事業承継マッチング支援

特許技術を譲渡し、引退へ
取引先が将来も安心できる体制を構築

混合機の羽根の開発で特許を取得し、長年多くの企業に選ばれ続けてきた株式会社TOHYA。代表の遠矢氏は自身の引退にあたり、「お客様が困らない」ことを第一に考え、第三者承継を決意した。

Story’s Point

  • 株式会社TOHYAは、大量の粉体・液体をスピーディーに攪拌できる混合機の羽根の開発で特許を取得。他社の追随を許さない技術力で多くの大手企業との取引を続けてきた。
  • 令和4年、代表の遠矢氏が引退を決意。後継者がいないことから第三者承継を選択する。北大阪商工会議所と日本公庫が連携する「事業承継マッチングスキーム」を通して企業の紹介を受け、3社目の面談で成約に至った。
  • 遠矢氏は成約後も技術面で譲受側の企業をサポートし、お客様企業に対して引き続きメンテナンスや機械の導入ができる体制が整った。すでに多数の取引先から新規受注や修理依頼が集まっている。
(譲渡側):遠矢氏

Company Information

株式会社TOHYA

株式会社TOHYA
所在地 大阪府交野市 創業 昭和46年 
業種 産業用機械製造

譲渡側:株式会社TOHYA(代表:遠矢氏)
建築用鉄骨製造業・工事請負業として創業。平成4年に混合機を中心とする産業用機械製造事業をスタートし、独自の羽根の開発で特許を取得。その後、機械製造に集中して事業を展開し、多数の大手企業との取引を継続してきた。

譲受側:A社
約50年に渡り、切削加工やプレス加工、アルミ型材加工などの金属加工業を営んできた。株式会社TOHYAから承継した事業は、遠矢氏のサポートを受けながら社員一丸となって新規事業に挑戦している。

ーー株式会社TOHYAの事業内容を教えてください。

譲渡側:遠矢氏

粉体や液体を混合する機械である混合機を中心に、産業用機械の設計・製造事業を営んできました。攪拌する羽根には、特許を取得した独自構造を用いており、混合率が非常に高い点が特徴です。大量の物質をスピーディーに攪拌できるのでランニングコストに優れているとお客様からも好評で、何十年もの間、混合機の開発・製造とメンテナンスで多くの大手企業とお取引いただきました。

譲渡側:遠矢氏

ーー製品開発に至った経緯は?

譲渡側:遠矢氏

元々は建築用の鉄骨の製造や請負工事を行なっていましたが、ある時、混合機の製造事業を営んでいた会社と一緒に仕事をすることになりました。その際、たまたまその企業のお客様が使用していた混合機にトラブルが発生し、それを解決するために試行錯誤して生まれたのが今の混合機の羽根です。従前は10分もかかっていた混合が30秒でできるようになりました。
20人ほどが見守る中、新しい羽根で試運転をすることになり、30秒のタイマーをセットして物質の攪拌を始めたのですが、10秒、20秒と経過しても全く色の変化がなく焦り始めたところ、25秒を過ぎた頃に魔法のように一気に色が変わり、混合できたことが分かりました。あの瞬間は今でも忘れられません。

ーートラブルが元で発明された羽根だったのですね。

譲渡側:遠矢氏

そうなんです。無事にトラブルを解決した帰り道、一緒に仕事をしていた混合器の会社の従業員の一人から「あんな羽根は今まで見たことがない」と言われ、特許を申請してみたところ、すんなりと受理されました。
その後、その会社の社長が亡くなってしまい、従業員の希望もあって混合機の事業と従業員を当社が引き受けることになりました。それが平成4年のことです。

譲渡側:遠矢氏

ーー鉄骨の製造とは求められる技術が異なるのでは?

