海外展開事例 ゼロイチ回想録

株式会社町村農場 代表取締役 町村 均氏

株式会社町村農場

代表取締役 町村 均氏

所在地北海道江別市

分野乳牛飼育、牛乳、乳製品製造販売

URLhttps://machimura.jp/

進出形態輸出

進出地域東アジア

業種・取扱商品製造・小売(食品)

およそ100年前、町村均社長の祖父が
米国で学んだ酪農技術をベースに創業した。
2015年、取引先との縁で乳製品の輸出をスタート。
感染症拡大で国内実店舗の売上げが落ち込む時期もあったが、
販売ルートの複線化が同社の経営を安定させた。

Q.

創業106年。米国の酪農技術を基に歴史を刻んできたのですね。

A.

創業者である私の祖父は、酪農先進国だった米国に渡り、ウィスコンシン州の農場で10年間修行しました。牛を育てる技術を身につけて帰国し、1917年に石狩市に牧場を拓いたのが始まりです。その際にバターやアイスクリームづくりも学び、機械器具も持ち帰ってきました。

輸出を始めたのは2015年からです。牛乳や乳製品には、多くの国で自国の生産を守るための非関税障壁が設けられています。消費期限の問題もあり、その壁を乗り越えるのは容易ではありません。しかし現在輸出している品目は、創業時から備えていた技術やその後の試行錯誤により開発しつくっているものです。長年積み重ねてきた信頼と町村農場のブランドが輸出につながっています。輸出が加わったことで事業展開の選択肢が広がり、今後の構想に幅が出るという予想外の効果を得ています。

町村社長の祖父が創業し、100年以上続く農場
町村社長の祖父が創業し、100年以上続く農場
Q.

輸出を始めたきっかけは何ですか。

A.

これまでお取引のあった高級スーパーの明治屋さんとのご縁です。明治屋さんのシンガポールの店舗から、店内に道産品のコーナーをつくるので出品しないかと声をかけられました。シンガポールには農業がないので、乳製品の輸出のハードルが比較的低いと思われます。出品は当初、年数回の催事でしたが、現地での評判が良かったため道産品コーナーは常設になりました。飲むヨーグルトやチーズ、バターを扱っていただいています。

国内外での販売が好調な乳製品の商品群
国内外での販売が好調な乳製品の商品群
Q.

輸出先が広がっていますね。

A.

その後スポットで、タイ、ベトナム、カンボジア、台湾で、日本フェアや北海道フェアが行われる際に声がかかるようになりました。こうして出品を重ね認知度を高めていったことで、ベトナムでは日本食レストランチェーンにソフトクリームの原料を提供するビジネスにつながりました。売上に占める輸出比率はまだ小さいですが、2022年の輸出額は当初の5倍に拡大しました。

中国では酒粕アイスが評判になっており、日本の商社からつくってくれないかという話が舞い込みました。中国ではアイスクリームは乳製品の範疇に入らず、輸出が可能です。酒粕アイスは商社が現地の展示会に出品し、現地の流通業者が関心を寄せたことで話がまとまりました。

Q.

課題はなかったのですか。

A.

輸出できる国、品目が限られるだけでなく、生産能力の面からも輸出を飛躍的に拡大することは難しいところです。中国への輸出が始まる前に「町村農場」の商標が現地の企業によって登録されていました。こうしたことはあるとは聞いていましたが、当社に降りかかるとは思いませんでした。そのため、台湾と香港では商標登録を進めています。

感染症拡大により2020年に売上高が1億円減りました。日本政策金融公庫には50年来お世話になっていますが、この期間には横浜、東京の直営店を閉めるなど構造改革でも支援していただきました。おかげさまで通信販売が強化され、百貨店の北海道物産展も復活したことで、2023年には売上高が感染症拡大前に戻る見込みです。

Q.

今後、輸出はどのような計画を立てていますか。

A.

当社では100年にわたり牛の繁殖・個体販売から牛乳、乳製品の製造、販売までを一貫しており、信頼の礎となっています。輸出を手がけることで気づきましたが、輸出を大きく拡大しようとすれば、それに応じて飼育頭数を大幅に増やす必要があります。人手のことや、品質のことを考えれば簡単ではなく、時間もかかることです。実際、牧場で搾る生乳の生産量には限界があり、ここ30年間量はほぼ変わっていません。

牛乳、乳製品、さらにそれを原料とする菓子などの製品にどう配分し生産をいかに最適化するか「量より知恵を売る」でいこうと考えています。菓子生産については2018年に札幌のメーカーをM&Aで取得しました。業務提携についても慎重に進め、これらをベースに輸出の拡大につなげていこうと思います。