熊本県阿蘇の建築会社「株式会社ヒラモリ建築工房」を、同県の建設土木会社「岩田建設株式会社」が事業承継。決め手は、お互いに共通する高い技術と、お客様や地域を大切にする揺るぎない理念だった。
株式会社ヒラモリ建築工房 |
譲渡側:株式会社ヒラモリ建築工房(代表者名:平盛氏)
地域に密着した工務店として注文住宅の建築やリフォーム、古民家再生などの事業を展開。代表であり一級建築士の平盛氏のもと、国産材を使用した家づくりにこだわった「Laugh
Home」ブランドを立ち上げ、多くのお客様の信頼を獲得してきた。
譲受側:岩田建設株式会社(代表者名:岩田氏)
昭和47年に建設請負業として創業し、道路や河川、砂防などの建設・土木工事を中心に熊本県内のまちづくりに貢献。土木技術に優れ、「熊本県優良工事表彰」「日本林業土木連合協会長表彰」など数々の賞を受賞している。
譲渡側:平盛氏
きっかけは、私が4年前に体調を崩して入院したことです。退院すればまた以前のように働けると思っていましたが、やはり体力が落ちてしまい、それに伴って気力も落ちていきました。妻の美恵子と娘に支えられながら3年ほどは経営を続けてきたものの、この先長く続けていく自信がなくなってしまいました。
後継者がいないので廃業も考えたのですが、それではアフターメンテナンスができなくなり、お客様に申し訳ありません。その悩みを同級生に相談すると、「商工会で事業承継の支援をしているから申し込んでみたら」と勧められました。当社は、大工だった父の代から受け継いできた工務店で、思い入れもあります。事業承継によってこの地域にずっとヒラモリ建築工房を残すことができれば、それは私の人生の最大の喜びだと思いました。
譲受側:岩田氏
岩田建設はもともと、会社を成長させるための手段としてM&Aを非常に重視してきました。これまでも、当社と同じ土木会社のM&Aで事業を拡大してきた経緯があります。
そのような背景がある中で、建築会社に勤める長男が独立を目指すことになり、その目標を親として応援したいと考え、建築会社の設立やM&Aを検討し始めました。これまで当社になかった建築事業をグループ内で展開することで、造成工事の増加も期待できるため、土木工事の売上拡大という相乗効果を生み出す狙いもあります。
譲渡側:平盛氏
高森町商工会に相談に行った後、すぐに事業承継・引継ぎ支援センターと日本公庫へつないでもらい登録しました。その後、令和4年11月に引継ぎ支援センターから1社を紹介していただきましたが、資金面で折り合いがつかず、お断りしました。同時進行で登録していた日本公庫からも紹介がありましたが、こちらは宮崎県の会社であり、遠いということもあり先方からお断りされました。
妻とも、「なかなかうまくいかないね」という話をして、気持ちの上ではほとんど諦めていました。ところが令和5年1月に、日本公庫から再び候補者の紹介があったんです。前向きに検討されているようなので一度お会いしてみませんか、と担当の方に勧められ、2月に当社の事務所で面談を行いました。
譲受側:岩田氏
当社では、M&Aについて日々アンテナを張り、日本公庫からも継続的に情報をいただいています。今回も建築会社のM&Aを検討し始めて日本公庫に相談し、ご紹介いただいたのがヒラモリ建築工房でした。一級建築士が在籍する工務店で、お客様のニーズに応える注文住宅も手がけており、技術面も信頼できます。そこに岩田建設の土木工事技術が合わされば、造成から建築、アフターフォローまで全てに責任が持てる。新たな可能性に魅力を感じ、面談を申し込みました。
譲渡側:平盛氏
岩田社長はお若くてバイタリティに溢れていますし、たくさんの社員を抱えて大きな物件を扱っていらっしゃるのでとても視野が広く、将来に希望が持てる方だと期待が膨らんでいきました。面談前にホームページも拝見しましたが、説得力があり、「この方だったらお任せできる」と思いましたね。ほとんど一目惚れでした。
譲渡側:美恵子氏
