海外展開事例 ゼロイチ回想録

株式会社東郷 代表取締役 東 成生氏

株式会社東郷

代表取締役 東 成生氏

所在地鹿児島県鹿児島市

分野精密プレス金型の製造販売
車載用モーターコアの量産
USBコネクター等の量産

URLhttps://www.togo-japan.co.jp/

進出形態直接投資

進出地域東南アジア

業種・取扱商品製造業

取引先の要請を受け、2013年にタイに精密プレス金型工場を建設。
円安による建設費高騰、技術力向上等の課題はあったものの、
人材育成等に取組み金型の一貫生産体制を構築。
全社売上に占める海外市場の比率が3割を占めるまでに成長した。

Q.

取引先の要請で、2013年にタイに進出し、工場を建設されました。

A.

当社は1985年(昭和60年)10月の設立です。私は大手電装メーカーの試作部で主に金型製作に携わっていましたが、家庭の事情で郷里の鹿児島にUターン就職を考えました。しかしながら、地元での勤め先がなかなか見つからず、前職の経験を生かして金型製作を目的に個人創業しました。
1987年にかごしま産業支援センターのアドバイスを受け、県の設備対応資金制度を利用し3D加工ができるマシニングセンター(MC)を導入。その後も設備投資を続けた結果、受注先を広げられました。1995年にはICリードフレーム加工用の金型づくりを始めました。発注元の企業の中にはタイで部品を生産している企業もあり、その企業から現地で金型をつくってほしいという要請もあったことから、2013年にタイに進出し、工場を建設することになりました。

東社長の個人創業からスタートし、もうすぐ40年を迎える本社屋
東社長の個人創業からスタートし、
もうすぐ40年を迎える本社屋
Q.

御社におけるタイ工場の位置づけ、特徴について教えてください。

A.

2011年にタイは大洪水に見舞われたのですが、その前から当社はタイの取引先に技術社員を派遣して工場進出に向けた技術交流を始めていました。タイは、インドネシアやインド、中国、ベトナムなどを視野に入れた際、地理的に良い拠点になると考えました。そこで、水害が多い土地柄も勘案した上で、バンコクの南にある比較的高台のチョンブリ県シラチャの工業団地に2013年9月に工場を設立しました。
今では、金型の設計から製作まで一貫して行っていますが、当初は設計や金型製作は出来ず、取引先からの部品発注だけでは十分な受注量が確保できなく、鹿児島の本社から金型部品を発注するなどして徐々に稼働させていきました。
タイ工場の特徴は、2階建工場となっており1階部分全てを加工工場とするため、1階の壁の外を土で覆っていることです。それにより温度変化が少なくなりました。高精度加工には温度湿度が影響を与えます。タイ工場はセ氏23度プラスマイナス0.5度に維持しており高精度、高品質管理レベルにあることを顧客からも評価頂いています。なお、エアコン使用は通常の工場に比べて半分程度ですんでいます。

主力の精密プレス金型
主力の精密プレス金型
Q.

人やお金の面で直面された課題はありませんでしたか。

A.

為替の円安に参りました。当初の予定価格から2、3割円安となってしてしまい、進出資金を融資していただいた日本政策金融公庫には何かとお世話になりました。
心配した現地での人材の確保については、タイ進出計画模索中にタイ国金型工業会会長ご一行様等による鹿児島本社の工場見学があり、そのご縁などから、大学の紹介等頂き良い人材を集められています。タイの名門大学であるキングモンクット工科大学などの学生を採用、その他様々な助言をいただきました。
その後、現地の技術力向上のために、2017年からは2年以上の経験を持つ社員から選抜し、鹿児島本社で2~5年の研修を実施しています。タイ工場の発足時は加工機を操作できる本社の社員5人が1~2年ずつ現地に赴任して運営していましたが、今では人材育成が進み、本社社員の指導に頼らず金型も設計から一貫生産できるようになっています。最近では、さらにリードフレームやコネクターの金型にも挑戦中という頼もしい存在になってきました。
タイ工場は現地採用35人のうち30人が女性で、理系大学出身者もいます。将来的には女性だけで金型づくりをしたいという大きな目標があります。ミクロン単位の精度を正確に判定するのに女性の細やかさ、熱心さは欠かすことができません。

将来的には女性だけで金型づくりを目指すタイの工場
将来的には女性だけで金型づくりを目指すタイの工場
Q.

海外展開前後の社内外の変化はありましたか。

A.

進出から10年が経過して、全社売上高に占める海外市場の比率が3割にまで成長しました。海外工場があるということで、鹿児島本社の人材採用には有利に働いています。もちろん取引先にもタイ進出を通じた当社の技術力について認知が進んだ様子で、今後の受注拡大につながるものと期待ができます。

Q.

海外展開において、公的機関をどのように利用されていますか。

A.

日本政策金融公庫には資金面、スタンドバイ・クレジット制度利用を通じたタイ現地金融機関との関係構築、バンコク駐在員事務所による各種情報提供等々多くの面で大変お世話になっております。
また鹿児島大学産学官で小型ロケットの開発プロジェクトを立ち上げる等、地元の官庁や大学との関係構築が技術開発に大きく役立っています。振り返れば、1985年の創業開始前に、県の機械金属技術指導センター(現鹿児島県工業技術センター)に通い、設備を賃借し部品加工させて頂いたことや、技術面、創業に向けてのアドバイス等、快く指導して頂きました。また鹿児島県金型治工具工業会の1986年発足当初から参加させて頂くなど、県の方々と様々な交流があったことがその後の事業発展に役立ちました。とにかく何か課題があれば、どんどん公的機関を訪ねてみることが大事だと感じます。