事業承継マッチング支援

若手薬剤師の移住で事業承継が実現し
地域に必要とされる薬局が存続

静岡県浜松市の薬局を、神奈川県出身の若手薬剤師の2人が事業承継。初回の面談から約1ヶ月というスピードで譲受を実現し、地域の患者様からなくてはならない存在として愛されている。

Story’s Point

  • 令和5年3月、体調不良のため引退を決意した譲渡側の石津氏が、近隣に薬局が少ないことから患者様のために後継者を探したいと考えて日本公庫に相談。インターネットで情報を見た譲受側の小林氏が面談を希望する。
  • 7月に現地に訪れた小林氏は、薬局の必要性を認識し、地域の人々に役立ちたいとパートナーの佐藤氏と事業承継を決意。日本公庫や石津氏のサポートを受けながら、石津氏が入院するまでの約2ヶ月で手続きを完了させた。
  • 10月に薬局がオープンすると患者様が戻り始め、毎日のように感謝の言葉をかけられるように。首都圏では味わえないやりがいを感じながら、地域に密着した薬局を営んでいる。
  • 長年にわたり地域の人との信頼関係を築いてきた石津氏も、小林氏と佐藤氏が感謝されている姿を見て安心している。現在は時々旅行を楽しむなどして落ち着いた生活を送っている。
(譲受側):小林 潤哉氏

Company Information

株式会社小野製作所

株式会社イシヅ(イシヅ薬局)
所在地 静岡県浜松市東区 創業 平成25年1月 
業種 調剤薬局
従業員数 1名

譲渡側:石津 史郎氏(当時70歳)
創業以来、近隣の外科・消化器科病院の患者様を中心に、地域に密着した保険調剤薬局として長年経営を続けてきた。一度は廃業を検討するも、周辺に薬局が少なく、特に高齢者にとってはなくてはならない薬局だったことから事業承継を選択。

譲受側:小林 潤哉氏(当時26歳)
薬科大学を卒業後、全国展開する大手調剤薬局会社に入社し、神奈川県内および東京都内の店舗で勤務。「事業承継マッチング支援」を通して石津氏と出会い、神奈川県川崎市から静岡県浜松市への移住を決断する。令和5年10月、パートナーの佐藤氏と共に「こもれび薬局」を開業。

ーー事業承継をしようと思ったきっかけはなんですか?

譲渡側:石津氏

「イシヅ薬局」の創業以来一人で経営を続けてきましたが、数年前に体を壊してしまい、これまでも入院で一時的に薬局を休業することがありました。その度に、近隣の病院や患者様に迷惑をかけてしまうことが気掛かりでした。特に指定薬局の患者様には、「○月に休業するから、それまでに一度薬を取りに来てください」と連絡を入れるなど、大変だったんです。そんなことを何度も繰り返してきましたが、9月に何度目かの入院が決まり、治療に専念するために引退を決めました。
ただ、この辺りで他に薬局といえば、大通りを渡って向こう側に一軒あるだけで、高齢の方は歩いて行くのも大変です。患者様のためにはこの薬局があった方が良いし、病院にとっても近くに薬局がある方が助かるに違いありません。できれば誰かに継いでほしいと考えていた時に、日本公庫のダイレクトメールで事業承継のマッチング支援を知り、相談しました。

譲渡側:石津氏

譲受側:小林氏

私たちは、大学を卒業してから全国チェーンの調剤薬局で勤務していましたが、いつかは自分たちで薬局を開きたいと以前から考えていました。事業承継を選んだのは、一から創業するにはまだ経験が浅く、資金面でも厳しいと考えたからです。
手当たり次第にインターネットでM&A案件を調べ、勤務していた薬局からも独立支援サポートとして譲渡希望案件の情報をもらっていましたが、希望に合うものがなかなか見つかりませんでした。そんな中、たまたま日本公庫の「事業承継マッチング支援」のHPでイシヅ薬局を見つけました。

譲受側:佐藤氏

多くの案件がある中でイシヅ薬局に惹かれたのは、患者様に頼られ、地域になくてはならない薬局だったからです。薬局数が多い首都圏よりは、その薬局がなくては困る場所に行って役に立ちたいと思っていたので、イシヅ薬局の事業承継は私たちの希望にぴったりでした。

譲受側:小林氏

初回の面談の前には、日本公庫から決算書も見せてもらいました。決算書なんて見るのも初めてでしたが、日本公庫の担当者に数字ひとつひとつについて説明してもらい、この金額であればやっていけると感じて石津さんとの面談を希望しました。

譲受側:小林氏(左)、佐藤氏(右)

小林氏(左)、佐藤氏(右)

ーーお会いしてみて、お互いの印象はいかがでしたか?

