ソーシャルビジネス・トピックス第20回 NPO法人に関する政策・制度の現状と課題②
~資金面~

執筆者
認定NPO法人シーズ・市民活動を支える制度をつくる会
代表理事 関口 宏聡

前回のテーマ「法人制度と寄付税制」に続き、第2回目となる今回は、資金面での支援制度・施策をテーマとしていきたい。前回の法人制度でも同様であったが、NPO法施行後20年を経て、資金面での支援は当時と比較して格段に充実してきており、隔世の感がある。NPO法人の財源である会費・寄付金・助成金・補助金・事業収益・融資などについて、財源別に現状と課題を説明し、これらに加えて注目テーマである「休眠預金活用制度」と「新公益信託制度」に触れていこうと思う。

■会費・寄付金・助成金・補助金

◆会費・寄付金

 最初に、最もNPO法人らしい財源ともいえる会費や寄付金に関するものだ。前回述べたように、まず税制面での支援策として認定NPO法人制度と寄付金税額控除等の寄付税制が整えられている。また、認定でないNPO法人も、一部の例外を除き、原則的に会費や寄付金には法人税が課税されない。他にも、会費や寄付金を獲得するために必要となるファンドレイジングを支援するため、自治体が広報誌にて地元のNPO法人を紹介したり、クラウドファンディングのための費用を助成するなど会費・寄付金集めのための支援事例もある。課題としては、前回述べた税制面の問題をはじめ、まだ日本においてNPO法人への入会や寄付が広く一般的になったとは言えない現状があり、NPO法人側にも一層のPRや情報公開が求められていることが挙げられる。

◆助成金・補助金

 次に、企業や助成財団等からの助成金や政府・自治体等からの補助金を見てみよう。これらはそれ自体が支援策と言えるものであり、対象・金額・使途など様々なものが存在している。最近の傾向としては、企業では自社製品・サービスを無償・低廉でNPO法人へ提供することを通じて、実質的に資金的な支援を行っている事例も増えてきている(注)。また、助成等を行う際も社員からの寄付やボランティア参加分をマッチングするなどユニークな支援も多い。課題としては、中小企業支援施策の中で、例えば「ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス経営力向上支援補助金)」のように、NPO法人等が対象外となっていて申請すらできないものがあり、ソーシャルビジネス等に取り組む事業型NPO法人から適用拡大の声があがっている。また、日本の助成金のほとんどが「事業助成」であり、組織基盤強化に使えるものが少ない問題なども、今後の課題と言える。

(注)NPO法人など非営利法人向けにMSオフィスなどのソフトウェアや様々なクラウドサービスを無償・割引価格(手数料負担有)で提供するプログラム「Tech Soup」や、NPO向け各種商品・サービスなどをまとめたサイト「NPO支援コレクション」などが挙げられる。

■事業収益

事業収益は端的にいえば、企業等と同様にNPO法人が商品やサービスの対価として得る収益である。一般的に事業収益は「自主事業」「委託事業」「制度・保険事業」「指定管理事業」などと細分化して考えられる。事業収益に関する支援は税制面では少ない。物品販売や出版、請負などはNPO法人等であっても法人税法上の収益事業として課税されることが多い。事業収益における支援策は、どちらかというと規制緩和や参入促進であり、介護保険事業・障害福祉サービス事業等や行政からの委託事業の拡大、「指定管理者制度」の活用などを通じて、福祉系を中心に多くのNPO法人が事業を行っている。課題としては、まだNPO法人が行うことのできない事業等があることや、行政からの委託事業において、適正なコストを考慮しない安すぎる委託が見受けられることなどが挙げられる。

■融資・信用保証制度

ここ数年で大幅な前進があったのが、NPO法人による資金の借り入れ、中でも金融機関からの「融資」に関するものだ。現在では、以前は考えられなかったNPO法人への融資が大きく広がっている。日本政策金融公庫や先進的な信金・信組などが実績を積み重ねて開拓してきた結果、最近では大手地銀やメガバンク等もNPO法人への融資に前向きになっていると聞く。その背景として、2015年10月から信用保証制度がNPO法人にも解禁されたことがある。中企庁へのヒアリングによると2016年度の実績は全国で「653件、55億2,300万円」と活用も進み、自治体による利子補給や信用保証料補助等の施策との相乗効果もあって、今後もますます普及が進むに違いない。課題としては、融資等による間接金融での施策は非常に充実してきている一方で、NPO法人自らが資金調達を行う直接金融においては、企業における出資や社債といった手法が使えないため、役員個人からの借り入れや疑似私募債等で対応している団体も多い。NPO法施行20年を経て、高い信用力を持った団体も出てきていることから、(社会)医療法人債のような「NPO法人債」の発行を可能にするなど、資金調達手段の多様化に取り組む必要がある。

■今後の注目テーマ

◆休眠預金活用制度

 資金面の支援策で今後注目されるのが、「休眠預金活用」だ。10年以上休眠状態にある口座の預金をNPO等が行う社会貢献・公益活動へ活用する仕組みで、2019年秋の助成スタートに向けて、政府(内閣府)の審議会等で具体的な検討が進んでいる。当初は段階的なスタートとなると思われるが、1年間で数百億円発生するといわれる休眠預金がどのようなに活用されていくか、その成否が与える社会的インパクトは非常に大きい。制度の適切な運用や支援に見合う成果達成に向けて、ぜひ今後の議論に注目していただきたいと思う。

◆新公益信託制度

 さらに、検討が進んでいる注目政策として「新公益信託制度」も挙げられる。こちらの新制度実現はまだ当分先になりそうではあるが、先日まとめられた中間試案では「信託対象が金銭限定から、不動産・株式や美術品、著作権等も可能になる」「信託銀行等が中心だった受託者がNPO法人等でも可能になる」などの改正ポイントが盛り込まれており、新制度を活用したNPO法人への助成拡大や受託による事業拡充などに期待が高まる。

 他にも、SIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)やふるさと納税を活用した支援制度、シェアリング・エコノミーや自然エネルギー等を活用した収益事業など、様々な事例が生まれてきている。より一層の拡充に期待したい。

≪執筆者紹介≫
関口 宏聡(せきぐち ひろあき)

認定NPO法人シーズ・市民活動を支える制度をつくる会 代表理事
1984年生まれ、千葉県佐倉市出身。2009年、東京学芸大学教育学部環境教育専攻卒業。2007年6月からシーズに勤務し、日本ファンドレイジング協会設立事業やNPO法制度改正のアドボカシー・ロビー活動に従事。2011年や2016年のNPO法・税制改正の実現では市民側の中心的役割を果たしたほか、休眠預金活用法・制度実現にも携わっている。神奈川県指定NPO法人審査会委員、新宿区協働推進会議委員、浦安市市民参加推進会議委員など。

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