オーストラリア産のワインや極小酒蔵の日本酒を取り扱う酒屋「地酒とわいん かもす」。
「店を持ちたい」という夢を叶えた現経営者は、先代の想いをしっかりと受け継ぎ、「かもす」の成長のため奮闘している。
左側(譲渡側):先代経営者 石垣 泰介氏
右側(譲受側):現経営者 山本 純哉氏
有限会社ファーストステップ |
譲渡側:石垣 泰介氏(当時72歳)
「かもす」創業者 有限会社ファーストステップ 代表者(当時)
大手ビール会社出身。地方の小さな酒蔵を絶やしたくないという想いから創業。
譲受側:山本 純哉氏(当時54歳)
「継ぐスタ」希望者
大手酒類製造会社出身。長年輸入ワインに関わる仕事に従事し、いずれは自分の店を持ちたいという想いを持っていた。
譲渡側:石垣氏
事業承継を考えたのはふとしたことがきっかけでした。公庫さんとは創業以来のお付き合いで、融資の相談に伺ったときに「後継者はいますか?」と尋ねられたんです。そのときは「後継者はいませんよ」という話をして帰ったんですが、私も70歳。事業承継には時間がかかるという話も聞いていました。後日、改めて相談に伺い、後継者を探すため、日本公庫の「事業承継マッチング支援」に登録することにしました。
譲受側:山本氏
私はこれまでワインに携わる仕事をしてきて、いずれは独立することも考えていました。ゼロから起業するという選択肢もありましたが、資金面や取引先とのネットワークのことを考えると既存の事業を活かした方が良い。日本公庫の「事業承継マッチング支援」に登録し、お相手探しを始めました。日本公庫のホームページに掲載されている譲渡希望の方の情報を見ていたら、私のイメージに近いお店があったので、すぐに面談を希望しました。
譲渡側:石垣氏
「事業承継マッチング支援」に登録後、予想していたよりも多くの応募があったことに驚きました。ただ、「経営の多角化のため」といった理由の方が殆どで理想のお相手ではありませんでした。これまで築いた「常連客や酒蔵との関係を途絶えさせたくない」との想いが根底にありましたから、1〜2年で「やめた」と言われたら意味がないなと。そんな中、応募してくださったのが山本さんです。酒の小売業界のことをよくご存知でしたし、お酒に対する知識や興味をきちんと持っていらっしゃる方で、この方なら「かもす」を任せても大丈夫だと思ったんです。
こだわりの日本酒とオーストラリア産のワインが所狭しと並ぶ店内。
譲受側:山本氏
石垣さんとのお話も円滑に進み、あとは譲渡の条件をどう整理していくかというところですが、公庫さんが色々とアドバイスをしてくれたので、話し合いもスムーズに進みました。
譲渡側:石垣氏
取引先との関係を維持して欲しいなど、自分が大切にしたい条件を明確にしておいたので、条件面の交渉で迷う場面は殆どなかったですね。山本さんは、この業界をよく知っていらっしゃるので話しもスムーズでした。
譲受側:山本氏
承継の手続きが完了し、自分の店を持つという夢が叶った喜びは大きいですが、その気持ちを抑えながら、当面は「かもす」のスタイルを変えずに、地に足をつけて経営していきたいと思っています。目下の課題は日本酒の知識を高めること。その他にもお店の運営など学ぶべき点は多々あります。石垣さんには顧問になってもらい、経営上のアドバイスをいただくことにしました。
譲渡側:石垣氏
“変えずに”とおっしゃってますが、山本さんに期待しているのは、新しいお客さまを掴んでいくこと。既存のお客さまも段々と減っていきますからね。山本さん自身がこだわりを持ってやってくださるならば、変えるべき部分は変えていいと思ってます。
譲受側:山本氏
そういった点では、オーストラリア産のワインというくくりは外していないですが、新しいタイプのワインを入れたり、酒蔵が作っているみりんの取扱いを始めたり。これから、少しずつ自分の色を出して工夫をしていきます。
譲渡側:石垣氏
当初、こんな小さなお店を引き継いで大丈夫かと不安もありましたが、若い人は力がありますからね。口を出し過ぎないようにして、見守っていきたいと思います。
石垣さんによって説明が書かれたポップやワインの木箱などもそのまま受け継がれています。
「新型コロナウイルスの感染状況を見ながら、試飲会も再開していきたいですね」と山本さん。
譲渡側
譲受側
譲渡側
お店を開業した理由は?
