事業承継マッチング支援

40年の信頼関係と工場・設備を引き継ぎ
家具職人としての独立の夢が実現

昭和から続く大分県の家具製造「田中建装」が次世代に承継された。引き継いだ田中大地氏は、開始早々から多数の受注で忙しい毎日を送っている。大地氏の独立が実現するきっかけになった事業承継の経緯について、お話を伺った。

Story’s Point

  • 田中建装の代表・田中建次氏が、高齢のため引退を決意。工場の設備を譲りたいと考えて由布市商工会に相談し、令和2年に大分県事業承継・引継ぎ支援センターに登録。候補者と面談を行うが最終合意には至らず、令和4年に日本公庫の事業承継マッチング支援にも登録。
  • 福岡の木工所に勤務していた田中大地氏が、夫婦で帰郷のため、地元大分での仕事探しを決意。日本公庫のホームページで、偶然、事業承継マッチング支援を知り、条件に合う田中建装を見つけて令和4年11月に問い合わせを行った。
  • 令和5年1月から、3回の面談を実施する中で大地氏の独立の意志が固まり、事業承継・引継ぎ支援センターと日本公庫のサポートを受け、5月に事業譲渡契約を締結。「田中木工」という新たな屋号で事業を開始する。
  • 大地氏は、日本公庫の融資や商工会からサポートを受け県内の補助金等を活用して設備投資を実施。お客様や仕入先なども引き継いだことで順調に事業が進み出し、受注が拡大している。
左側(譲渡側):建次氏 右側(譲受側):大地氏

Company Information

株式会社熔工社

田中建装(田中木工)
所在地 大分県由布市 創業 昭和56年 
業種 家具製造業
従業員数 0名

譲渡側:田中建次氏
昭和56年創業。建築会社やデザイン事務所から、主に店舗・事務所用の木工家具を受注し、オーダーメイドで製造・販売・設置までを行う家具製造業。40年以上の長きに渡りお客様や仕入先、商工会との信頼関係を築き、事業を発展させてきた。

譲受側:田中大地氏
家具職人に憧れて、職業訓練校で家具製造の技術と知識を習得。その後、福岡県内の木工所に勤務し、店舗や住宅、クリニック等に向けた木製家具の製造を約10年経験。地元大分への帰郷のため、大分で木工関係の仕事探しを進め、事業承継で独立を果たした。

ーー事業承継・M&Aをしようと思ったきっかけを教えてください。

譲渡側:建次氏

息子と一緒に木工所を運営してきて、事業も引き継ぐ予定でいましたが、引き継ぎの手続きを進めていた時に病気で亡くなってしまい、私自身も高齢のため引退を決めました。ただ、工場に木工用の機械があるので、せっかくなら誰か良い人に使ってもらいたいと思いました。そこで、由布市商工会に事業承継について相談したことがきっかけです。

譲渡側:建次氏

譲受側:大地氏

私は元々、事業承継で独立することは全く頭にありませんでした。夫婦で帰郷のため、それまで勤務していた福岡の木工所を辞めて地元の大分に戻り、県内の木工所で働くつもりでいました。大分での仕事探しを相談した知人から、「もし独立の可能性があるなら今のうちから創業計画書を書いておくといい」というアドバイスをもらい、日本公庫のホームページで書式をダウンロードして書き方を調べていた時に、偶然、事業承継マッチング支援のページを見つけたんです。「木工なんて特殊な仕事だし、掲載されてないだろうな」と思いながらも軽い気持ちで検索してみたところ、九州で2件ヒットして、そこで初めて事業承継で独立することに興味を持ち始めました。
周りにも独立した知り合いがいますが、一から場所を探し、機械を揃え、お客様を新規開拓して、と、なかなか大変そうです。事業承継なら場所も機械もお客様も揃った状態で事業をスタートできると思い、日本公庫の事業承継マッチング支援に登録して問い合わせました。

譲受側:大地氏

ーー候補者探しはどのように進めましたか?

