事業承継マッチング支援

お金で支配するのがM&Aではない。
50年続く製作所を譲り受けた代表の思い

創業50年の歴史ある澤村製作所を第三者承継(M&A)で譲り受けた、「株式会社カネバン」の代表金子氏のM&Aや事業への想いを知る

Story’s Point

  • 三方良しがビジネスのあるべき姿だと感じ、製造業へ大きく舵を切る。
  • 浪花節で相手の心に飛び込み、行動で示して信頼を得ることから改革は始まっていく。
  • 若者に夢を見せるためにも、上場に向けて邁進していく。
(譲受側):金子氏

(譲受側):金子氏

Company Information

譲受側:株式会社カネバン

譲受側:株式会社カネバン
所在地 東京都青梅市 業種 銀鏡塗装業

三方良しがビジネスのあるべき姿だと感じ、製造業へ大きく舵を切る

ーー御社の事業概要や沿革について教えてください。

譲受側:金子氏

バイクが好きだったこともあり、12坪のプレハブからバイク屋として事業をスタートしました。どんどん人も増やしながら長年バイク屋として事業をしていたのですが、ベスパ(イタリアのオートバイメーカー)を扱っていて海外の部品を作っていたこともあり、製造業もできるのではないかと考えていました。

製造業に転換する転機となったのは、震災でした。ハロウィンの時期だったのですが、とある会社がハロウィングッズを海外で作ってもらっていました。しかし、届いた商品の塗装が剥げていて、全部回収して手直しをしないといけない状態でした。ハロウィンは既に始まっていて今すぐ対応しないといけない状態でしたが、対応できる会社がなく弊社に依頼がきたんです。古いバイクを扱っていたこともあり、難しい塗装の仕事は以前からしていたため、仕事自体は簡単にできました。ただ、10万個ほど直してくれと依頼されて、当時は従業員も10人程しかいなかったので当然会社の人間だけで対応できませんでした。

そこで、当時震災の発生に伴い多くの方々が近くに避難してきていたので、手伝ってもらえないかお声がけしたんです。避難して来た方々も本当に仕事がなくて困っている状態だったため、すぐに仕事を手伝ってくれました。おじいちゃん、おばあちゃんも避難所でみんな手を貸してくれて、お給料を払った時は泣いて喜んでくれました。

その時に、皆さんに喜んでいただけるビジネスをやるべきだと気づきました。製造業の道に進んでいこうと決めて、投資もしながら事業を進めています。今、協力会社も含めて輪ができていて数百人のコミュニティーでモノを作っているのですが、これが一番あるべき姿だと信じています。

従業員には、「独立してもいいし何をしてもいいけど、人から何かを搾取してはいけない。自分の汗の量だけお金を稼ぎなさい」ということを徹底して伝えています。そのため、M&Aを実行してもすれ違いは全然生じず、多くの人が共感してくれています。

ーー御社の経営理念について教えてください。

譲受側:金子氏

経営理念は長年にわたって考えていますが、これだというものにはまだたどり着いていません。今は目の前にあるものを一つずつこなして、事業に取り組んでいます。
テーマとしては弊社のカネバンの看板にも入れているのですが、Alternative industry(オルタナティブ・インダストリー)を掲げています。オルタナティブとは、本流とはちょっと違う全く新しいアプローチをしていくという意味です。例えば、中国やフィリピンなどで製品を安く作れると言われていますが、本当に安いのか一つずつ疑問を持ち、国内で行うためにはどうアプローチするか立ち返って考えながら製造業に取り組んでいます。一つのものの作り方を変えていったり見方を変えたりしながら、事業を行っています。

ーー御社の強みについて教えてください。

譲受側:金子氏

弊社は、これといった強みは実はないんです。それでも成長できているのは、他社よりも少しだけ頑張っているからだと思います。特出した技術がないので、M&Aをしながら全方位をカバーできるようにしています。例えば、澤村製作所さんのM&Aを行う前に、福島で金型屋さんのM&Aを実施しているんです。一つ一つの企業は中小企業ですが、金型を作って成形してモノができて、塗装や印刷をして組み立てて出荷までできる企業は、大企業も含めて日本にほとんどないと思います。

浪花節で相手の心に飛び込み、行動で示して信頼を得ることから改革は始まっていく

ーー2022年6月30日付で澤村製作所様を完全子会社化され、半年近くが経ちましたがいかがですか?

譲受側:金子氏

おかげさまで、事業は加速しています。どちらかと言うとM&Aしたその会社そのものを伸ばすというよりは、グループで抱えている仕事をこなすためにM&Aを進めている状況です。今のところ、構想通りに進んでいます。

譲受側:金子氏

ーーわずか半年で順調に事業が進んでいるのは、素晴らしいと思います。

譲受側:金子氏

マイクロM&AやいわゆるスモールM&Aと言われるものは、非常に難しいんです。大きい会社が小さい会社をM&Aするのは、さほど困難ではありません。しかし、我々のようなスケールの会社が大きい会社をM&Aする場合には、当然従業員のカルチャーなどの理由から難しいんです。そこで、上手くやるには浪花節しかないと考えています。

最初に大きな声で「私は乗っ取り屋じゃない。私も叩き上げでやってきて、皆さんの生活を守るためにここに来たんだ。皆さんも私と一緒に覚悟決めろよ」と浪花節で言うんです。そして、皆さんの生活が一番大切だということも伝えます。「私のために仕事をする必要はない」とグループの全社員に言っています。