譲渡側:遠矢氏

そうですね。鉄骨を作るのとは異なり、機械は1mm以下のズレも許されない世界なので、最初は苦労しました。ものによっては混合するうちに化学変化が起きて、粘度が高くなりすぎたり熱を持ってしまったりするのです。ずいぶん試行錯誤もしましたが、徐々に旋盤などの工作機械を買い揃え、最終的にはほとんど全ての部品を自社で製造できる体制を整えました。

ーー鉄骨と機械の二つの事業を行なってこられたのですか?

譲渡側:遠矢氏

当初は鉄鋼部と機械部に分けて事業を行なっていましたが、鉄骨建築の市況が悪化して見通しが立たなくなり、鉄鋼事業を撤退することになりました。その後は混合機の製造をメインに事業を行なってきました。苦労もしましたが、この事業を引き継ぐことができ、機械メーカーとして株式会社TOHYAを継続できたことは非常に良かったと思っています。株式会社TOHYA自体は小さな会社でしたが、複数の大手企業とも取引を続けてこられましたし、規模の大きな競合企業とも技術力で対等に戦ってきました。

ーーそのように大切にしてこられた事業を第三者承継するに至った経緯を教えてください。

譲渡側:遠矢氏

年齢的に体力の限界を感じて引退を考え始め、まず息子に後を継ぐ気があるかどうか尋ねたのですが、息子には他にやりたいことがあるようでした。その意見を尊重したいし、無理に継いでもらったところで、この厳しい社会情勢の中でうまくやっていけるという保証もありません。それなら第三者承継をするのがいいと考えました。
かつては、銀行や日本公庫からの借入金もありましたが、コツコツと返済を続けてきて、ちょうど引退を考え始めた頃に完済できたので、これで迷惑をかけずに事業を引き継げると思いました。

譲渡側:遠矢氏

ーー支援機関からは、どのような支援を受けましたか?

譲渡側:遠矢氏

北大阪商工会議所に紹介してもらった「BATONZ(バトンズ)」と「日本公庫の事業承継マッチング支援」に登録しました。するとバトンズから一気に40社ほどから問い合わせがきました。前向きな方も多かったのですが、どこも関東や中部の企業で遠方なのがネックでした。ノウハウがたくさん詰まった機械を受け継いでもらうので、売りっぱなしというわけにはいきません。お客様先に修理に行くにも最初はサポートが必要なので、遠方だとすぐには対処できないと思い、お断りしました。
そうしているうちに日本公庫から何社か紹介がありました。一社目と二社目は、機械の大きさや承継のタイミングが合わず成約に至りませんでしたが、三社目で今回事業承継に至った企業とお会いすることができました。

ーー支援を受けて良かった点はなんですか?

譲渡側:遠矢氏

私が求めていたお相手を紹介してくれたことですね。私としては、取引先を継続してサポートしてもらうことが一番重要だったので、引き継いだは良いけれど、軌道に乗るまでの間に倒産してしまうような企業では意味がありません。日本公庫の支援では、北大阪商工会議所と情報共有し、「この企業なら大丈夫」という見極めをしてくれて、事業にマッチした企業を見つけてきてくれます。売り手だけではなく、買い手側の話も聞いてマッチングさせ、双方をサポートしてくれるところが非常に良いですね。
M&Aに関する知識もなくて最初は戸惑ったのですが、色々とお話を聞くうちに理解が進みました。いろいろとお世話になったので、この感謝の気持ちをまた何か新しい取り組みでお見せできたらいいですね。

ーー承継に際してはどのような条件を提示しましたか?

譲渡側:遠矢氏

条件として提示したのは金額だけです。周りの人からはそんなに安くていいのかと言われましたが、事業を引き継いでくれて、引き続きメンテナンスや製造を行なってくれるのなら安く譲るし、技術面のサポートもしますよと伝えました。これまでお世話になったお客様に迷惑をかけたくないので、承継後もお相手の企業の方々にはお客様を大切にしてほしいと思っています。
そういう気持ちで事業承継をしたので、やる気のある方が良いと思っていました。その点で、三社目の方々は非常に前向きで好印象でした。従業員が90名ほどいらっしゃって、複数の事業所を展開しているしっかりとした企業だったので、信頼できると感じました。

ーーお相手は、どのような点に惹かれて承継を決めたのでしょうか?