石垣 地方の小さな酒蔵を存続させたいという想いから開業しました。ただ、地酒だけでは売上が伸びないので、コストパフォーマンスの良いオーストラリア産のワインを取り扱うことで独自性のある店を目指しました。
譲受側
学生時代にソムリエの資格を取得
譲受側
酒類製造会社に就職。
以来、輸入ワインの仕事に携わる
譲渡側
有限会社ファーストステップ設立。
酒類販売業免許を取得し、「かもす」をオープン
譲受側
独立した時のことを考えて、
賃貸用の不動産を取得する
譲渡側
日本公庫「事業承継マッチング支援」に登録
信頼できる方と出会えればという思いで
5年~10年ほどのロングスパンで考えていた
譲受側
勤務先のワイン事業が縮小し、本格的に独立を考え始める。
「事業承継マッチング支援」に登録
譲渡側
数多くの譲受希望者から問い合わせあり。
その中の一人であった山本さんと面談
譲受側
「かもす」の店舗を視察。
条件を調整
譲渡側
山本さんと株式譲渡契約を締結
譲受側
勤めていた会社を退職
譲渡側
日本公庫「事業承継マッチング支援」に登録
取引先や常連客との顔つなぎを丁寧に行う
譲受側
店舗を引き継ぎ、オーナーとして店に立つ
譲渡側
事業承継後の状況は?
石垣 店を譲ったことへの寂しさもありますが、山本さんらしさが出るようにサポートしていきたいですね。ワインの試飲会に呼んでもらって、常連のお客さまに会えるのが楽しみです。
譲渡側
日本酒を勉強中!
山本 ワインの知識は豊富ですが、日本酒の知識が不足しています。酒蔵独自の特徴を石垣さんにアドバイスいただき、勉強しているところです
譲渡側:石垣氏
信頼できる方に想いを託せたことだと思います。日本には小さくても素晴らしい酒蔵がたくさんあります。店を残すことで、そうした酒蔵の力になれるのはうれしいですね。また、他店では扱っていないような珍しい地酒を取り揃え、オーストラリア産のワインに特化していることから、わざわざ遠方から来てくださるファンもいらっしゃいました。「かもす」にご縁のあったお客さまへの義理も果たせたと思っています。
流通量が少ないながらも、おいしい日本酒を造る酒蔵の役に立ちたいという想いから創業されました。
譲受側:山本氏
経営者になって思うことは、想像していたより大きなエネルギーが必要だということです。一人で何でもやらないといけないですし、これまでとは仕事のスタイルも大きく違います。継ぐスタの良いところは、これまで培ってきたノウハウや経営資源を受け継ぐことができること。私も石垣さんから色々な面でサポートしていただいています。ゼロからスタートするよりも負担を軽減することができ、創業後の経営を円滑に進めることができました。
長年培ってきたワインの知識を生かして、お客さまに最適な銘柄を提案できればと語る山本さん。
譲渡側:石垣氏
小さなお店でも事業を譲り受けたい方がたくさんいらっしゃることに驚きました。第三者に譲り渡すので、お相手がどんな方か気になりますが、公庫さんを通しているので安心感がありました。
譲受側:山本氏
「かもす」を紹介していただけたことに感謝です。また、公庫さんからは資金面のサポートだけでなく、承継後の経営の一助になればと商工会議所を紹介してもらいました。一人で悩むのではなく、支援機関を頼ることも大切だと感じました。
お互いにいい人に出会えたと笑顔の二人。