新オーナーの下で新たなスタートを切った有限会社アーバンサービス。事業承継を決断した背景には、従業員を第一に考える気持ちがあった。そこで前社長の原田氏に、事業承継の経緯や想いを尋ねた。
(譲渡側):原田氏
譲渡側:有限会社アーバンサービス |
譲渡側:原田氏
もともとは宝石店に勤めていたんですが、バブルの影響で脱サラしてハウスクリーニング事業を創業しました。次第に事業を拡大しようと考えるようになりました。
現在の弊社のメイン事業は、賃貸マンションや戸建て住宅の原状回復です。新しい住人のために、退去者が出た部屋の不具合を直して綺麗にしています。当初は見よう見まねでやっていて、従業員も私の他には1名しかいませんでした。そこからしばらくして、まじめでやる気のある従業員が入社し、本格的にやろうと道具等も揃えていきました。さらに左官の経験がある人も入社してくれて、徐々に体制が整ってきたという経緯です。
譲渡側:原田氏
弊社には多能工(複数の技術を持つ技能者)が複数人いるので、あらゆる作業を弊社だけで行えます。お客様から電話をいただいてから、見積書の作成から施工まで一貫して対応できること、そしてそのスピードがセールスポイントです。もちろん外注することもありますが、外注するとコストもかかるだけでなく、スケジュールの関係で思うように仕事が進められないケースもあります。そこで出来る限りの作業を自分たちでやるために、幅広い業務を内製化しています。
譲渡側:原田氏
現在、一番の得意先になっている会社と信頼関係を築くことができたのは、依頼を受けてすぐに見積書を出したことがきっかけでした。見積依頼から提出までのスピードはかなり気をつけています。
譲渡側:原田氏
弊社の業務の7〜8割は練馬区、板橋区、杉並区からのご依頼になっています。なぜなら、現場間の移動を考えると近隣の方が、効率的に仕事ができるからです。また、不測の事態があった場合でも、すぐに会社に戻って対応できるメリットもあります。仕事で使うのは特殊な道具なので、ホームセンターで購入することもできないんですよね。
譲渡側:原田氏
今までは現場作業に追われまくって、後継者教育がまったくできていませんでした。結局後継者を育てられないまま75歳を迎えて、一昨年に大きな病気になったんです。その時に、「自分が仕事をできなくなったら、従業員は路頭に迷ってしまうかもしれない」と気が付いたんです。弊社の従業員にも支える家族がいます。そこで自分に何かあっても、従業員の生活を保障して仕事が継続できる方法はないかと考えて、事業承継を決断しました。
譲渡側:原田氏
最初は知り合いに受け継いでほしいと考えて、具体的な話もしていました。事業承継はただ会社が売れればいいわけではなかったので、継いでもらう人の人間的な要素も重要視していました。そのため見ず知らずの人間に会社を継いでもらうのは心配だったので、人間性を十分に理解できている知り合いに話をしていたのですが、上手くいかずに、広く相手探しをするようになりました。
譲渡側:原田氏
第三者承継では基本的に初対面の方が候補になるため、どうしても人柄を完全に判断できない部分もありました。私に何かあっても従業員が守られる環境をつくるために事業承継を考えていたので、承継先は経営が安定していることを第一に考えていました。
譲渡側:原田氏
現場感覚がある方だったので、最初から好印象でした。また、相手は多能工を求めていましたので、お互いのニーズが一致してたんです。
譲渡側:原田氏
2社です。早々に素晴らしい人に出会えて、本当にラッキーでした。すごく早く決まって、マッチングをしてくれた担当者の方も驚いていました。普通は10社も20社も会ってもなかなか決まらないらしいのですが、弊社は早々にマッチングできました。
譲渡側:原田氏
最初に事業承継の話をした時に、彼らが一番不安に思っていたのが、どんな人が来るかということでした。従業員から「僕らは原田社長の人柄もあって、この会社で仕事を続けていますので、他の人に来られたら会社を辞めるかもしれない」と最初に言われたことがずっと頭に残っていました。
しかし、本当に良い人に来てもらえて、今はみんな新社長のことを尊敬しています。新社長はまったく威張ることもなく、年下の従業員にも敬語を使って接してくれる人です。それに従業員と世代が近いため、仕事以外にもゲームやアニメなどの話で盛り上がって和気あいあいとしています。
譲渡側:原田氏
まったくわからなかったです。そのため、日本公庫からのアドバイスは非常に助かりました。
譲渡側:原田氏
飾らずに、全部正直に話すのがいいと思います。後は説得力のある交渉をしないといけないので、自社のセールスポイント等を整理して準備をしておく必要があります。財務諸表ではわからないこともいろいろあるので、相手としっかり話すことが大事だと思います。
また、とにかく相手を観察することも大事です。私の考えとしては、初対面でダメだと感じた人は合わないと思うんです。難しいと感じたらどんどんいろんな人に会って、事業承継を進めるのが良いと思います。
譲渡側:原田氏
従業員の給与や休暇などの就労条件は維持してほしいとお話しました。弊社はどんなに苦しい状況でも、金額の差はあっても毎年必ず昇給してきました。そのため従業員は昇給を当たり前だと思っているので、就労条件は維持してほしいと伝えました。
また、私は譲渡した後、しばらくは残るという話もしました。とにかく自分が早く楽になりたいだけなら、会社を早く売って自分の会社ではないのでさよならで済むんです。しかし、私は会社を売った後が大事だと思いますので体調に気をつけつつ、ある程度目途がつくまでしっかり仕事を続けていきたいです。
譲渡側:原田氏
少子化の影響から、後継者問題に悩んでいる経営者はたくさんいるはずです。そのため後継者問題を解決するには、基本的に第三者承継しかないという印象です。
譲渡側:原田氏
新社長の推薦もあり、現在弊社で社歴の一番長い人間が仕事の管理を任されています。しかしまだ対応できないこともあるので、これから成長してほしいと思っています。
譲渡側:原田氏
従業員を第一に考えることが重要だと思います。良い条件で買ってもらおうと目先のことだけを考えるのではなく、働いてくれる従業員を大事にするんです。弊社の場合はありがたいことに大きな変化なく仕事ができています。新社長となる方と、納得できるまで何度も顔を合わせて、腹を割って話す機会をつくるといいでしょうね。