海外展開事例 ゼロイチ回想録

有限会社玉谷製麵所 専務取締役 玉谷 貴子氏

有限会社玉谷製麵所

専務取締役 玉谷 貴子氏

所在地山形県西川町

分野乾麺・生麵の製造販売

URLhttps://www.tamayaseimen.co.jp/wp/

進出形態輸出

進出地域東南アジア、北アメリカ、ヨーロッパ

業種・取扱商品製造・小売(食品)

試行錯誤を重ね開発した
「サクラパスタ」「雪結晶パスタ」を武器に、世界各国に輸出を実施。
老舗製麺所が公的機関の支援も活用し、海外市場の開拓に挑戦中。

Q.

もともとは地元で流通していたうどんやそばが、通信販売を開始して全国に流通するようになりました。

A.

当社は出羽三山の一つ、月山の麓で1949年(昭和24年)に創業しました。当初は、近隣の農家が持ち込んだ小麦を挽いてうどんを作っていましたが、2代目が乾麺のそば製造を開始し、1952年には生麺、乾麺の地方発送をはじめました。その後、工場、直営店を整え、通信販売も開始しています。

経営拡大のきっかけとなったのは、1993年に全国ネットのテレビ番組で当社が取り上げられたことです。毎日10tトラックで出荷を行うほど、一挙に注文が舞い込むようになり、当社にとっての一つの転機だったと思います。

繊細な形の『サクラパスタ』『雪結晶パスタ』は国内外で人気
繊細な形の『サクラパスタ』『雪結晶パスタ』は国内外で人気
Q.

東日本大震災による風評被害をどうにか乗り越えようという思いが、海外展開のきっかけとなりました。

A.

東日本大震災以降は、山形県の農産物なども風評被害を受け、当社の乾麺の売れ行きにも影響しました。日本のもの、東北のものを自信をもって世界に発信できないと、震災からの復興もないと思い始めたころ、東北芸術工科大学(山形市)が食にまつわる品々をオール山形で世界に発信していくプロジェクトを立ち上げ、当社にも声がかかりました。以前から山形県の講座でデザインを学んでおり、「黒米(くろごめ)パスタ」で製麺業界初のグッドデザイン賞をいただいていたことなどが評価されたようです。

2014年にはこのプロジェクトの一環で、パリの見本市「メゾン・エ・オブジェ」に出展しました。試行錯誤を重ねて完成した「雪結晶パスタ」を出品したところ、来場者からは「こんな形ができるのか?」と驚きをもって迎えられました。形状の美しさを維持することはもちろん、本来この形状だと茹でても固いところが残るのですが、そば・うどん製造で培った長年の経験も活かして完成に漕ぎつけた商品だったので喜びもひとしおでした。まさに当社独自の技術を活かした、他社には真似できない商品となっています。

当社ではこのノウハウを生かし、「サクラパスタ」「おひさまパスタ」「月もみじパスタ」など日本の四季をイメージした商品を開発し、これらも海外で注目される商品に育ってくれています。

商談会の様子
商談会の様子
Q.

「メゾン・エ・オブジェ」出展をきっかけに海外販路が開拓されていった。

A.

いえ、実はそこでは海外への商流はできませんでした。当時は多くの方と名刺交換をしましたが今後のアクションの起こし方が分からず、展示会や海外の方との商談については全くの素人という状態でした。ただ、反響は確かなものをいただいたという実感があったので、積極的に海外展開にチャレンジしたいという思いが強くなりました。

そこで、地元の山形県やジェトロ、農林水産省などに海外販路開拓支援のサポートをいただき、2015年の香港の展示会に出展。そこで初めて海外の取引先確保に結びつけることができました。続いて2017年にはジェトロの「東北フェア」に出展し、これをきっかけに米国のカリフォルニアやハワイに販路を広げています。米国では展示会で「サクラパスタ」に注目が集まりましたが、同時に持ち込んだ乾麺「月山そば」がじわじわと評価され、今では米国向けは「月山そば」が定番化しているところもあります。

Q.

コロナ禍での海外販路開拓はどのように行ったのでしょうか。

A.

コロナ禍でも中国やオーストラリアのバイヤーとオンラインで商談を進め、販路を開拓していきました。ジェトロなどのサポートのもと、現地にリアルの商品を輸出し、それを見てもらいながらオンラインで商談を行う形です。やはり「サクラパスタ」に注目が集まりますが、フランスには日本らしさを評価されたそばと黒米うどんが出ています。2021年、2022年にはやはりオンライン商談でスイスやスウェーデンでも商品が紹介されました。

Q.

海外展開を推進するにあたり、課題はあったのでしょうか。

A.

一つは食品添加物について規制が厳しいということがあります。当社は添加物を使わないことをポリシーとしているので基本的には問題ないのですが、サクラパスタの色を出す際は苦労しました。紅花では茹でた際に色が飛んでしまう、赤米もうまくいかず、たまたま地元の農家さんが作っていた規格外のビーツを持ってきてくれてそれを使ったところ、ようやく美しい色にたどり着くことができました。

また、オンライン商談では英語やフランス語が必要になりますが、ジェトロが通訳で間に入ってくれるなどサポートをしてくれています。商談では「バイヤーが私たちの会社に求めていることは何か」を強く意識する必要があることが気付きとなっています。サクラパスタなのか、蕎麦なのか、バイヤーの意図を汲み取って商談を進め、さらに当社のバックボーンである自然、水、歴史、豊かな風土といったものを、商品のストーリーとして一体で紹介することで、オンリーワンの商品としての売込みが可能になると感じています。

Q.

海外展開前後で社内でも変化はありましたか。

A.

従業員の士気向上の効果は大きいですね。自分の作った商品が世界で売られることで、「もっとおいしいものを作ります」とモチベーションアップに繋がっており、従業員のやりがいが創出できてよかったと感じています。海外販売比率はまだ売上全体の5%程ですが、当面は10%超えが目標です。そのために、HACCPなどの国際認証を取得し、より多くの国に当社の製品を届けていける環境を整えていく予定です。

Q.

海外展開において公的支援機関をどのように活用したか教えてください。

A.

農林水産省、県、ジェトロ、大学など、デザインの勉強やオンライン商談会への参加、英語版のホームページやカタログ製作などで幅広くお世話になっています。これらの機関の支援を得られたのは、各種の研修会やセミナーへの出席を通じて得られた人脈もあってのことと感じており、積極的に当社を知ってもらうきっかけ作りを行ったことが良かったと感じています。

Q.

これから海外展開を行おうと考えている事業者の方にアドバイスをお願いします。

A.

海外に持っていくものは、できればオンリーワンのものが良いと思います。ここでしか作れないもの、その土地の風土をしっかりと落とし込んだものが、輸出の機会を得られる商品と感じます。また、ジェトロなど公的支援機関のサービスも積極的に活用しながら、商品を知ってもらうきっかけを多く作っていくことも大切です。色々なことに前向きにチャレンジする姿勢を持つことがとても大事だと感じています。