精肉業界で長年勤務していた現経営者は、創業の夢を叶えるため、継ぐスタを検討していた。
日本公庫の紹介で、ジビエやラム肉など独自の品揃えやサービスに定評がある地域密着型の精肉店と出会い、自分の思い描いたとおりの店舗だと事業承継を決意。妻とともに経営の一歩を踏み出した。
左側(譲渡側):先代経営者 木村 眞次氏
右側(譲受側):現経営者 小林 親功氏
![]() |
こばやし精肉店 |
---|
譲渡側:肉の木村屋 木村 眞次氏
高校生の時に精肉店でアルバイトしたことがきっかけで、精肉業界に飛び込む。お客さまへの接客を重視したいという思いから創業。
譲受側:継ぐスタ希望者 小林 親功氏
約27年間、精肉業界で勤務。自分の店を持ちたいという目標を叶えるため、継ぐスタの検討を始める。
譲渡側:木村氏
もともとは精肉業界で会社員として働いていました。「地域で愛されるお肉屋さんを作りたい」という思いから、15年前に肉の木村屋を創業しました。ニッチな要望にも応えられる品揃えとお客さまの要望に柔軟に応える小回りの良さが評価されて経営は順調でした。しかし、数年前から私は腱鞘炎と関節炎に悩まされるようになりました。以前は1日に100kgの肉をさばいていたのですが、その半分ほどに落ちてしまったのです。このままではお客さまの要望に応えきれないと思い、後継者探しを始めました。
譲受側:小林氏
私はスーパーの精肉売り場で勤務していましたが、いずれは自分の店を持ちたいという目標がありました。親戚が経営していたスーパーの後を継がないかと誘われたこともありましたが、精肉の道を究めることにこだわりました。しかし、妻は幼い子どもを3人抱えてゼロから創業することを不安がっていました。「何か道はないか」と模索していた時に、日本公庫のホームページで事業承継のことを知り、「事業承継マッチング支援」に登録しました。
譲渡側:木村氏
私の場合は、最初は取引先に後を継いでくれそうな人を紹介してくれるよう頼みました。ところが狭い世界なので人を引き抜くようなことはできないと断られてしまったのです。そこで、いつもお世話になっていた熊本市託麻商工会の経営指導員の方に相談したところ、日本公庫の「事業承継マッチング支援」を紹介してくれました。とはいえ、精肉のような特殊な業界では、なかなかお相手が見つからないだろうと思っていたんです。ところが、小林さんを紹介され、初めてお会いしたその日に「この人に譲ろう」と心が決まりました。精肉業界は職人気質の人が多く、方向性が合わないことがよくあります。小林さんとはビジョンが一緒で、まさに奇跡の出会いだったと思います。
譲受側:小林氏
お肉屋さんというと、冷蔵ケースを間においてお客さまとやり取りするイメージがありますが、私はそれをやりたくありませんでした。お客さまとコミュニケーションを取って、関係を築いていく店を作りたかったのです。初めて肉の木村屋を訪れた時、理想のお店だと思いました。
冷蔵ケースを挟んだ対面販売ではなくスーパーのような雰囲気の売り場
譲渡側:木村氏
新しいお店がオープンした時には私も手伝いに行きましたが、お店に人が入りきらなくて外に30人ほど並ぶ状態が続いていましたよね。若い社長に代わることになって、お客さまの期待も大きかったと思います。
譲受側:小林氏
木村さんから受け継いだお客さまを大切にすることに加え、新規のお客さまも開拓していこうと考えています。店をオープンしてからSNSを始めたところ、「投稿を見て、お店に来ました」というお客さまも増えてきてうれしいです。
譲渡側:木村氏
小林さんはすごく生き生きと働いているように見えます。奥さまの麻耶さんもお客さまとのコミュニケーションが上手で、温かい接客をされていますよね。
譲受側:小林氏
