海外展開事例

農林水産・食品事業者のマーケットイン輸出事例集『GLOCAL ACTION』

株式会社大潟村あきたこまち生産者協会

産直のノウハウを活かし、
物流会社と連携して「海外産直」

(株)大潟村あきたこまち生産者協会

代表取締役会長 涌井徹氏

所在地
秋田県南秋田郡大潟村
業種
米の生産・加工・販売
経営規模
1020ha(自社農場120ha、加入農家900ha)
年商
32億円
輸出開始年
2016年
輸出先
台湾、香港、中国
売上に占める輸出の割合
2020年 実績1%未満  2025年 目標10%
輸出モデル
輸出モデル表
貿易商社を介さない物流システムを構築し、「海外産直」を開始

米の生産調整への問題意識を共有する大潟村の入植農家が集まって、小売店や消費者への産直を行うため、1987年に当社を設立した。現在は、年間約7千トンの米を取り扱っている。米の高付加価値化を進めるため、様々な加工食品の開発にも取り組んでおり、発芽玄米や米粉・グルテンフリー食品、食物アレルギー対応食・非常食といったレトルト食品、甘酒などの加工・販売も行う。
2012年、当社が最初に輸出しようとしたのは中国だったが、相手先との交渉で難航したのが価格。当社が価格を高くしているのではなく、中間業者のマージンなどの輸出経費がかかりすぎていた。大潟村の輸出促進協議会に参加し、16年からは本格的な輸出に乗り出した。米粉を使ったグルテンフリーのパスタ類が中心で、現在、台湾・香港・中国向けに輸出している。当社としてはメインである米を輸出したいが、商談ではやはり価格がネックになり、米の輸出は足踏みのままだった。
高品質でおいしいお米をリーズナブルな値段にすればもっと売れるはず。そこで、当社の産直のノウハウを活かし、物流会社と組んで国内の輸出商社や現地の輸入商社を通さずに輸出ができないか考えた。19年から台湾の現地の港に倉庫をパレットで借りて、そこから販売先に出荷する物流システムを稼働。在庫管理は全てオンライン対応で代理人は販売リスクを負わないから、物流費に手数料をプラスする程度で業務を引き受けてくれる。
この結果、われわれの商品の末端販売価格を3~4割も引き下げることができた。当方の収益も増え、現地での価格競争力もぐんとついた。今後、香港・シンガポール・豪州・米国・中国などに広げようと、代理人の選定を急いでいるところだ。
この物流システムが軌道に乗れば、「輸出」ではなく、「海外産直」の感覚でやれる。「輸出」というとハードルが高いように聞こえるが、国内で個人のお客様や小売店などに、玄米や白米を大潟村から「産直」で配送するように、海外のお客様への「産直」だと思えばいい。

パックごはんで米の需要拡大と輸出拡大を目指す

20年には無菌包装米飯事業に取り組むべく、㈱ジャパン・パックライス秋田を設立。21年7月に年産3600万食のパックごはん工場が完成した。
日本で発明された食分野の技術としては、20世紀はインスタントラーメンが有名だが、21世紀はパックごはんだといわれるだろう。現在、国内での総生産量は年間14億食だが、1億2000万人余りの日本人の総食数のわずか1%に過ぎない。パックごはんの需要は、もっともっと伸びる。市場競争もさらに激しくなるだろうが、われわれは原料米を生産する農家だから価格競争になっても困ることはなく、競争に勝つことができる。実際に、当社は21年2月から営業を始め、6月末までに3600万食の販売見込みを立てることができた。
さらに今後、最も有望な売り先は海外だ。米の輸出は食文化の輸出。日本と同じごはんの味を届けるとなると、炊飯まで含むためなかなか難しい。ところが、パックごはんはレンジで温めるだけだから、説明が要らない。極めて有望な輸出商品だ。
米の国内消費は人口減少に伴い減る一方だが、海外に目を向ければ市場は無限に広がっている。国内だけをみて家畜に食べさせる飼料用米の生産を勧めるのではなく、主食用米をどんどん作って、海外に売ることを考える時代になっている。
また、人口減少はマイナスばかりではない。農家の数が減ることによって、農地の集約が進みやすくなり、土地利用型農業である稲作の大規模化が進み、日本農業の弱点だった「産業化」が進む。規模拡大で生産コストを下げ、米を輸出できるようになることで、日本農業は産業化に向けた最大のチャンスを迎えることができる。
就農以来、私は米の生産だけでなく、付加価値を求めて加工・販売に取り組んできた。ねらいは米の需要拡大で、これからは輸出だ。米流通は、昭和は「玄米」、平成は「白米」だった。そして令和以降、将来は「ごはん」の時代になるだろう。県内に第二、第三のパックごはん工場を建設し、秋田から日本農業を変えたいと考えている。

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    当社及び㈱ジャパン・パックライス秋田の工場
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    2021年7月からパックごはんの製造を開始
ステージ アクション ポイント
準備

開始
2012年

中国向け輸出を目指す

中間業者のマージンなど輸出経費がネックとなり相手先との交渉が難航

2016年

香港向けに米粉を原料としたグルテンフリー食品の輸出開始

新たに発足した「大潟村農産物・加工品輸出促進協議会」に参加

継続

事業化
2017年

輸出地域を台湾・中国へ拡大

ジェトロ主催の展示商談会などに輸出促進協議会を通じて積極的に参加

2019年

台湾で現地の港に倉庫を借りて、商社を通さない直接輸出を開始

商品の末端販売価格を3~4割も引き下げることに成功

発展

投資
2020年

当社など7社の共同出資により㈱ジャパン・パックライス秋田を設立

台湾や香港などへの輸出を計画、将来的に生産量3割の輸出を目指す

2021年

秋田県で初めてとなるパックごはん工場を建設

補助事業(コメ・コメ加工品輸出拡大緊急対策整備事業)や公庫資金などを活用

ビジョン

米の需要拡大と輸出拡大に貢献し、秋田から日本農業を変える