洋服のお直しを手掛ける「エトワール羽村店」を同業種である「株式会社リラヴォーグ」が第三者承継。地域に愛される店を維持しながら、縫製技術の承継を進めている。
エトワール羽村店 |
譲渡側:エトワール羽村店(代表:新井氏)
平成8年に創業。20年以上の間、腕利きの技術者を抱えるお直し屋さんとして地域に愛されてきた。4年ほど前から第三者承継を希望し、後継希望者との交渉を続けてきた。
譲受側:株式会社リラヴォーグ(代表:張替氏)
令和3年に事業承継で張替氏が代表に就任。衣服のお直しのほか、フルオーダーやセミオーダーでの衣装制作も行っている。事業拡大のため、希少な縫製技術者を増やす手段を検討していた。
譲渡側:新井氏
私は、この洋服お直しの商売を始めて20年以上になります。開店した当時は、この辺りに同業のお店はあまりなくて、何とかやっていけるんじゃないかと考えました。
私自身が技術を持っていたわけではないので、縫製の技術を持った人を雇用しました。開業当初は知名度もなくて売上も少なく苦しかったですが、今では簡単なお直しはその日中に仕上がる仕事の早さと丁寧な聞き取りが好評で、多くの常連さんに支えていただいています。
譲受側:張替氏
私は服飾系の専門学校を卒業後、洋服お直しのお店で従業員として働いていました。令和2年に独立して、個人でお直しの事業を始めました。令和3年に昔からお世話になっていた株式会社リラヴォーグの代表者から会社を譲り受け、法人の代表者となりました。
事業内容は衣装制作や、個人でやっていらっしゃるアパレルブランドさんの洋服の生産を小ロットからお引き受けしています。
譲渡側:新井氏
私には息子がいるので、家族へ継ぐことも考えなくはなかったのですが、息子本人に店を継ぐ意思がなかったので早々に切り替えて、誰かいい人がいないかと長年考えていました。事業としては十分成り立っていましたので、廃業は考えていなかったんです。お客さまからも、お店が無くなると困るという声をいただいていましたし、お客さまの支えがあって続けてこられたお店ですからね。
日本公庫を紹介してくださったのは、以前からお世話になっていた羽村市商工会の方でした。それまでにも、借入が必要であったり売上が減ったときだったり、はたまた経営指導だったりと、しばしば商工会さんで相談に乗っていただいていました。あるとき、お話しする中で後継者がいるかという話になり、いないと答えたところ、日本公庫の事業承継マッチング支援を紹介いただき、令和3年に登録しました。
譲渡側:新井氏
張替さんに会うまでも、問い合わせはいろいろあったんですよ。直接交渉されたこともありましたし、M&A仲介会社からのお話も度々ありました。大手のお直し業務のチェーンからお声がかかったこともありましたね。アパレルで長く経営されていた方とは、契約寸前まで進んだこともありましたが、結局成立はしなかったんです。その後も日本公庫の後継者募集イベントに参加するなど、承継先を探し続けていました。
譲受側:押田氏
リラヴォーグでは、縫製事業を拡大するために縫製の技術者を探していたのですが、大変苦戦していました。技術を持っている人をスカウトすることはもちろん、技術者をイチから育てることも非常に時間がかかるため、難易度が高いんですよね。そんな時に、たまたま日本公庫の事業承継マッチング支援のホームページで、お直しのお店であるエトワールさんの情報を見かけました。
譲受側:張替氏
長年の経験のある技術者が勤務を継続する形での承継をご希望ということで、こちらとしても希望していたとおりでした。立地が当社とも近く、事業自体も好調、しっかり縫える技術者がいるというところがポイントでしたね。
譲受側:張替氏
事業承継の経験は1度ありますが、今回は初対面の方との交渉になるので、まったく新しいことに臨む気持ちでした。当社が承継することを、新井さんがどう感じていらっしゃるかが気がかりで、面談の当日まで緊張しましたね。私自身の経験や経緯についてご理解がいただけるか、従業員さんのことも含めてどうしたら安心していただけるか、いろいろ悩みました。
譲渡側:新井氏
後継者を探していることは、従業員さんに話をしていました。不安に思うのは当然だと思うんですよね。張替さんとお話しする中で決まってきた、店の名前を変えないこと、勤務時間や賃金も変わらないことをお話しできたので、従業員さんとしても一安心できた部分はあったと思います。契約前に直接、従業員さんと張替さんが面談できたのも良かったですね。
