事業承継マッチング支援

明治から続く老舗酒蔵
手造り清酒「百楽門」を次世代へ繋げる

清酒発祥の地として知られる奈良で、明治20年から地酒を造り続けてきた「葛城酒造」。その事業を、会社員だった谷口明美氏が事業承継した。100年以上もの間受け継がれてきた伝統の灯を絶やさぬよう、葛城酒造は今、新たな一歩を踏み出している。

Story’s Point

  • 「酒造りがしたい」と思い立った谷口氏が、約30年にわたり勤務してきた会社を退職。しかし、酒類製造免許の新規取得は難しい。そこで事業承継に興味を持ち、奈良県事業承継・引き継ぎ支援センターに相談し、葛城酒造と出会う。
  • 久保氏との初回の顔合わせの段階で「ここならやっていける」と直感した谷口氏。新潟県の蔵元で一年間の修行を積んだ後、葛城酒造に見習いとして入社する。住み込みで酒造りを学び、手造りならではの奥深さや面白みを実感。
  • 株式譲渡によって谷口氏が葛城酒造の代表に就任。主要銘柄「百楽門」の味を守り続けるべく、久保氏との共同経営というスタイルで杜氏として酒造りに真剣に向き合う。現在は経営の基盤を整えつつ、さらに広く飲んでもらうための次の事業展開を計画している。
(譲受側):谷口氏

(譲受側):谷口氏

Company Information

葛城酒造株式会社

葛城酒造株式会社
所在地 奈良県御所市 創業 明治20年 
業種 酒造業

譲渡側:久保氏
葛城酒造四代目代表。
親族内承継によって事業を受け継いできたが、杜氏の高齢化などに伴い酒造りが困難になり、一年間の休蔵を余儀なくされる。その後、自身が杜氏となって酒造りを開始。2017年に、後継者不在のため奈良県事業承継・引き継ぎ支援センターに事業承継について相談する。

譲受側:谷口氏
30年間勤務した証券・保険会社を退職し、酒造りの道へ進むため奈良県事業承継・引継ぎ支援センターに事業承継について相談。新潟県の蔵元での一年間の修行を経て、葛城酒造株式会社の代表に就任。経営を担う一方で久保氏の弟子として酒造りを学んでいる。

「ものづくりがしたい」という一心で会社を退職し、初めての酒造りに挑戦

ーー葛城酒造の事業概要について教えてください。

譲受側:谷口氏

弊社ブランド「百楽門」は、備前雄町米で醸造したお酒であることが特色で、そのふくよかな味わいは発売以来固定ファンが多く、オマチスト(雄町米酒ファン)からも愛されています。清酒発祥の地と言われている菩提山正暦寺で、室町時代の寺院醸造を現代に再現した技法で醸造する「菩提酛純米」は、日本で8蔵しか醸造できない特殊な製法でお酒を造っており、毎年1月に菩提山正暦寺において8蔵合同の酒造りが行われ、その様子はメディアにも紹介されています。また上記菩提酛で造ったどぶろくは、開栓時噴き出しを注意しなければならない醗酵力の強い濁酒であり、根強い人気があります。葛城酒造の一番の特徴は、麹を造るところから全て手作業で行なっているという点ですね。その日の気温や水の温度など環境の変化によってお酒の状態も変化するため、杜氏が自分の目で見て、香りをかいで、触れることでその変化を捉え、丹精を込めて造り上げています。その結果として、「百楽門」のように非常にふくよかで米の旨味が豊かな清酒に仕上がるのです。甘口から辛口まで揃い、日本酒の王道をいく清酒であると誇りを持っています。

譲受側:谷口氏 ブランド「百樂門」

ーーそもそも、酒造に興味を持ったきっかけは?

譲受側:谷口氏

大阪に住み、証券・保険会社で約30年間勤務してきましたが、20代からずっと「ものづくりがしたい」という気持ちがありました。習い事や趣味ではいろんなことをやってみたものの、どれも一生の仕事にするには違う。私はこのまま、自分が打ち込めるようなものに巡り会えないのかな、と思っていた時に考えついたのが酒造りでした。
お酒はもともと好きで、毎晩妹と晩酌をしていました。常々思っていたのが、洋酒や焼酎は、パッケージのデザインに惹かれて購入してもそれほど期待が外れることはないのに、日本酒だけは味や質にばらつきがあるということ。そんな話を妹としている中で、「自分で造ればいいんだ!」と思いついたのです。もちろん当時は酒造りの技術も知識もありませんでしたが、大好きなお酒なら心を込めて造れるだろうと直感しました。

ーー仕事を退職し、未経験の業界に入ることに不安はありませんでしたか?