大変ではありますが、楽しいですね。自分で考えて実践して、成果が出たらうれしいですし、うまくいかないときは新しいことをまた考えてやっていこうと切り替えています。妻も初めての経験なので大変だと思うのですが、持ち前の性格で一生懸命やってくれています。二人で頑張って、お客さまの期待に応えたいですね。
鹿や猪などのジビエも販売
奥さまが毎日手書きするウェルカムボード
譲渡側
譲受側
譲渡側
食肉解体場や精肉卸・小売の会社に勤務
譲受側
精肉の卸会社やスーパーの精肉部門で勤務
譲渡側
肉の木村屋を創業
オススメの調理法を紹介したり、
小分け販売などの要望に応えたりという丁寧な接客が評判
譲渡側
熊本市託麻商工会の紹介で、
日本公庫「事業承継マッチング支援」に登録
後継者候補5先と交渉するも、木村さんの希望には合わず
譲受側
「事業承継マッチング支援」に登録
譲渡側
譲受側の小林さんと面談
譲受側
譲渡側の木村さんと面談
事業承継・引継ぎ支援センターの支援を受け、事業譲渡契約の内容を調整
譲渡側
小林さんと事業譲渡契約を締結
譲受側
事業譲渡契約
調印式の様子がテレビで放送される
譲渡側
問屋や常連のお客さまを小林さんに引き継ぐ準備を開始
譲受側
こばやし精肉店をオープン
譲渡側
事業承継後の過ごし方は?
若いころから花が大好きで、フラワーコーディネーターの資格を持っています。結婚式場にブーケを提供したこともあるんですよ。今は自宅の庭でガーデニングに没頭しています。とても充実した毎日です。
譲受側
事業承継後の働き方は?
私には子どもが3人いて、上が中学校3年生、下が小学校6年生の双子です。子どもたちを不安にさせないよう、妻と話し合って、今までどおり家族の時間を持つことは心がけています。店をオープンしてから、働く時間の長さは変わりませんが、時間の融通は利くようになったと思います。
譲受側:小林氏
創業するにあたっての不安を解消したうえで、自分の店を持てたことです。精肉店を営むのに必要な、店舗や設備への投資が不要であり、すでにお店に固定客がいるということは、家族にとっても安心できる材料でした。事業承継でなければ、妻の理解を得ることはできなかったと思います。基盤がすでにあるからこそ、自分のやりたいことに思い切って挑戦できる喜びを感じています。
大人気の手作りハンバーグ
譲受側:小林氏
創業や事業承継に関する手続きは、今まで経験したことがなかったので、専門機関のサポートは非常に重要でした。日本公庫には木村さんの紹介と事業の譲受に必要となる資金の融資を、事業承継・引継ぎ支援センターには契約書の作成を、商工会には融資に必要な創業計画書の作成と補助金申請の支援をしてもらいました。各機関のサポートがなかったら、継ぐスタを決断しても、それを実現するまでにものすごく時間がかかったと思います。分からないことは電話で聞けば教えてくれるので、心強い存在でした。
朝から夕方までずっと肉を切っているほど、多くのお客さまが来店することも
譲渡側:木村氏
後継者に求める条件は3つありました。「精肉の仕事の経験があること」「子ども食堂への肉の寄付を継続すること」「家族で店を営むこと」です。特に3つ目の家族経営は、個人で店を運営するために非常に重要です。最も信頼できるのは家族だと私は考えていますし、お客さまにリーズナブルな価格で提供するには、人件費を抑える必要があるためです。多くの問い合わせをいただきましたが、こうした条件がなかなか折り合えませんでした。小林さんが手を挙げてくれた時は「理想の人が来た!」と喜びました。
奥さまと二人三脚の家族経営
![]() |
マッチング支援担当者より 日本公庫 事業承継支援室 山口 直生 初回の面談直後に木村さんがおっしゃった「小林さん以上に後継者として理想的な人はいないと思う!」という言葉が非常に印象的です。理想の方をご紹介できたこと、大切にされてきた事業や思いを小林さんにつなぐことができたこと、大変うれしく思います。 |
---|