譲受側:小林氏

私がまだ若く、薬剤師としての経験も浅いため、会うまでは「軽くあしらわれてしまうのでは」と思っていましたが、石津さんは初回から気さくに話してくださいました。

譲渡側:石津氏

若いからこそ、薬価や管理指導料の変更など法律の改定が頻繁にあってもどんどん吸収してやっていけるだろうと思いましたよ。初回の面談だけでは人柄を深く知ることはできませんが、遠い浜松までわざわざ来てくれるくらいなので悪い人ではないだろうし、任せてみようと思えました。「病院のドクターも職員の方も良い人だから安心していいよ」という話をしたのを覚えています。

譲受側:小林氏

ドクターのところにも連れて行ってくれて、一緒に挨拶してくださいましたね。その後も手続きのために何度も足を運びましたが、保健所の申請に車で送ってくれたり、薬剤師会の方を紹介してくれたりと、本当に親身になってくれて、「石津さんなら信頼して大丈夫だ」と確信できました。

譲受側:佐藤氏

私は仕事の都合で初回の面談には行けなかったのですが、事業承継をすると決めた後に石津さんとお会いしました。その時も、大家さんのところに一緒に行ってお話をしてくださり、道中では道を詳しく教えてくださって。それが本当に嬉しかったんです。「ここを引き継ぐことに決めて良かった」という想いが大きくなりました。

譲渡側:石津氏

私自身がこの薬局を事業承継した時に、分包機などの機械も薬の在庫もゼロの状態からスタートしたため、予想以上にお金がかかり苦労した経験があります。だから、私が譲渡する時には、彼らが困らないようにできるだけのことはしてあげたいと思っていたんです。

ーー譲渡・譲受の一番の決め手は何ですか?

譲受側:小林氏

面談の前から、周囲に薬局がほとんどなく、イシヅ薬局がなくなると地域の患者様が困るという話を聞いていましたが、実際に近辺を歩いて回ってみてそれが本当だと分かりました。この薬局がなくなると足が悪く移動手段のない患者様はきっと困るだろうと思ったことが一番の決め手です。それに、薬剤師が求められる場所での仕事はやりがいが大きいだろうと思いました。

譲受側:佐藤氏

私も彼からその話を聞いて、ここに通っていたたくさんの患者様が他の薬局まで足を伸ばさないといけなくなれば、きっと負担が大きくなると思いました。このままでは7月末には廃業してしまうと聞いて、「他に人がいないなら、私たちがやるしかない」と思いました。

譲渡側:石津氏

面談から数日で、小林さんたちが事業承継を決めてくれたと日本公庫から電話を受けた時は本当にうれしかったです。それに、二人とも薬剤師と聞いていたので薬局の運営についても心配はしていませんでした。二人いれば、一人が患者様とお話をしてもう一人が調剤室に入ることもできますし、若いからパソコンを使ってレセプトもパパッと作成できる。安心して事業承継できました。

譲渡側:石津氏 譲受側:小林氏、佐藤氏

ーー事業承継にあたって、どのような準備を行いましたか?

譲渡側:石津氏

機械や薬の在庫を残しておくかどうかを話し合って決めました。先ほどもお話ししたように、私が機械や薬が全くない状態で引き継いだので、しばらくは仕事にならなかったんです。彼らにはそんな経験をさせたくないので、必要な機械や薬は全て譲りました。在庫があればどの薬が出やすいのかも把握できるので安心だと思います。また最近は薬不足の状況が続いているので、事業承継する前にできる限り、薬を多めに仕入しておきました。

譲受側:小林氏

いただけるものは全て譲っていただいたので、新たに用意するものはそれほど多くなく、助かりました。
薬局をできるだけ早くオープンするために、事業承継が決まってから前の薬局を退職するまでは、休日に浜松に来て事業承継の手続きや保健所への申請などを進めました。その日のうちに帰って翌日は仕事、という日々が一ヶ月くらい続き、その間は体力的にも経済的にもハードでしたね。
ただ、それ以外は特に大変だと感じたことはなく、スムーズに進められたと思います。

ーー日本公庫からはどのような支援を受けましたか?

譲渡側:石津氏

どんな方に譲り渡したいかをヒアリングしてもらい、日本公庫のHPに後継者募集の記事を掲載してもらいました。私の入院の関係で令和5年の7月末には薬局を閉めることを急遽決めたので、それまでに譲り渡す方が見つからなければ廃業するしかありませんでしたが、1日でも早く掲載できるように日本公庫の担当者が様々な確認を急ピッチで進めてくれました。相談をしてからお相手の紹介まで、ほとんど待っているだけで良かったので、日本公庫にお願いできて本当に良かったと思っています。

譲受側:小林氏

私たちは、事業承継マッチング支援から創業資金の融資までをお願いしました。日本公庫だったので安心して踏み出せましたね。基本的なことも含めなんでも聞ける雰囲気で、相談料もかからないので、分からないことはその都度相談できて助かりました。
また、融資をスムーズに受けられたことも安心材料の一つになりました。調剤薬局では保険者負担分の請求をして報酬を受け取るのが2ヶ月後になるのですが、それまでの期間も医薬品卸には医薬品代を支払う必要があるためです。マッチングを支援してくれたのが日本公庫だったので、融資の審査でも私たちの事情をよく理解してくれ、終始安心感の中で話を進めることができました。

ーー神奈川県から静岡県へ移住することに対して、不安はありませんでしたか?