譲受側:谷口氏

全くありませんでした。むしろ、会社員の頃の方が不安でしたね。毎日ただ生きているだけのような息苦しさを感じていました。酒造りをしようと考え始めてからは気持ちが前向きになり、毎日が楽しいです。今は葛城酒造の事務所兼自宅に一人で住まわせてもらっています。生活スタイルも大きく変わりましたが、こういう生活を私は望んでいたのだと今改めて実感しています。

譲受側:谷口氏

事業承継だから参入できた酒造業界。サポートを受けながら経営を強化

ーー奈良県で事業承継をしようと思った背景は?

譲受側:谷口氏

最初は自分で酒造りをしようと思っていたのですが、酒類製造免許の取得が難しく、新規参入が非常に困難であることが分かりました。調べていくうちにすでに免許を持っている会社を事業承継するという方法があることを知り、まずは奈良県事業承継・引き継ぎ支援センターに登録したのです。
奈良県を選んだ理由は、正直なところ自分でもよく分かりません(笑)。ただ、「酒造りをするなら絶対に奈良がいい」と最初から思っていました。子どもの頃に校外学習で訪れたことがありましたし、会社員時代にも仕事で奈良を訪れて安らいだ気持ちになった記憶があり、おそらく心のどこかで奈良に住みたいと思っていたのでしょう。
登録後、最初に紹介いただいたのが葛城酒造です。歴史が古く、このあたりではその名前を知らない人はいないほど有名なのですが、実は大阪に住んでいた頃は百楽門を飲んだこともなく、全く知りませんでした。それだけに、知られていないことがもったいないと感じました。

ーー初回の顔合わせでの印象はいかがでしたか?

譲受側:谷口氏

久保さんの第一印象は、「やさしそう」。穏やかで、きっといい人だと感じました。葛城酒造の歴史や事業の概要から取引先や経営状況のことなども隠すことなく全てお話しいただいたことを覚えています。それに対して私が伝えられるのは、「酒造りについては何も知りません。でも造りたいんです」という熱意だけ。ただ、「百楽門は絶対に守り続けます」という意志は明確に伝えました。
その時点で「ここを継ぎたい」と私の気持ちはほとんど固まっていました。当初はいろんな蔵元を比較して決めたいと考えていたのですが、同席いただいた事業承継・引継ぎ支援センターの方やよろず支援拠点の方の存在も非常に心強く、「この人たちと一緒ならきっとうまくいく」と確信できたのです。その後、酒造りの技術を学ぶために一年間新潟の蔵元に修行に行き、帰ってきてから具体的な承継の手続きを進めました。

ーー支援機関からはどのような支援を受けていますか?

譲受側:谷口氏

数多くの支援機関が関わってくれました。日本政策金融公庫の奈良支店、事業承継・引継ぎ支援センター、よろず支援拠点、御所市商工会など一体となってあらゆる方面からサポートをしてくださっています。私一人では到底やり抜くことはできなかったでしょうね。
例えば、設備が故障した際にはよろず支援拠点に電話し、活用できる補助金について教えてもらいました。次に窓口である商工会に電話すると、補助金申請の書類作成もサポートしてくださいました。その他の設備も更新時期が来ているので、公庫から資金を融資していただき、順次新しい設備を導入しています。
今はまだ、酒造りで私ができることが少ないので、久保さんが酒造に専念できる環境づくりを行うことが私にできる最大の仕事。多くの人の知恵を借りながら、遅滞なく酒造できる体制を整えていきたいと思っています。

百楽門のあるべき姿は守り抜きながら、自分らしい味を追求していく

ーー酒造りの仕事を始めてみての感想は?