譲渡側:遠矢氏

混合機の技術そのものを気に入ってくれたのではないでしょうか。一通り機械の説明をして、「最初はサポートがないと難しいと思うから、今後1~2年ほどはサポートしますよ」とお伝えすると、帰る頃にはもう心を決めてくれていたようです。
承継した事業を実際に担うのは、お相手の企業の子会社という話でした。金属加工専門のメーカーで、現場で作業をする従業員の方が9名いると聞き、それなら混合機の事業に人を振り向ける余裕もあるだろうと思い安心しました。子会社の従業員の方々も、「機械を見たい」とわざわざ来てくれて、現場を見学していきました。これまでとは違った新しいものづくりができることを喜んでおられましたね。そこからは書類上の手続きだけで、トントン拍子で成約に至りました。

ーー事業のサポートはどのように行なっていますか?

譲渡側:遠矢氏

譲渡したからには相手に成功してもらい、会社も大きくなってほしいと思っているので、製造に必要な機械や出張メンテナンス用の道具は全てお譲りしました。必要ならTOHYAの名前を使ってもらっても構わないとも伝えています。
また、依頼があれば現場のサポートにも出向いています。先方の若い社員の方も非常に熱心で、サポートに行くと向こうから「教えてください」と聞いてくれますし、時々現場で困ったことがあると、質問を書いた図面をファックスで送って来られ、一生懸命学ぼうとしてくれていますね。
ただ、なんでも人に頼っていては覚えることができないので、すぐに答えを教えるのではなく、まずは自分で考えてもらい、いよいよ行き詰まった、というときにヒントを渡すようにしています。そうするうちに混合機も彼らの「自社製品」になっていくと思います。

譲渡側:遠矢氏

ーーお客様にはどのように対応しましたか?

譲渡側:遠矢氏

お取引があったお客様には、事業を引き継いだことや、今後は新しい会社が引き続きメンテナンスと製造を担当することを書面でお伝えしました。それでも何件かはまだ私の元に連絡が来ているので、全てお相手の企業に伝えてその後の対応をお願いしています。

ーー事業は順調に進んでいる様子でしょうか?

譲渡側:遠矢氏

すでに全国の企業から複数の引き合いがあるようですよ。近々、摩耗した羽根の補修や交換を依頼されているとのことで、私が現場指導に伺うことになっています。
そのほかにも、4社から分解整備のメンテナンスの話が来ていましたし、新品の注文もいくつか話が来ていると聞いています。先方も、事業承継で良い買い物をしたと思ってくれているのではないでしょうか。

ーー今後、挑戦してみたいことはありますか?

譲渡側:遠矢氏

実は地震に強い「シェルター」を作る良いアイデアが湧いてきたので、それを事業化できないか検討しているところです。私がアイデアを出して、事業は誰か別の方にやってもらえたらと考えています。引退して時間もできたので、最近はグランドゴルフも始めました。チームのみなさんはパソコンが苦手なので、私が集計用のソフトをエクセルで作って点数を管理できるようにしたら、集計係を任されるようになりました(笑)

ーー第三者承継で新規事業に挑戦しようとする人に伝えたいことはありますか?

譲渡側:遠矢氏

今の時代、個人で会社を立ち上げて、既存の市場に新規参入していくのは非常に難しいことなので、新しい事業を始めるなら第三者承継が一番の近道です。ただ、目先を見るのではなく、本当に事業を継続できるかどうかをしっかり見極めることが大切です。儲かりそうだからやってみよう、という軽い気持ちでは失敗してしまいます。会社を作るには相当な努力も必要。真剣に、覚悟を持って取り組んでほしいですね。向こう半年は自己資金だけで維持しようというくらいの気持ちを持って臨んでほしいと思います。

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