静岡県で工業設備やインフラ設備に使用されるプラスチック製品の加工を行う大和化工機。
その後継者に名乗りを上げたのは、当時東京都で会社員をしていた静岡県出身の現経営者だった。現在は故郷の地で、ものづくりと経営に奮闘している。
譲受側:現経営者 西島 淳氏
![]() |
株式会社大和化工機 |
---|
譲渡側:株式会社大和化工機 先代経営者
プラスチック製品加工の経験はなかったが、先々代の義父が創業した会社を次世代につなぐため、サラリーマンを辞めて大和化工機に入社。以来7年間、経営を担う。
譲受側:継ぐスタ希望者 西島 淳氏
静岡県伊豆の国市出身。東京都に在住し、プラスチック製品加工の会社に勤務。昔からの夢だった創業を実現するため、継ぐスタを志す。
譲受側:西島氏
若い頃は美容師などいくつかの仕事を転々としていました。プラスチック製品加工の会社に入社したのは約20年前で、もともと手を動かすのが好きだったことから選んだ仕事です。未経験でしたが、ものづくりはとても楽しく、退職前は東京工場の課長を任されるまでになりました。
一方で私は「いつかは創業したい」という昔からの夢がありました。自分で手を動かしてものづくりに携わりたいとも思っていたので、管理職になってから、改めて独立を考えるようになりました。しかし、ゼロから創業するのはリスクが大きいという不安もありましたね。そんなときに、日本公庫のホームページで「事業を受け継いで経営者になる選択肢もある」と知りました。設備も既にあり、受注が安定している事業を受け継ぐことができることはメリットだと感じたんです。早速、「事業承継マッチング支援」に登録しました。
お相手に求める条件は、今の仕事と同業の会社としていました。規模の大きい会社は私のような創業者ではなく、事業者への事業承継を希望している先が多かったですね。最初は東京都で探したのですがご縁がなく、将来的に移住する可能性も考えて私の出身地である静岡県でも探したところ、大和化工機が見つかったのです。
秘密保持誓約書を交わしたあとに決算書等の資料を見せてもらい、先代とお話ししたいと思ったので、静岡県まで車を運転して会いに行きました。初回の面談では、後継者を探すことになった経緯を聞いたり、工場を見せていただいたり、ということをしましたね。先代の出身大学が私の自宅のすぐそばだったり、先々代と私の出身地が近かったりと、共通点も多くて意気投合しました。
大型の旋盤加工機
譲受側:西島氏
初回の面談のあとは、休日を利用して毎週工場に通いました。この事業を譲受してよいかどうか、専門家の助言も参考になると思いますが、最終的に判断するのは自分自身で、自己責任です。実際の現場にできるだけ立って、どういう仕事の流れになっているのか、受注状況はどうなのか、一つ一つ自分の目で確認することが大事だと思います。業歴が長い分、検討すべき課題もたくさんありましたが、約3ヵ月通い続けて、この事業を理解できたなと感じたので、譲受を決めました。
事業承継後は、まず設備投資を行いました。既存の設備だけでは生産性が上がらないことが分かっていたからです。日本公庫から融資を受け、資金を調達しました。
また、収益を改善するために、既存のお客さまに対して単価交渉を行いました。経営者が交代していきなりの単価交渉ですから、最初は受注も減りました。一方で「沼津で頑張っている人を応援したい」と無償で半導体部品の溶接や曲げ加工を教えてくれるお客さまもいます。そのお客さまからはありがたいことに、新規の受注をいただくこともできました。
半年たった現在では、事業を軌道に乗せることができたと感じています。今後は半導体や医療の分野で販路を開拓していくことを考えています。若い従業員も雇用して、事業を次世代につなげていきたいです。そして将来は、沼津を盛り上げるためにも新たな事業承継にチャレンジしたいですね。
直径800ミリ以上の加工製品
事業承継後に設備投資して導入したマシン
譲渡側
譲受側
譲渡側
株式会社大和化工機を創業
創業者である先々代はプラスチック製品加工の優れた技術者。
工業用タンクやインフラ設備などの加工を手がける
譲受側
プラスチック製品加工の会社に入社
ものづくりの楽しさに目覚め、いつか創業したいと考えるように
譲渡側
先々代の体調不良により、先代が代表に就任
先代はプラスチック製品の加工経験がなかったため、
経験のある後継者を探すことに
譲受側
課長職として従事
譲渡側
三島信用金庫の紹介で、
日本公庫「事業承継マッチング支援」に登録
譲受側
「事業承継マッチング支援」に登録
譲渡側
譲受側の西島さんと面談
譲受側
先代と面談
休日を利用して毎週会社を訪れ、工場を手伝いながら、事業承継の検討を進める
譲渡側
西島さんと株式譲渡契約を締結
譲受側
株式譲渡契約
譲受側
新体制で事業を開始
先々代と1ヵ月間一緒に仕事をして、手作業での溶接、接着、曲げ加工など新しい技術を教わる
譲受側
先代からどのような言葉をかけられた?
先代は10年ほど後継者を探していたのですが、なかなか見つからなかったそうです。私が事業承継をしたことで、創業者である先々代に後継者を見せることができてよかったという話をしていました。先代からも先々代からも感謝されてうれしかったです。
譲受側:西島氏
経営者になるという長年の夢が叶ったことです。設備も既にありますし、優れた技術力を持つ先々代と1ヵ月ほど一緒に仕事をして技術を教えてもらうこともできました。既存のお客さまやベテランの従業員がいることにも支えられています。全て自分で決めて、仕事が進んでいくというのは会社勤めでは体験できません。お客さまに提供した商品がどこでどのように使われているか自分の目で見て、次に求められるものを考えて新しい提案をする。そうやってどんどん良い仕事ができるというのがすごく面白いですね。
設備や作業場をそのまま受け継げることも魅力
譲受側:西島氏
何より決め手になったのは先代から「自由にやっていい」と言われたことです。大和化工機は製品のワークサイズが300ミリ以上の製品を加工しています。こうした大きなサイズに対応するには、専用の機械や技術が必要で、他社にはなかなかできません。一方で、切削加工には正解がなく、やり方を変えることで新たな発見があると考えています。加工方法を全く変えないでほしい、と言われるのは嫌だったんです。歴史も技術もある会社で、新しいチャレンジができるというのがポイントでした。
先代と自分の「経営イメージ」の一致が大事
譲受側:西島氏
私はものづくりが好きなのですが、勤務時代は管理職として品質管理や教育などの業務が中心。創業を検討した理由の一つに「自分で手を動かしたい」という思いもありました。継ぐスタにより、それが実現できていることは幸せです。しかし経営者になってみて、「優秀な技術者を育てなければ、会社を成長させることができない」とも考えるようになりました。これからは組織としての技術力向上に取り組んでいきたいと考えています。
課題はものづくりと会社経営の両立
![]() |
マッチング支援担当者より 日本公庫 事業承継支援室 青山 葉月 西島さんが初回の面談で「もっと、ものづくりがしたい」と力強く話されていたのをよく覚えています。現場畑の後継者を探していた大和化工機にピッタリのお相手だと、先代も頼もしく感じていらっしゃいました。これから、沼津をどんどん盛り上げていってくださいね! |
---|