色を合わせるには神経を使うのですが、経験豊富な小林さんがサポートしてくださるのでありがたいです。
譲渡側:小林氏
色を塗るのは一番大変。佐野さんが塗装に集中してもらえるよう、冷めるまでの時間を考えたり、塗りあがったものを組み立てたり、できる限りのサポートをしています。これまでより長い時間働いているくらいです(笑)。でも、身体は全然しんどくないんですよ。一番身体の負担になっていた塗装を佐野さんにお願いできますし、経営のことも考える必要がなくなって気が楽になりました。今は清々しく、楽しく仕事ができています。
譲受側:佐野氏
勤務者と経営者で何が一番違うかというと、板金塗装の実務だけではなく、経理などの会社を動かすための仕事もやらなければならないことですよね。いま、その苦労をひしひしと感じています。新しい取組みとしては、販路開拓のためにホームページを作成しました。塗装データを数値で管理することで、今後若い世代に技術を伝承するための準備もしていく予定です。小林さんが大切にしてきた会社を、さらに成長させていきたいですね。
譲渡側:小林氏
佐野さんなら大丈夫。私も、サポートすると言った以上、頑張ろうと思っています。
お互いビールが好きで、すぐに意気投合
修理や塗り替えなど多種多様にサービス展開
譲渡側
譲受側
譲渡側
小林オートを創業
譲渡側
板金塗装の道を選んだ理由は?
車が好きで、車に関わる仕事をしたいと師匠に弟子入り。板金も塗装もしっかり教えてもらいました。「丁寧にきっちりと仕上げる」というのは師匠の教えで、その仕事ぶりがお客さまに評価されてここまで来られたのだと思います。
譲受側
板金塗装工場で勤務
主に塗装部門を担当
譲受側
塗料メーカーに勤務
通勤時間に本を読む習慣ができ、事業を受け継いで創業するという選択肢を知る
譲渡側
日本公庫「事業承継マッチング支援」に登録
視力の低下により塗装が難しくなり、後継者探しを始める
譲受側
「事業承継マッチング支援」に登録
ホームページで小林オートの実名掲載情報を見て問い合わせ
譲渡側
譲受側の佐野さんと面談
計6回にわたり面談を実施
譲受側
譲渡側の小林さんと面談
休日を利用して小林オートに手伝いに行くようになる
譲受側
勤務していた会社を退職
小林オートの引継ぎ準備を行う
譲渡側
佐野さんと事業譲渡契約を締結
成約式の様子がテレビで放送される
譲受側
事業譲渡契約
譲渡側
事業承継後はボディショップソレルナで板金部門を担当
佐野さんが塗装に集中できるよう、朝早くからサポートを行う
譲受側
ボディショップソレルナをオープン
譲渡側
実名で後継者を募集した理由は?
最初は匿名で募集していたものの問い合わせが少なかったので、リスクも理解したうえで社名の開示を決めました。成約式の様子がニュースで流れた時には、沢山のお客さまから「テレビを見たよ!」という連絡をいただきました。
譲受側
継ぐスタについて、ご家族の反応は?
実はギリギリまで反対されていましたが、収支実績や今後の事業計画を交えて説明し、最終的には理解してもらえました。「やりたい」という熱意だけでなく、数字でも説明して理解を得ることが大切だと思います。
譲受側:佐野氏
事業選びの軸をあらかじめ持っていたことです。私は本で継ぐスタを知り、何か始めようと思ったのですが、まず「自分には何ができるだろうか」ということをしっかり考えました。自分の経験やスキルの棚卸ですね。そこで、やはり勤務経験に近い分野の板金塗装、自動車整備、中古車販売など車に関係した事業が良いだろうと考えました。また、社会的に必要で今後も残る仕事という観点も大事にしたいと思っていました。このような軸をあらかじめはっきりさせていたことで、運命のお相手が現れたときに、迷わず決断できたと思います。
設備や作業場を受け継げることも継ぐスタの魅力
譲受側:佐野氏
決算書等の開示や初回面談の設定などの段取りを日本公庫がしてくれたことはありがたかったです。決算書を見せてください、と直接切り出しにくいですからね。また、事業承継・引継ぎ支援センターの担当者からは、事業承継に必要な手続きや進捗管理などのサポートを受けました。不動産の賃貸借契約に予定よりも時間がかかって困った時にも、真摯に相談に乗っていただいたことで、着実に話を前に進めることができました。
承継後はホームページの構築やSNS配信にも注力
譲渡側:小林氏
何件か問い合わせをもらいましたが、既に別の会社をやっていて、その事業を成長させるために板金塗装も始めたいという方が多かったです。できれば私がやってきたように板金塗装をメイン事業としてやってくださる方のほうが、今までお付き合いしてきた大切なお客さまをしっかり引き継ぐことができるのかなと思いました。そんな時に佐野さんに出会い、「私が思い描くかたちで任せられそうだな」と感じたんです。面談後に、佐野さんが何度か手伝いに来てくれて、その仕事ぶりを見ていたら、これはもう任せて大丈夫だと思いました。
塗装の経験がある佐野さんに安心して事業譲渡
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マッチング支援担当者より 日本公庫 事業承継支援室 横井 一人 お二人は、最初のご面談から仕事に対して意気投合していました。小林さんの「お客さまを大切にしたい」という思いを、面談を重ねる過程で佐野さんがしっかりと受け止められたことがとても印象的です。今後のさらなる成長に向けた取組みも応援しています! |
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