譲受側:谷口氏

一年間、住み込みのアルバイトのような形で久保さんから酒造りを学んできて、手造りだからこそ、味が変化していくところに面白さを感じています。環境による変化もありますが、毎年毎年造ったお酒をたくさんの方に飲んでいただいて、感想を聞いて、「よし、今年も頑張って造ろう」と思えばこそ、前年と同じものではなく、やはりもっと美味しいお酒、少し違ったお酒を造ろうという想いになると思うのです。私はまだまだ見習い中ですが、久保さんもきっとそう考えているのではないでしょうか。同じラベルなのに昨年と味が違う、と言われるお客氏もいるかもしれませんが、昨年より美味しくしようと思って造っているのですから、蔵元からすれば「当然そうなりますよ」と。
力仕事など私には難しい作業は、繁忙期に手伝いに来てくれる方々が手伝ってくれます。気の良い方ばかりで、雰囲気があたたかくて、皆さん楽しそうなんですよ。おそらく、久保さんの人柄に惹かれて集まってこられているのだろうと思います。

譲受側:谷口氏

ーー酒造りについて久保氏からの要望はありましたか?

譲受側:谷口氏

久保さんは、お酒の味や質について「こうしてほしい」というような要望を一切口にはされません。その年によって味が変わるように、同じ百楽門でも私が造るものと久保さんが造るものとでは違う百楽門になるはず。それでも「百楽門を造り続ける」という意志は伝えていますし、味が変わっても、ぶれることなく続いてきた百楽門のあるべき姿というものを私は守り続けていくと思います。久保さんも、それでいいと思ってくれているのではないでしょうか。百楽門ファンにも「ええんちゃう」と言ってもらえると信じています。

ーー久保氏に対して抱いている思いは?

譲受側:谷口氏

尊敬の念しかありません。久保さんが四代目を継ぐまでは、葛城酒造の酒造りは全て雇いの杜氏が担っていました。ところが久保さんの代になり、高齢化などの理由で杜氏がいなくなってしまい、一年間休蔵することになりました。おそらく一時は廃業も考えたのではないでしょうか。それでも、自分自身が酒造りをすることで葛城酒造を守ろうと決心されたのです。お酒を造るには、技術を身につけなければならないことはもちろん、さまざまな装置の扱い方についても全て把握しなければなりません。当時すでに60代だった久保さんが、よく始めることを決心されたなと思います。
そうやって久保さんが大きな決心で守り抜いてきた葛城酒造を、次は私が受け継ぐ番。「絶対にやっていく」と決めたので、プレッシャーは感じていません。久保さんと同じように、淡々と、精一杯造り続けるだけですね。

ーー取引先やご家族など、周りの反応はいかがでしたか?

譲受側:谷口氏

小売店さんには、仕上がったお酒を持って久保さんと一緒にご挨拶にうかがい、「頑張りや」とあたたかいエールをいただきました。
父は、私が会社員に向いていないと考えていたようです。妹も、私が酒造りを決心した瞬間に一緒にいましたから、応援してくれています。母は会社員に比べて不安定な面を心配してくれているようですが、私自身は将来の不安は少しも感じていません。もちろん借入しているお金は返済しなければいけませんが、きっと美味しいお酒さえ造り続けていればなんとかなるだろうと思っています。困ったときは周りの方が知恵を貸してくれますし、焦りもなく、肩の力を抜いて酒造りに向き合うことができています。

ーー今後の展望をお聞かせください

譲受側:谷口氏

酒造りに関しては今は久保さんも現役で、体力の続く限りは頑張るとおっしゃっているので、当面は一緒に造り続けていきます。来年は私ももっと酒造りに注力し、再来年くらいには久保さんが造ったお酒と私が造ったお酒を同時リリースできたら面白いですね。
経営面では、まずは足元の基盤を整理しつつ、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で減っていた生産量を再び元に戻すために、来年は生産量を1.3倍に増やす予定です。その先では、もっと百楽門を多くの人に知ってもらうためのPRにも力を入れていきます。ここは私の役目。ゆくゆくはSNSでの発信や海外輸出、オンラインショップの運営など多方面に展開し、百楽門を広めていきたいですね。多くの方に「美味しい」と飲んでいただけることに勝る喜びはありませんから。
また、承継したばかりではありますが、次の承継者を探すことも私の重要な役割です。葛城酒造を私の代で終わらせるわけにはいきません。いずれは久保さんも引退されるので、その頃には私が酒造りも経営もしっかり担えるように成長し、次世代を育てていきたいと考えています。

万楽門 葛城酒造株式会社

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