譲渡側:建次氏

由布市商工会の紹介で事業承継相談会に参加し、大分県事業承継・引継ぎ支援センターに取次いでもらいました。お1人の方を紹介してもらいましたが、その方は木工の経験がなく、話は進みませんでした。その後、由布市商工会から日本公庫の事業承継マッチング支援を紹介してもらって登録したところ、日本公庫からも候補者の紹介がありました。それが大地さんです。木工所での勤務経験もあり、大分に移住予定と聞き、会ってみたいと思いました。

ーー田中建装を選んだ理由を教えてください。

譲受側:大地氏

ヒットした2件のうち、1件は大分ではなかったので、候補から外しました。もう1件が大分だったので、日本公庫に問い合わせてみたところ、場所も事業内容も私の希望する条件と一致していたため面談を希望しました。

ーー面談をしてみて、お互いの印象はいかがでしたか?

譲渡側:建次氏

初回の面談時から印象は良かったですよ。工場を見学してもらった後に事務所でお話をした時にも、同業者ならではの雰囲気というのでしょうか。通じるものがありました。

譲受側:大地氏

工場を見学した時に、パネルソーやプレス機など一通り必要な機械が揃っているのを見て安心しました。どれか一つがなくても成り立たないものなので。建次さんも優しい方で、緊張している私に、事業内容について詳しく教えてくれました。その後、希望する引き継ぎのタイミングやお得意先、仕入先などについて質問させてもらったことを覚えています。
ただ、その時はまだ独立を完全に決めたわけではなく、どちらかというと就職の方に気持ちが傾いていたんです。建次さんが最初の面談時に「何かあればいつでも見においで」と言ってくださったので、悩んだ末にもう一度工場を見学しようと思い、1ヵ月ほど経った頃に電話をして、訪問しました。それでもまだ決心がつかず、また1ヵ月後に訪問をして、少しずつ気持ちが固まっていきました。

工場内の機械

ーー譲渡、譲受を決意した決め手を教えてください。

譲受側:大地氏

最初は、独立するにしてもまずは大分の会社で何年か働いてからの方がいいだろうと思っていました。でも、ここには工場もあるし機械もある。お客様も引き継いでくださるという話だったので、新規で創業するよりはリスクはかなり低く抑えられます。それに家具製造という職が特殊なので、今回のように大分でピッタリの案件がこの先見つかるとも限りません。
ここで独立しなければきっと一生独立できないと思い、挑戦してみようと思いました。

譲渡側:建次氏

私は、最初から大地さんなら大丈夫だと思っていました。見学に来られた際に機械の扱いに慣れていることが分かりましたし、お話をする中で仕事への熱意も感じられました。

ーー交渉する上で、お相手に求めた条件はありますか?

譲渡側:建次氏

私の方から注文したことは何もありません。もともと、事業を残すことではなく機械を使ってもらうことが目的だったので、屋号にも特にこだわりはなく、自由に変えていいよ、と伝えました。お客様も仕入先も紹介するよ、という話もしました。

譲受側:大地氏

私にとっては、お客様を紹介してくださるという点は独立を決心する決め手の一つでもありました。実際に、今は既存のお客様が新しいお客様を紹介してくださることも多く、本当に助かっています。

左側(譲渡側):建次氏 右側(譲受側):大地氏

ーー引き継ぎはどのように行いましたか?

譲渡側:建次氏

約3ヵ月間、一緒に工場で仕事をしました。大地さんもプロですから、技術的なことを私から伝えるようなことはありませんでしたが、その頃大地さんは大分に帰ってきて間がなく、仕入先がどこにあるかもまだ知らなかったので、あちこち一緒に紹介して回りましたね。お客様に「これからお願いします」と挨拶するとみなさん喜んでくださいました。

譲受側:大地氏

発注者が建次さんの名前から私に変わるので、仕入先の挨拶まわりを一緒にしていただいたことは大きかったです。最近は材料屋さんも人手不足で、新しい顧客を受け入れないところも増えているそうなんです。建次さんが材料屋さんと信頼関係を築いてくれていたおかげで引き継ぎの挨拶の流れでそのままスムーズに取引を継続できました。

譲渡側:建次氏

紹介して引き継いだ後もその関係性が途切れないということは、相手の方も、大地さんに期待してくれているのだと思いますよ。

ーー商工会や事業承継・引継ぎ支援センター、日本公庫には、それぞれどのような支援を受けましたか?