実は、面談前に顧問税理士に相談すると、たまたま岩田さんも同じ税理士の先生を顧問にされていることが分かったんです。先生からも「こんないい話はない。ぜひ進めてください」と太鼓判をいただきました。実際に会ってみても本当に素敵な方で、すぐに気持ちが惹かれていきました。
譲受側:岩田氏
私も、お二人の仲の良さや包容力に触れて、最初から良い印象を受けました。また会話を重ねていくと、優しい雰囲気の中にも「地域に根付いた事業をしてほしい」という、事業承継において大事にされたい想いが飾らない言葉でストレートに出てきました。その姿に、「この方達の気持ちは本物だ。ここを引き継がせていただきたい」と感じました。
譲渡側:平盛氏
契約のタイミングや金額面は顧問税理士とも相談しながら進めていくことができましたが、私が一番心配していたのは、支払いの途中だった借入金についてです。廃業を考えていたときは、まずこの借入金を返さなければいけないというプレッシャーを感じていました。しかし交渉を進める中で、岩田建設さんが借入金も含めて引き受けてくれるというお話になったんです。お金の問題が一気に解決へと向かい、心労が消え去りました。快く引き受けてくださった岩田社長には感謝の気持ちでいっぱいです。
譲受側:岩田氏
借入金は分譲用の土地の費用だったので、事業承継の契約にあたってそれほど大きな問題にはなりませんでしたし、そもそも造成工事が私たちの強みなので、負債に見合う資産(土地)があるという認識でした。また、顧問税理士も間に入ってまとめてくださったので、金額面はスムーズに決定しました。
運用面では、3年間は平盛さんが会社に残って引き継ぎをしてくださるとお約束いただきました。また今後は、私の長男や建築業界で長年経験を積んできた義兄など、身内から社員の採用を増やしていきたいと考えていることや、春からは岩田建設の新入社員の育成もお願いしたいことなど、採用や人材育成の計画も最初にお話させていただきました。
初回である程度条件面についてお話していたので、2回目の面談では平盛さんに当社にお越しいただいて岩田建設の概要をご説明し、3回目で契約に至りました。
譲渡側:平盛氏
諦めかけていたところからこんなに早く話が進むと思ってはいなかったので、自分達が驚いています。
譲渡側:平盛氏
初回の面談からこの方に任せたいという気持ちがありましたし、顧問税理士の後押しもあったので、私たちに迷いはありませんでした。借入金を引き受けてくれるというだけでも十分すぎるくらいの気持ちでした。
譲受側:岩田氏
岩田建設グループとしては、建築会社をゼロから立ち上げるか、M&Aで運営していくのか、検討を重ねましたが、最終的にはヒラモリ建築工房に非常に深いご縁を感じたことが決め手となりました。実は、平盛さんは私の息子が今お世話になっている建築会社のご出身で、さらに平盛さんのお父様はその会社の礎を造られた方だったんです。それを聞いた時は驚きました。
もう一つ、大きな決め手となったのは理念です。当社は地域に育てられてきた会社なので、地域ファーストの想いがあります。同じように、平盛さんもお客様と地域を大切にしたいという理念をお持ちであることが初回の面談時に伝わってきました。良い家を作るために技術を高め、お客様のご要望に応えたい。その価値観が私たちと一致していると感じ、M&Aを決めました。
譲渡側:美恵子氏
高森町商工会とはお付き合いが長く、補助金などの面でもずっとお世話になってきました。今回も親身に相談に乗っていただき、引継ぎ支援センターと日本公庫につないでいただいたことで良いご縁が生まれました。
私たちにとっては初めての事業承継だったので、何をすれば良いのか全く分からなかったのですが、顧問税理士にも間に入ってもらって手続きや交渉をサポートしてもらったので安心でした。先生は、「岩田建設はM&Aの実績が豊富にあるから、何も心配しなくてもいいよ」と言ってくれましたが、実際にそのとおりで、岩田建設の弁護士の方が契約書を作成するなど、終始私たちをリードしてくださいました。
譲受側:岩田氏