「自分とか自分の守るべきものに対してお金を使うために、ここに皆さんは集まってきている。だから、私のために会社のためになんて、考えなくていい。私に文句を言ってもいいから、自分を守るためだけに目の前の仕事を一生懸命やれ。それができなかったから、皆さんの会社は発展できない。」と、相手の心に飛び込むように最初にストレートに言います。それからは、自分も作業着を着て従業員と一緒に真っ黒になりながら作業をして、行動で示すことによって信頼を得ることから改革は始まっていきます。お金払って株式を取得したから私の言うことは絶対だなんて言っても、従業員は全然ついてきません。

ーーしっかり思いを伝えることから始められていることがわかります。

譲受側:金子氏

M&Aはお金で上から縛りつけて、支配下に置くことではないんです。経営者が一番先に乗り込んでいって真っ黒になって一緒に作業をして浪花節を語る、お金の前の話をしっかりしたうえで手を取って事業を進めていきます。採算の取れないものはどんどん切っていきますが、そのかわり賃金にも確実に反映させるようにしています。経営者の覚悟が問われていると思います。

成長するために高い技術を持つ中小企業の力が必要

ーー第三者承継を考えたきっかけは何だったのですか?

譲受側:金子氏

会社として、これから成長していかなければいけないと考えています。日本では中小零細企業は高い技術を持っているのに世の中に出てこられないまま終わってしまう傾向があるため、どんどん取り込んで成長していこうと考えています。ある程度業種は絞っていますが、予定していない業種であっても、いいご縁があれば検討します。

ーー事業承継に際して、専門家や支援機関など公的な支援施策を受けられましたか?

譲受側:金子氏

特に受けていません。M&Aを行うためのチームを社内にも社外にも持っていて、銀行さんと事前の調整をしながら臨んでいます。当社は、M&Aするまでの期間がものすごく短くて、1~2ヶ月で集中して行っています。

ーーお相手探しをする際に重視しているポイントを教えてください。

譲受側:金子氏

買収条件は全然決めていませんが、1点重視しているのは、汚いのに売上を上げている工場を買うことです。汚いものは綺麗にできますが、既に綺麗だと改善のしようがなく事業収益を上げられないのです。例えば、モノが置いてあって体を横に向けないと通れない道があるとします。その時には、道の荷物を片づけるだけで導線が良くなって、生産効率が上がるんです。整理整頓ができていないのに売上を出している会社ならば、片づければさらに売上を上げられるので、整理整頓がされているのかを見るようにしています。

ーー初めてお相手にお会いした際の印象を教えてください。

譲受側:金子氏

私が出会った時は、社長は84歳ぐらいで自分の親よりもはるかに年上の方でした。話をしていて本当に聞いているのかなと不安になることもあったんですが、技術や仕事の話になると目の色が変わって、切り替えのスイッチが本当に面白いなと思いました。戦中から生きてきて戦後の何にもないところから会社を立ち上げていき、日本の高度成長を支えてきたと考えると矜持を感じました。

ーー交渉をする際に気をつけていたことはありますか?

譲受側:金子氏

社長には「ごめん。お金ないし分割もさせてもらうかもしれない。だから、他に条件がいいところがあれば、そっちと契約してください」と正直に言いました。また、「この会社が伸びるには私と手を組むしかないよ。私ならここの従業員を全員幸せにできるから、私を信じてほしい」と言って、その日は帰りました。

2回目の交渉では、ここで事業承継をやるかやらないか決めようと話しました。「ノーであれば明日から別の会社を探すし、社長が今、私に任せると言ってくれるなら実印も持ってきてるから、ハンコを押していく」と話したところ、「いいよ。私もハンコを押す」と社長が言ってくれて合意に至りました。

澤村製作所さんは結構前からいろんな会社がオファーしていて、当社よりもかなり大きい会社からも提案を受けていたそうです。でも、社長が全部断っていたと聞いています。家族も事業承継を諦めていた矢先に突然親族全員が呼ばれて「承継先を決めた」と言われて、みんなで泣いたと言われてましたね。

ーー多くの会社が断られる中で、御社が選ばれたのはなぜだとお考えですか?

譲受側:金子氏

事業の歴史や思いが響いたのかなと思います。80歳を過ぎても会社を経営されていて、お金を基準に天秤にかけることはなかったでしょう。製造業を営んでいるものにしかわからないものを感じて、決めてくれたのだと思います。

ーー合意に至った決め手は何だったのでしょうか?

譲受側:金子氏

技術も決め手でしたが、一番の大きな理由はシナジーが効くことです。そのため、短期間で大量の製品を作れる会社は貴重な存在でした。

ーー事業承継に際して、先方に提示された条件を教えてください。

譲受側:金子氏

金額以外には特に何も言われていませんでした。しかし、従業員を継続して雇用することは絶対だと考えていましたし、「もし社長が辞めて従業員が辞めるというのであれば、このM&Aはしない」と社長に言いました。「この従業員がいるから私はM&Aをするんだから、当然待遇も良くするし従業員は絶対辞めさせないように」とお願いして、「社長もしばらくは残ってお目付け役として見ててよ」という話もしました。

若者に夢を見せるためにも、上場に向けて邁進していく

ーー今後の展望を教えてください。

譲受側:金子氏

上場も視野に入れながら、現在は企業グループを慎重かつ素早く拡大している段階です。大手の資本がなくても社を起こして製造業として上場できることを若い子達にも見せてあげたいです。ここ20〜30年間で、プロパーで一からやってきて、上場しているものづくりの会社は実際ありません。
銀行に絶対成長しないと言われた経験もありますが、ここまでくることができました。いつか上場を果たし、若者達に夢を見せたいです。

譲受側:金子氏

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