佐賀駅徒歩5分という好立地に立つ理容室が、令和元年に「ロビン」から「メンズヘアー ファン」へとオーナーチェンジ。店名と雰囲気は変わっても、
「お客さま一人ひとりとじっくり向き合う」という姿勢はそのまま受け継がれている。
現経営者 西村 嘉孝氏
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メンズヘアー ファン |
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譲渡側:A氏(当時86歳)
「ロビン」経営者(当時)
年齢的な理由により廃業を検討していたが、この地に理容室を残したいという想いから第三者への事業承継を希望。
譲受側:西村 嘉孝氏(当時33歳)
「継ぐスタ」希望者
佐賀市内の理容室で経験を積み、独立を決意。店舗を探すなか「佐賀県理容生活衛生同業組合」の紹介でAさんと出会う。
譲受側:西村氏
高校を卒業するとすぐに佐賀市内の理容室に入社し、働きながら専門学校に通って理容免許を取得しました。人よりも手先が器用とか、センスがずば抜けているといった“天才肌”ではないと自覚していたので、その分を練習量でカバーしようと毎日仕事が終わると猛特訓。その甲斐もあって佐賀県のヘアーフェスティバルで最優秀賞を6度受賞し、受賞をきっかけに理容組合からカットの講師を依頼していただくようになりました。
理容師の仕事は一人前になるまで10年かかると言われています。私の場合、10年目がちょうど30歳。節目の年ということもありその頃から独立を考えはじめました。当初は新たに店舗をオープンさせるつもりで物件を探していたのですが、あるとき「継ぐスタ」という創業形態を知り、理容組合の方に相談したところ、ロビンを長年営んできたAさんを紹介していただきました。偶然にも私が相談した数日前に「誰か継いでくれる人はいませんか」とAさんも理容組合に相談されたそうで、まさしく運命的なタイミングで出会うことができました。
初めてお会いしたAさんはとにかく温かみのある方で、奥様も「今のお客さまさえ大切にしてくれれば、お店は好きにしていいからね」と言っていただけたことで、私の心は決まりました。辞めてしまう人が多いこの業界で86歳まで現役であり続けたAさんに尊敬の念も抱いていたので、「尊敬する人が築きあげた、生きているお店の物語を承継するのだ」といううれしさと同時に責任感も生まれました。
接客もカットも「とにかく丁寧に満足度の高いサービスを提供する」が西村さんのモットー。
譲受側:西村氏
Aさんとの譲渡契約を経て、内装と外装の工事に着手。椅子などの備品も新しいものに変えました。ただ店の前の三色のサインポールは「使わせてください」とAさんにお願いしました。先代からのお客さまに少しでも安心感を持ってもらい、ロビンの思い出を振り返っていただくきっかけになればと思ったのです。
Aさんのお客さまに対する思いは非常に強く、「メンズヘアー
ファン」のオープン当初は、常連のお客さまがいらっしゃるとAさんがそっと横に来て、その方の髪の生え方や癖などを教えてくださいました。引退される時も、「西村さんは人柄もいいからよろしくね!」とお客さまに伝えて、うまく引き継いでくださいました。先代からのお客さまが結婚し、お子さまと一緒に来店いただけることもあるのですが、その時は、一家揃ってくつろいでもらう、そんな場所になればと思っています。今は、赤ちゃん筆などもありますので、「0歳から90歳代まで」本当に幅広い層のお客さまのカットができるのは、承継ならではと感じています。
「メンズヘアー
ファン」がオープンして約3年。カウンセリングやカットはもちろん、シャンプーや仕上げまですべて私が担当するので体力的には大変な日もありますが、お客さまの笑顔を見ると不思議と疲れが吹き飛びます。これからも来ていただいたお客さまに喜んでもらう、「一日一笑」を心がけて頑張ります。そして先代のようにこの地で長く営業し、いずれは先代と私の物語とともに、次の誰かにこの場所を受け継いでもらうのが夢です。
先代「ロビン」から受け継いだ三色の サインポールが店の目印になっています。
お客さまから開店祝いで届いた植物。店名「FUN」には、お客さまに笑顔になってもらいたいという想いが。
譲渡側
譲受側
譲渡側
理容室「ロビン」創業
先代の店「ロビン」の看板が今も店内に
譲渡側
高校卒業後、佐賀市内の理容室で勤務
譲渡側
独立に向けた準備として、佐賀市の産業支援相談室に 相談し、「後継者人材バンク」※に登録
譲渡側
高齢で後継者もいなかったため、
理容室の今後について、
佐賀県理容生活衛生同業組合に相談
譲受側
「継ぐスタ」について佐賀県理容生活衛生同業組合に相談。Aさんを紹介される
譲受側
条件交渉と同時に事業計画書作成に着手
譲渡側
理容室「ロビン」を西村さんに事業譲渡
譲受側
事業譲渡契約を締結日本公庫から、店舗リフォーム工事費用等の資金を調達
譲受側
「メンズヘアー ファン」オープン
譲渡側
事業承継を進めるうえでの原動力は?
西村「自分の店を持ちたい」という子どもの頃からの夢が原動力に。理想の空間を作るために、椅子は靴を脱いでリラックスできる座り心地の良いものにして、内装工事では品質の良い材質のものを使用するなど、細部までこだわりました。
事業承継後に工夫したことは?
西村 新規のお客さまを獲得するため、美容系の検索・予約サイトに登録しました。
事業承継後の状況は?
西村 コロナ禍のオープンとなり不安でしたが、「完全貸切・マンツーマン接客」が密を避けたいお客さまから支持され、想像していたよりも忙しいスタートで、今も売上は順調に伸びています。
譲受側:西村氏
先代からのお客さまをそのまま受け継がせていただけた点が大変ありがたかったです。独立した先輩もたくさんいますが、私のような事業承継パターンはなかったですね。独立時に新規顧客の獲得に苦労したと聞いてましたし、やはり、ゼロからではなくイチからスタートできることが事業承継のいいところではないでしょうか。また、理容室は水を使用するため給水・排水設備が必須で、店舗づくりでは、建物の配管の位置が重要になってきます。その点、今回は理容室をそのまま譲渡していただくことができましたので、水道工事を行う必要がなく、初期費用を抑えることができました。
譲受側:西村氏
理容組合の方が、うまく私とAさんの間に入ってお互いの意思疎通をサポートいただけたのは助かりました。実は、Aさんから「椅子もそのまま使ってよ」と言っていただいたのですが、自分が作りたい空間とはマッチしないと感じました。理容室の椅子は高価ですし、「少しでも初期費用を抑えられたら」という優しさで提案くださったのだと思います。理容組合の方にうまく間に入ってもらいつつ、最終的には、私からAさんに率直に意見を伝えたところ、ご納得いただけました。
西村さんこだわりのフルフラットの椅子で、お客さまに上質なくつろぎを提供しています。
譲受側:西村氏
お店の2階は引き続きAさんの自宅になっています。「店舗兼自宅」の理容室とはいっても、お店と生活空間の動線がしっかり分かれていたので、特に気にならなかったですね。それよりも、オープン当初はAさんがそばにいてくれて心強かったですし、Aさんとしても、私から賃貸収入が入るので、お互いWin-Winの関係だと思います。確か、2階も事業者の方に賃貸する話もあったようですが、上でバタバタするのも困るだろうからと気をつかって継続して住んでくださり、本当にありがたかったですね。
1階が理容室で2階が先代の自宅になっています。