当社も、日本公庫からはM&Aについて常々情報をもらっています。今回も「こういう企業がありませんか?」と問い合わせてから1、2ヵ月で紹介してもらい、それが今回のようなマッチングにつながったので、しっかりと両社を見極めた上で情報を出してくれているのだと思います。
顧問税理士は平盛さんとのお付き合いが長いので、平盛さんに退職金をしっかり出せるようにしたいという想いがあり、決算期に合わせて事業承継ができるように契約のサポートやアドバイスをいただきました。
譲渡側:平盛氏
取引先に引き継ぎのご挨拶にうかがった際には、「よかったね。あんたは運がいいよ」と喜んでくださいました。岩田社長のお兄さんにはすでに昨年の11月からヒラモリ建築工房で現場監督をしていただいているのですが、とても段取りがよく頼れる方で、社内も活気づいています。お客様にも「新しい工事担当者です」とご紹介すると非常に喜ばれますね。現場もテキパキと進み、何の支障もなく全てがうまく流れているように感じます。
現在はお客様のニーズの聞き取りやデザインを妻が、私が積算や構造設計を担当していますが、岩田社長の息子さんが入社されれば、設計から積算、現場監督に至るまで全ての業務を引き継ぐ予定です。
譲受側:岩田氏
お客様も取引先も非常にウェルカムな雰囲気で迎えてくださっていますね。平盛さんがこれまで良好なお付き合いをされてきたからでしょう。今は協力業者の方々も当社に挨拶に来られていて、引き継ぎが非常にスムーズに運んでいます。
譲渡側:平盛氏
今は、承継後の慣らし運転を終えて事業が一気に進み始めたところで、とても忙しいです。ただ、その忙しさも心地よく、以前のような心労はありません。ここが事業承継の良さではないでしょうか。「ああしたい」「こうしたい」という希望がたくさん出てきたので、私が今後どのように事業を進めていきたいかという想いも岩田社長にお伝えしました。以前は気力も落ち込んでいたのに、今は挑戦したいことだらけなんです。
譲渡側:美恵子氏
事業承継の挨拶文をお客様に郵送した後の反響もあり、「今のうちに頼んでおきたい」とリフォームなどの新しいお仕事にもつながりましたね。事業承継をきっかけに、お仕事も増えています。
譲受側:岩田氏
土地の造成が必要な案件もありましたが、そこは当社の得意分野なので、スピーディに対応できたことも受注につながったポイントです。しかし何より、ヒラモリ建築工房という信用力のもとにお客様が集まってくださっていると感じます。
譲渡側:美恵子氏
岩田社長が「分譲住宅を建てましょう」と提案してくださったことがきっかけで、分譲事業も新たに始まりました。たまたま良い分譲地が見つかり、購入する段階になるとお客様から「良い土地はないですか?」という問い合わせが入り、その土地をご紹介するとすぐに気に入ってくださって。驚くほどトントン拍子で物事が運んでいます。
譲渡側:平盛氏
分譲住宅を手掛けられるということが、今は私の生きがいになっていますね。長年の夢がここに来て実現しています。今まで自分ができなかったことに、この歳になって挑戦できていることに喜びいっぱいで、感謝にたえません。
譲渡側:平盛氏
事業承継を検討し始めたら、知り合いに相談するだけではなく、商工会や日本公庫など専門の機関に相談してほしいですね。そうすれば事業承継に詳しい先生方を紹介してもらえて、あとはうまく誘導してくれます。私も高森町商工会に入っていて本当によかったと思います。
最初のきっかけを作らなければ何も始まらないので、まずは申し込みをして、出会いのきっかけ作りをしてはいかがでしょうか。
譲受側:岩田氏
これまで何度もM&Aを実施してきましたが、成功のポイントは、その会社にいる人がみんな事業承継に納得しているかどうかだと思います。社長だけが事業承継を考えていて、社員の方々には何もお話をされていないケースもありますが、意見が一致しているほうが今回のようにスムーズに話が進みます。
もう一つは、理念が一致していること。その方がどういう想いで会社を経営されてきたのか、それを引き継いで自分たちがどう経営を続けていくのかをしっかり考えた上でM&Aを行っていただきたいと思います。