譲受側:張替氏
従業員さんと面談させていただいて、同じお仕事をしているということもあり、親近感を持っていただけたようでした。私たちの話にも耳を傾けていただけましたし、考えている心配事もお聞かせいただくことができて、事前にこうした機会が得られたのはありがたかったです。
従業員さんからすると、オーナーが変わることでお仕事の中身がガラッと変わり、やりにくい環境になる可能性もお考えだったろうと思います。環境が変わることで生じる仕事のやりづらさやお客さまへの影響について、私の考えをどう伝えようかな、安心していただけるように伝えられたらいいな、と思っていました。
譲渡側:新井氏
張替さんは、同じ業種で洋服直しをやっていたので、「この人だったら引き継いでも大丈夫」という安心感がありました。特に従業員3名の今後について、うちでもう十数年も勤めてくれた人たちですから、雇用を守っていただけることは大きかったですね。
譲受側:張替氏
決断に迷うことは正直ありませんでしたね。エトワールさんは地域との関係もお客さまとの関係も非常に良くて、知れば知るほど尊敬の気持ちが湧きました。
契約までの相談事は、その都度日本公庫にお世話になり、大変ありがたかったです。私たちの考えややりたいことをお話しして、実務の面でも心構えの面でも、ご担当の方には非常に親身に対応いただきました。ありがとうございました。
譲受側:押田氏
私が見るのは主に経営面や財務面になりますが、その点でも今回の日本公庫のサービスはありがたかったです。承継の手続きの一つである譲受資金の融資について、日本公庫で借入申込ができるというのが大きかったですね。承継に必要な手続きが一気通貫でできました。
譲受側:張替氏
堅実に営業されている店舗の引継ぎだったので、私たちが何か手を出すよりも教えてもらうことが多いくらいですね。今は週に1、2回顔を出していますが、もっとエトワールさんの技術や営業スタイルを私自身も学んでいきたいです。
店名も変わっていないので、お客さまの中には新しい人が入ったかな、くらいにしか気付いていない方もいるかもしれませんね。従業員さんがしっかりされているので、常連さんがいらっしゃったときに、新しいオーナーですと紹介してもらうことがあるくらいです。基本は従業員さんとお客さまのつながりですし、その点では何も変化はしていないので、今までの経営の延長上にある感じですね。
譲受側:張替氏
技術者の育成は、引き続き大きな課題となっています。お客さまが当社と他社を比較したときに、一番重視される点だと思うんですね。今後両方の事業を経営していく上で考えたいのが、全体での技術力の向上・若い世代への技術継承がまず一つ。あとは、エトワールさんは非常に地域と密接にかかわっているので、逆にリラヴォーグで提供しているセミオーダーなどのサービスをもう少しアピールして、二つの事業をお互いにうまく活用していければと思います。
お直しのサービスについても、「ボタンの縫い付け一つから依頼できる」ことも意外と知られていなかったりもするんですよね。私たちが提供している様々なサービスを、より地域の方に知っていただけるよう、お伝えしていきたいと思います。
譲渡側:新井氏
今日の張替さんのお話を聞いていて、大変安心しました。お店の名前も変えずに、地域のお客さまに対してこれまでと変わらずご利用いただけるようにしてもらえて、張替さんに承継できて良かったと思っています。
譲受側:張替氏
第三者承継について、交渉や手続きの進め方をご存知の方はまれだろうと思います。日本公庫の担当者から最初に流れをご説明いただき、途中で感じる疑問などもその都度サポートいただきました。メールで気軽に相談できたのがありがたかったですね。一つ一つ理解して安心することで、次に進むことができました。
引き継ぐことをお考えの方には、ぜひ最初の一歩を踏み出すことを大切にしていただきたいと思います。私も、やってみないと分からないことがたくさんありました。この仕事でうまくいくか、不安もたくさんあると思うのですが、事業承継は経験者のお声を自分の糧にでき、上手くいっている事業を引き継ぐことができるので、一から立ち上げるよりも少し心が楽だと思います。興味がある分野で後継者を探しているお話があれば、ぜひ一歩を踏み出すきっかけにしてもらいたいですね。