譲受側:佐藤氏

もともと、自分たちで薬局を開くなら日本全国どこにでも行こうと考えていたので、抵抗感はありませんでした。むしろ、浜松は神奈川からでも日帰りできる距離なので、近いくらいです。最初のうちは交通手段が少ないことに戸惑いましたが、最近は車の運転にも慣れてきて行動範囲が広がりました。休日に出かけても混雑していなくて、暮らしやすいです。

譲受側:小林氏

先日は浜名湖に二人で行ってきました。人が多い都会より、人が多すぎず少なすぎないこの場所が私たちにはちょうどいいと思います。

ーーこれまでとは異なる環境での薬局運営ですが、大変なことはありますか?

譲受側:小林氏

勤務していた薬局は薬剤師の人数が多かったので、調剤する人、パソコン入力する人、薬の飲み合わせを見る人、薬を渡す人、と細かな分業体制がとられていましたが、今は二人しかいないので動きが全く異なります。ミスなくお待たせせずに薬をお出しするために、分業はせず臨機応変に対応しています。定期的に来られる患者様で薬が多い場合はあらかじめ用意しておき、来られたらすぐにお渡しできるように工夫もしています。
患者様が重なると忙しいのですが、最近では混み合う時間帯や曜日も分かるようになってきて、徐々に慣れてきました。

譲受側:佐藤氏

長くお話をしたい方や薬の説明だけで良い方など、患者様による違いも分かってきたので、効率的に動けるようになってきましたね。家に帰ってからも、「あの患者様はこうしてあげれば良かったね」など、二人で話し合って改善を重ねています。最近は、患者様にも便利にご利用いただけるように、SNSで処方箋の写真を送ってもらい指定する時間にお渡しするサービスを新たに始めました。

譲受側:小林氏

この地域ならではのノウハウも、石津さんから色々と聞いて実践しています。驚いたのは、病院のドクターと週に一度薬について話し合う時間を設けていることです。前職では薬剤師がドクターに会ってお話をする機会はありませんでした。今は「この薬が不足しているので、こっちの薬に切り替えてほしい」といったやりとりが直接できるので、患者様が来られた際にも欠品がなく非常にスムーズです。

譲渡側:石津氏 譲受側:小林氏、佐藤氏

ーー生活や心境の変化はありますか?

譲受側:小林氏

前職では決定権がありませんでしたが、今は薬局内で販売する医薬品を選ぶなど、全ての決断を自分たちで行えることが楽しいです。
神奈川にいた頃は周りに薬局が乱立していて、患者様からすれば、薬をもらえるならどこでも同じだったと思います。感謝される機会も滅多にありませんでしたが、ここでは私たちの薬局がなければ困る患者様がたくさんいらっしゃって、オープンから3ヶ月間、毎日必ず一人の患者様からは「ここを継いでくれてありがとう」という言葉をかけていただいています。

譲受側:佐藤氏

店舗内に置く観葉植物をくださったり、秋には柿のお裾分けをいただいたりと、薬剤師が変わっても親しみを持って接してくださいますね。石津さんの時代から親しみのある関係性が築かれていたので、私たちにも体の不調などいろんなことを相談してくださり、やりがいを感じています。

譲渡側:石津氏

そうですか!それはうれしいですね。
私は時間がありすぎて困るくらいですが、治療を続けながら、時々は友人の車に乗せてもらって東京旅行もでき、気分転換になっています。

ーー今後の目標はありますか?

譲受側:小林氏

まずは来ていただける患者様を増やすことが目標です。7月末にイシヅ薬局が閉まり、私たちのこもれび薬局がオープンしたのが10月。薬局が開いていることを患者様に認知していただくためにのぼり旗を表に出していることもあり、最近は徐々に患者様が戻りつつあります。

譲受側:佐藤氏

薬剤師としての仕事は以前と同じですが、自分達の薬局なので、一人ひとりにかける想いは大きくなったと思います。「またあの薬局で薬を受け取りたい」と思ってもらえるように、一人ひとりにしっかりと時間をかけて対応したいですね。

ーー事業承継を考えている方々に向けてアドバイスをお願いします。

譲受側:佐藤氏

インターネットの情報では、金額などの数字や企業の売りたいポイントなどが文章で書いてあるだけで中身までは見えてこないので、実際にその企業に出向き、人に会うことはとても大切だと感じました。迷っている方は、直接足を運んで自分の目で確かめてみるのがおすすめです。

譲渡側:石津氏

譲り渡す側の方は、引き渡したら終わりではなく、やる気のある人にはぜひ懇切丁寧にサポートしてあげてほしいと思います。

譲受側:小林氏、佐藤氏

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