海外展開事例

農林水産・食品事業者のマーケットイン輸出事例集『GLOCAL ACTION』

株式会社オカキブラザーズフーズ

タイに現地法人を設立し、
牧場直営ブランドで輸出を伸ばす

(株)オカキブラザーズフーズ

代表取締役 岡山和弘氏

所在地
滋賀県蒲生郡竜王町
業種
肉用牛(繁殖・肥育)、食品加工、精肉販売、飲食業
経営規模
繁殖母牛140頭、肥育牛650頭
年商
17億円
輸出開始年
2011年
輸出先
タイ、シンガポール、米国
売上に占める輸出の割合
2015年 3%  2020年 15%
輸出モデル
輸出モデル表
タイに現地法人を設立し、輸入・卸売業と焼肉レストランを展開

自社で繁殖・肥育した近江牛を自社で販売しており、年間350~400頭出荷している。私が25歳のとき父親を亡くし、兄弟3人で経営を引き継いだ。長男が牧場、次男が飲食、三男の私が食肉流通の役割分担により事業を展開している。
輸出は2011年からスタートした。東日本大震災の影響で、福島県産牛肉を輸出していた国内商社経由でシンガポール輸出のオファーがあった。輸出の知識・経験はなかったものの、ちょうど父親から引き継いだ借金の返済が完了した頃で、新しいことにトライしようと二つ返事で承諾した。
それからはジェトロの商談会にも多く参加するなど、地元の滋賀食肉センターから輸出が可能な国を対象に積極的に取り組み、タイやミャンマー、台湾にも輸出地域を拡大した。現地の商談会で気になる人がいれば、名刺交換で終わらせずにその日のうちにその人が経営する飲食店・小売店を訪れるなどアクションを起こした。相手も面白がってくれることが多く、ネットワークが広がった。
輸出開始から3年経った頃、近江牛を販売する現地の問屋が販売先に営業をかけたところ、価格をたたかれるという経験をした。比較的価格の安い別の和牛に客を取られるなど、海外で和牛、時には近江牛同士でパイを奪い合うこともあり、本末転倒ではないかと疑問を感じた。また、取引もサーロインやヒレなどの特定部位に集中していた。
そこで、販売を商社任せにせず自社で行おうと現地法人の設立を決意。シンガポールの焼肉店にマネージャーとして勤めていた日本人の知り合いと一緒にやろうと拠点探しを始めた。しかし、シンガポールだと多額の初期投資が必要となり、そろばんが合わない。そのため、テナント代や人件費がさほどかからないタイに目を向けた。18年8月、首都バンコクに現地法人を設立し、牛肉の輸入・卸売業を開始。同年11月に焼肉店をオープンした。焼肉店としては後発組で、既に多数の競合店が存在していたが、卸売として視点を変えれば営業先が多くあり、商機は十分にあると考えた。

「牧場直営」で差別化に成功、「岡喜和牛」ブランドで米国へ輸出拡大

当時、タイで流通する日本産牛肉のほとんどは冷凍品だったが、当社は「牧場直営」を打ち出し、チルド・空輸かつ岡喜牧場で生産された牛肉のみをフルセットで輸出することで差別化に成功した。
直営レストランの強みは、牛一頭を余すことなく使いきれること。昼は低価格部位を使ったハンバーグやローストビーフの定食をリーズナブルな価格で提供し、日本人駐在員の家族に好評である。夜は焼肉で高級部位を中心に提供し、高所得層のタイ人の会食や日系企業の接待に利用されている。
現在はコロナ禍で外食店はどこも厳しいが、当社は卸売部門があるのでなんとか成り立っている。貿易実務も自らやっており、牛肉の輸出入は自社グループ間での取引となる。直接取引を行うメリットは、商社のマージンがないためコスト削減が可能となるほか、自社の商品を能動的に売れること。多くの生産者は商社任せでの輸出を望んでいるが、それで現地の人々に生産者の想いやストーリーを伝えることはなかなか難しいと思う。
20年からは対米輸出認定を受けている京都の市場経由で米国へ輸出を開始。米国駐在経験のある地元関係者を通じて当社牧場の視察依頼があり、米国視察団のうち1社と視察後も友達感覚で連絡を続けていたところ、取引につながった。その会社は西海岸で多数のステーキハウスなどへ卸売を展開。日本の生産者との直接取引は当社が初めてで、牧場直営ブランドに付加価値を見出してくれている。これまで近江牛として展開してきたが、米国向けは「岡喜和牛」ブランドで販売している。
輸出にあたっては、加工賃とは別に相当額の手数料を市場に支払う必要がある。手数料は一頭単位で発生する一方、現在はA5等級のロインセットのみを輸出しており、米国向けは必ずしも利益に結びついていない。収益の安定確保に向け、今後はその他の部位も一緒に輸出できるよう提案していく。リスクを取って輸出に取り組む生産者に適正な利益が還元されるよう、国には手数料の負担に関して配慮や支援をお願いできればと思う。

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    海外で開催される商談会へ積極的に参加
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    「岡喜和牛」として海外へPR
ステージ アクション ポイント
準備

開始
2011年

中学の先輩のつてを頼って、中国(上海)を視察

海外で起業した同郷人の活躍に刺激を受ける

シンガポール・タイに輸出開始

福島県産牛肉を輸出していた国内商社経由でオファーあり

2014年

岡喜牧場において繁殖事業を開始

継続

事業化
2016年

輸出地域をミャンマーへ拡大

滋賀食肉センターから輸出が可能な国を対象にジェトロの商談会へ参加

2017年

輸出地域を台湾へ拡大

海外における和牛同士の競合などの課題が顕在化

発展

投資
2018年

タイ(バンコク)に現地法人設立、焼肉レストランをオープン

直接輸出(チルド・空輸)を開始。牧場直営で差別化に成功

2020年

輸出地域を米国へ拡大

視察受入れがきっかけ。京都の市場経由で「岡喜和牛」ブランドとして販売

ビジョン

自分たちが育てた「岡喜和牛」の美味しさを、世界中に伝える