住宅等の建築に使用する木材をあらかじめ工場で切断・加工する木材プレカット事業を地域でいち早く始めた株式会社服部建設。
約40年にわたって培われたプレカットの技術は株式会社郷原組へと受け継がれ、寺社仏閣などの伝統建築物の建築・改装に活かされている。
左側(譲受側):株式会社郷原組 代表取締役 郷原 亮介氏
右側(譲渡側):株式会社服部建設
代表取締役(当時) 服部 栄一氏
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株式会社服部建設 |
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譲渡側:服部 栄一氏(当時73歳)
株式会社服部建設 代表者(当時)
熊本県山鹿市における木材プレカットの先駆者。自身の高齢化と後継者不在を理由に廃業を検討するなか郷原さんと出会う。
譲受側:郷原 亮介氏(当時45歳)
株式会社郷原組 代表者
寺社建築で有名な京都の「金剛組」で勤めた後、「郷原組」を設立。日本伝統建築技術保存会が定める「棟梁」に認定されている。
譲渡側:服部氏
服部建設が木材プレカット事業を始めた頃は、熊本県では同業はなく、うちが初めてでした。そのためスタートして約15年はもう忙しくて、忙しくて。職人全員が休みなく働いていました。10年ほど経った頃から、少しずつプレカットを行う会社が増えてきたのですが、ほとんどが決まった形のプレカットを行うのみ。その点、服部建設はお客さまのオーダーに細かく応えたプレカットサービスを提供していたので、設立から長きにわたってこの地で営むことができたのだと思っています。
譲受側:郷原氏
そんな服部建設の評判を聞きつけて仕事を依頼したところ、製材所経由で「廃業を考えている」という話を聞き、驚くやら、残念やら、複雑な気持ちになりました。しかしパッと気持ちを切り替えて、これはチャンスだと考えるように。以前から工場が建てられる土地を探していましたし、伝統建築にもプレカットの技術は欠かせないもの。服部建設の木材プレカット事業を受け継ぐことができれば、木材の加工・保管を内製化でき、わが社の生産性は大幅に向上すると思ったのです。
譲渡側:服部氏
私もそうですが職人もみんな高齢でね。後継者もいないし、ここらが引き時かなと思ったのです。いくつか承継したいというお話はあったのですが、なかでも特に熱意を感じたのが郷原さん。それに私はずっと和風建築が好きで、寺社建築にも憧れがあったんですよ。自分が 築いてきた技術や知識が、憧れの寺社建築に活かされるのであれば、こんな素晴らしいことはないと思い、郷原さんへの譲渡を決めました。
熊本地震で倒壊した「妙立寺」の山門を郷原組が新築。
譲受側:郷原氏
服部さんに快いお返事をいただけたものの、私が資金を調達できるか不安でしたし、事業承継の手続きをどう進めていいのか分からず困っていたのですが、商工会が筋道を立ててくれたので助かりました。結果的に私と服部さん、そして菊池市商工会と山鹿商工会議所の担当者、さらには県の商工会連合会や事業承継・引継ぎ支援センターの担当者と大人数になりましたが、契約までチーム一丸となって進められたので非常に心強かったです。
譲渡側:服部氏
あまりないケースということで各所が協力してくれたんですよね。最後は山鹿商工会議所で調印式まで開催してくれ、ありがたい限り。いざ譲渡するとなると、やはり寂しい思いも少しありましたが、それ以上に、築いてきた事業が残るのだという喜びの方が大きかったです。
譲受側:郷原氏
私は調印式で「いよいよだ」と身が引き締まりました。工場を持つとなると経費が大幅に変わってくるので、これまでと同じスタンスで仕事をするわけにはいきません。営業の強化に加えて、プレカットのみの依頼を請け負える体制を整えようと考えています。
譲渡側:服部氏
プレカットのみの依頼も対応してもらえるなら、これ以上に嬉しいことはありません。私のところにいまだに「プレカットしてほしい」という電話がかかってくるので、皆さん待っていると思います。
譲受側:郷原氏
それは急がなくてはいけませんね。そのためには職人を増やす必要がありますし、服部さんにもより高いレベルの技術を教わらなくては。これからも技術指導をよろしくお願いします。
日本の建築ではプレカット材を使った施工が大部分を占めています。
郷原組で活躍するのは寺社仏閣専門の職人たちです。
譲渡側
譲受側
譲渡側
父と2人で服部建設を創業
譲受側
父が郷原建設を創業
譲渡側
木材プレカット事業をスタート
譲渡側
株式会社服部建設を設立し、法人成り
譲渡側
木材プレカットとは何ですか?
服部 住宅等の建築に使用する柱や梁(はり)等の接合部分等をあらかじめ一定の形状に加工することです。
譲受側
寺社建築で知られる「金剛組」に入社。日蓮宗総本山の身延山久遠寺の五重塔修復など数々の伝統建築に携わる
譲受側
熊本に戻り、株式会社郷原組を設立し、法人成り
譲渡側
自身と職人の高齢化を理由に廃業を考えはじめる
譲渡側
取引先を通じて郷原さんと出会う
郷原さんの誠実な姿勢、熱意に惹かれ譲渡を決意
譲受側
取引先を通じて株式会社服部建設を知り、
事業承継を打診
譲渡側
事業承継を進めるうえでの原動力は?
服部 私どものように伝統工法に対応できるプレカット会社はそれほど多くありません。長くお世話になったお客さまのためにもなんとか引き継いでいければという想いで進めました。
譲受側
事業を受け継ぐことについて合意。
事業承継の進め方を菊池市商工会に相談
譲渡側
株式会社郷原組に事業譲渡
譲受側
日本公庫から工場・機械の買取等の資金を調達。
事業譲渡契約を締結
譲渡側
引き継ぎ後は10日に1度ほど工場を訪れ、
技術の指導などで協力
譲渡側
今後の取組みは?
郷原 まだ整ってはいないのですが、これからはプレカットのみの案件も引き受けられるよう、工場に職人が常駐できる体制を作りたいと思っています。
譲渡側:郷原氏
良かったことしかない、というのが本音です。特に土地と工場、設備はもちろん事務所の備品をすべて受け継ぐことができた点が大きい。一から揃えるとなると、もっと多くの資金が必要だったと思います。
譲渡側:服部氏
工場や機械をまるごと譲渡できたことは私としてもメリットが大きかったです。更地にするにも解体費用がかかりますから。機械もまだまだ使えるものが多かったですし、そのまま引き継いでいただけて助かりました。
工場の機械のほか、事務所の備品まですべてを引き継ぎました。
譲渡側:服部氏
廃業を検討していると周囲に話していたところ、取引をさせていただいていた会社が2社ほど承継に名乗り出てくれました。ただ、どちらも既にそれなりの規模の工場を持っていましたから、それならばこれから工場を持とうとしている郷原さんに譲ろうと考えたのです。お得意 さんも大切ですが、この先、若手が伸びる環境を作ることはもっと大切。私がプレカットを始めたときの気持ちを思い出したこともあり、郷原さんを応援することに決めました。
広々とした工場には服部さんの想いが詰まっています。
譲渡側:郷原氏
事業承継の具体的な進め方が分からなかったため、日頃から接点のあった商工会に相談しました。 県の商工会連合会の専門部署や事業承継・引継ぎ支援センターを巻き込んで対応してくれて、手続きがスムーズに進みましたし、センターに紹介してもらった専門家に契約をサポートしていただき、非常に助かりました。資金調達も商工会が日本公庫を紹介してくださり、手続きもサポート。ここも商工会に相談して良かったと感じたところです。
お互いにいい人に出会えたと笑顔の二人。