譲受側:大地氏

大分県事業承継・引継ぎ支援センターには譲渡契約書の作成をフォローしてもらい、安心して調印式に臨めました。
日本公庫には、事業承継マッチング支援のほか融資もお願いしました。事業ができる環境が整っているとはいえ、入れ替えなければならない機械もありましたし、受注しても材料費を先に支払わなければ家具を作ることもできません。ある程度は融資を受けておいた方が、受ける仕事の幅が広がると考えたからです。
そこで、自分で事業計画書を作成し、日本公庫の創業支援センターにアドバイスをもらいながら計画書をブラッシュアップし、提出しました。しっかりした計画書があることで、譲渡契約と同時進行で融資の手続きをスムーズに進めることができました。多くの関係機関が連携して、事業承継が成功するようにサポートをしてくれたと思います。

譲渡側:建次氏

由布市商工会にも色々とサポートしてもらいました。最初に事業承継の相談をした後に各支援機関につないでくれたのが由布市商工会でしたし、大分県事業承継・引継ぎ支援センターに取次いでもらった後も、間に入って連絡をくれたり調整を行ってくれたりして、常に親身に相談に乗ってくれました。

譲受側:大地氏

由布市商工会の会員だった建次さんに紹介してもらって、事業承継後は私も加入させてもらい、今もいろんな支援を受けています。最近では事務所のリフォームをするために、由布市の創業支援事業補助金制度の申請をサポートしてもらいました。事務所が完成したら、自分が制作した家具をお客様に見ていただけるように写真をディスプレイする予定です。

ーー(譲受側:大地氏へ)事業承継前と後の仕事ではどのような変化がありましたか?

譲受側:大地氏

勤務していた時は、最終的な責任は会社にありましたが、今は一人で全ての責任を負っているので、プレッシャーは感じます。納期に間に合うようにミスなく作らなければ、と日々怯えていますね(笑)

譲渡側:建次氏

仕事というのは積み重ねですから、長い年月をかけて信頼関係を築いていくもの。そのうちに「この人に頼めば大丈夫」と思ってもらえるようになれば、お客様も他には心を移さなくなります。それまではお客様の期待に応え続ける努力が必要ですね。誠意を尽くせば大丈夫だと思います。
ただ、たまに大地さんが元気でやっているか様子を見に来るといつも忙しそうで、一人で無理しているのではないかと心配です。

譲受側:大地氏

ありがとうございます。福岡にいた時に懇意にしていただいたお客様から注文をいただいたり、前の会社も仕事を振ってくださったり、時には建次さんが引き継いでくださったお客様がまた別のお客様を紹介してくださることもあります。仕事量には波があるので、宣伝広告をして安定的に受注を獲得しなければ、と思っています。

ーー(譲渡側:建次氏へ)事業承継が終わり、生活には変化がありましたか?

譲渡側:建次氏

これまでは体を動かす仕事をしていましたし、頭の中は仕事のことでいっぱいでしたが、今は自分のこと、家のことだけを考えればいいので、生活はずいぶん変わりましたよ。やりたいことだけをやる、という毎日です。
大地さんの仕事は順調に回っているみたいで、安心しています。自分の思うようにやってくれたらと思いますが、怪我にだけは気をつけてください。

譲受側:大地氏

ありがとうございます。経理も含め、何もかも自分でやらなければいけないのは大変ですが、夢だった家具職人の仕事ができる喜びがあります。納めたものは全て自分が手がけたものなので、お客様から感謝された時はうれしいですね。

譲受側:大地氏

ーー事業承継マッチング支援を活用した感想をお聞かせください。

譲受側:大地氏

同じように木工の仕事をしている人に事業承継の話をすると「ラッキーだったね」とよく言われます。こんなに条件の合うお相手を見つけられたことがまず幸運でしたし、設備もお客様も一気に引き継げるのですから、間違いなくラッキーですよね。

譲渡側:建次氏

そうですね。機械は大事に使えば一生ものですから。私としても、この工場や機械を処分しようとすれば、きっと相当な費用が必要だったはずです。それを、欲しいと思う方が使ってくれてうれしいです。お互いに求める相手との間をうまくつなげてくれることが事業承継マッチング支援の魅力ですね。

譲受側:大地氏

きっと木工だけではなく、いろんな業種で事業を始めたいと思っている人はいるはず。でも、事業承継という選択肢を知らずに、新規に場所を探して道具を揃えて創業している人も多いと思います。リスクを抑えて事業を始められるチャンスなので、ぜひ多くの人に事業承継マッチング支援を知ってもらい活用してほしいと思います。

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