海外展開事例 ゼロイチ回想録

株式会社農家ソムリエ~ず 代表取締役 藤原 俊茂氏

株式会社農家ソムリエ~ず

代表取締役 藤原 俊茂氏

所在地徳島県徳島市

分野さつまいも生産法人

URLhttps://www.narutokintoki.com/

進出形態輸出

進出地域東アジア、東南アジア、北アメリカ、ヨーロッパ

業種・取扱商品製造・小売(食品)

全国各地でリーマンショック以降、さつまいもへの転作が増加。
「なると金時」の差別化に悩んだ若手生産農家が開発した加工食品が、
海外への販路という突破口につながった。

Q.

徳島県産ブランドのさつまいも「なると金時」の輸出が伸びていますね。

A.

輸出額は2019年に3200万円、20年に4000万円、21年に4800万円、22年に5200万円となりました。当社では生の芋と加工したチップスを販売しています。売上高の80%は生の芋で、うち40%が輸出となっています。輸出のウエイトが高まるにつれ、輸出先ごとの細かなニーズも分かるようになり、それに応じた生産・流通体制を整備しています。輸出を通じて学んだことが国内販売でも生かせていて、会社の成長エンジンとなっています。

海外進出のきっかけとなった「なると金時」の加工品
海外進出のきっかけとなった「なると金時」の加工品
Q.

輸出を始めたられたきっかけは何ですか。

A.

リーマンショックのあおりで2011年頃、鹿児島や茨城ではたばこの葉からサツマイモに転作する農家が相次ぎ、徳島の「なると金時」が押される事態となりました。低迷する中で何かできることはないかと、生産農家が集まり勉強会を始めたのがきっかけです。

当初、勉強会は品質向上について意見交換していました。その延長でもっとできることはないかと生産農家6人で2014年に当社を設立し、6次産業化に取り組んで「なると金時」を使ったさつまいもチップスを商品化しました。加工品なら海外にも売れると地元の徳島新聞に取り上げていただき、徳島県庁の方の目にとまりました。県は地元産品の海外輸出戦略を推進していたところで、色々とサポートしていただけることになりました。リスクは認識しましたが、挑戦しなければ現状は打破できない思いが勝りました。

アジア圏で人気の「なると金時」
アジア圏で人気の「なると金時」
Q.

会社設立翌年の2015年には、台湾への輸出を始めています。

A.

なると金時はすでに、JAを通じた流通で台湾に輸出されていて、現地で需要がありました。生産農家から直接仕入れができることが評価され、取引が始まりました。翌年には香港、マレーシア、シンガポールへの輸出を始めました。香港については日本政策金融公庫に市場調査やマッチングでお世話になりました。

輸出に強い地域商社を通じ、なると金時を販売。現在、輸出の90%は東/東南アジアで、うち70%が香港と台湾で主力となっています。なると金時の特徴は甘すぎない甘さで、とにかく甘いものを好む赤道近辺の国と比べ、両国の嗜好にマッチしているようです。

Q.

順調に輸出が拡大する中で、生もの特有の課題が発生しました。

A.

寒さに弱いため、12~2月にはコンテナ輸送の85%が傷んでしまうということもありました。県の助言により2019年度、農林水産省の「グローバル産地づくり推進事業」の補助金を利用し、鮮度保持技術の確立に取り組みました。40℃で36時間熱することにより表面の傷から雑菌が入り込むのを防げます。同様の既存技術と比べ3~5日短くなりました。これにより長期貯蔵が可能となり、コンテナ輸送で傷むものは10%未満に下がりました。

現地での需要が高まるにつれ、徳島県産ではなく日本産とうたったいもが出回るなど、偽ブランドの問題も起きました。為替にもよりますが、なると金時の現地販売価格は国内の2割増しとなります。味もそうですが、輸送に傷まないようにすることを含めて「なると金時」の名に恥じない品質を常に提供しなければなりません。まがい物に付け入られないよう、品質は絶対に譲れないものとしています。

Q.

今後も輸出拡大を目指されています。

A.

日本公庫の融資メニューを活用し、集出荷貯蔵施設を建設しています。コンテナを横付けできる大型冷蔵庫を設け、輸出拡大の基盤を整備。2023年度中に完成します。併せて生産から販売までのトレーサビリティを確保して食品安全の認証取得を目指します。また台湾では200グラムほどの小ぶりなサイズが好まれるので、そうした各国のニーズに対応した栽培体系の確立にも取り組んでいます。

海外展開は多くの気づきをもたらしてくれました。一つひとつに応えていくことで、大きく飛躍していきます。