ソーシャルビジネス・トピックス第22回 ソーシャルビジネスの法的リスクマネジメント①
~業法~

執筆者
NPOのための弁護士ネットワーク
弁護士 日向寺 司

■業法とは

「業法」という言葉をご存知でしょうか。

業法とは、特定の業種について、それを営むことを事前・事後に規制し、適正な運営を図らしめることで、消費者保護または公正な産業発展等の政策目的(公共の福祉)の達成を図る法律のことをいいます。法令用語ではなく、俗語ないしは業界用語です。こういった類の法律の名称に「〇〇業法」というものが多いことから、こう呼ばれるようになったものと思われます。

どれくらいの業法があるのか、正確な数字はわかりませんが、Wikipedia(2018.11.26現在)によると、少なくとも130はありそうです。

その中には、「石油パイプライン事業法」のような、ソーシャルビジネスからは縁遠いものもあります。しかし、旅行業法や道路運送法など、一見すると関係ないように見えながら、実はソーシャルセクターの活動が規制の対象となりうるものもあります。

そこで、今回は、ソーシャルビジネス上のリスク(法令違反リスク)の1つとして、業法規制をご紹介します。紙幅の関係上、取り上げる内容が限られますことはご容赦ください。

■ソーシャルビジネスへの業法適用

「業法は、営利事業に適用されるから、ソーシャルビジネスには適用されないのでは?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。多くの業法は、「業として」、特定の事業を行う場合に規制をかけています。そして、このときの「業として」の解釈が問題となることも少なくありません。この解釈は、業法毎に異なる面があることは否定できず、簡単にご紹介できるものではありませんが、少なくとも、個人的、家庭的な程度のものであれば適用されないということは共通項として存在するといってよいでしょう。

このほかに、反復継続性が必要といわれることもありますが、これも個人的、家庭的な程度であれば問題はないのですが、それ以外の場合は1回ではなく継続してなされることが多いから、といえると思います。また、営利性が必要といわれることもありますが、このときの「営利性」は、出資者(株主)に利益を配当することではないと解釈されることも少なくありません。

以上のことからわかるのは、ソーシャルビジネスだからといって、業法のいう「業として」行う事業に該当する場合がほとんどだ、ということです。(ソーシャルビジネスもビジネスである以上、当然といえば当然ですね。)(全く業法適用の心配がないのは、完全なボランティア(無償)の場合のみです。)

■被災地へのボランティアツアーと旅行業法

次は、具体例を見てみましょう。

「A社は、東日本大震災の被災地の復興支援のために何かできないか真剣に検討し、被災地とボランティアとを繋ぐことができればと考えた。そこで、東京から被災地への移動をツアー化・パッケージ化することにした。これにより、ボランティア希望者は、移動・宿泊場所等の不安要素を取り除くことができ、また、そのボランティアを必要としている被災地は、あらかじめA社に情報を提供することで、的確にボランティアを集められるようになった。A社はボランティア希望者から、参加代金をまとめて徴収し、そこから移動手段のバス代や宿泊代を支払った。」

大変意義のあることに思えますが、A社が行うこの事業は「旅行業」に該当するため、旅行業の登録をしていなければ、旅行業法違反となります。

旅行業の正確な定義をすると紙幅が足りないのですが、誤解を恐れずに言えば、「移動・宿泊の計画・手配を事業として行うもの」です。A社は、被災地への移動手段と宿泊場所のプランニングをし、ボランティアに代わって予約等の手配をしていますので旅行業に該当します。

この旅行業違反の場合、1年以下の懲役・100万円以下の罰金に処せられます(旅行業法3条、74条1号、82条)。

もっとも、このボランティアツアーについては、観光庁から、一定の条件を満たした場合、例外的に旅行業に抵触しない場合があり得ることが明らかにされました。http://www.mlit.go.jp/kankocho/topics06_000108.html

また、今回は詳しく触れていませんが、先の事例で、例えば、A社がバスをレンタルし、それを自社の従業員が運転して、その対価を得ていたというような場合には、道路運送法違反となりますので、その点もご留意ください。

■最後に

先の事例は、言われてみれば、「旅行会社と同じようなことをやっているのだから旅行業違反になるな」とご理解いただけるかもしれません。しかし、こういった視点は、意識しなければ持ちづらいです。そこの確認がおざなりなまま事業が動き出してから違反を指摘されれば、撤退に追い込まれたり、刑事罰を受けたりする可能性もあります。

新規のビジネスを行う場合には、業法に抵触しないか、専門家の助言も得ながら、リスクの有無を慎重に確認・検討していただくことをおすすめします。

≪執筆者紹介≫
弁護士 日向寺 司(ひゅうがじ つかさ)

弁護士法人TLEO虎ノ門法律経済事務所パートナー 上野支店代表
1985年生まれ。茨城県鹿嶋市出身。一橋大学法学部、中央大学法科大学院卒業後、司法試験合格。NPOのための弁護士ネットワークに所属し、非営利団体向けのセミナー講師や法律相談、予防法務・紛争解決等を通じて、非営利団体の活動を支援している。東京ボランティア市民活動支援センター法務相談担当(不定期)。

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