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~『中華人民共和国労働契約法』2008年1月より施行~
2007年6月29日、『中華人民共和国労働契約法』が公布され、2008年1月1日から施行されることになりました。同法は、労働者の権益を保護する目的で制定されていることから、企業においては従来の労働契約や雇用形態を改める必要性が生じ、労務コストの上昇や労務管理の負担が増加することが見込まれます。
また、経営情報No.349(2007年5月23日発行)でご紹介したとおり、『中華人民共和国企業所得税法』も同じく2008年1月1日から施行され、いわゆる「外資優遇税制」が事実上廃止される予定です。両法の施行は、日系企業の今後の中国での事業展開に大きな影響を及ぼすものと思われます。
本号では、『中華人民共和国労働契約法』のポイントをご紹介します。
中国の労働関係は『中華人民共和国労働法』(1995年1月施行、以下労働法)等により定められており、企業と労働者との間で労働契約を締結することが義務付けられています。しかし、具体的な労働契約行為については一部しか明文化されていません。そのため、市場経済が急速に発展し、雇用者も労働者も多様化する中、労働者の権益を十分に保護しきれなくなっていました。加えて、中国では労働契約締結の普及率はまだ低く、仮に労働契約が締結されていたとしても、形だけで実効性がない場合も多く見られます。
そこで中国政府は、従来の労働法を補完する目的で、現状に即した労働契約法を定めるべく、2006年3月から1年以上にわたる審議を経て、2007年6月に『中華人民共和国労働契約法』(以下労働契約法)を正式に公布しました。

労働契約法は全8章98条で構成されており、労働法に比べて大幅に労働者の権利を強化し、雇用関係の長期化を促す内容になっています。
以下に、日系企業にとって影響が大きいとみられる条文について取り上げます。
労働契約法では、会社が労働報酬、労働時間、休息休暇等の労働者の利益に直接関わる規則制度及び重大事項の制定又は修正を決定する場合、従業員代表大会又は全従業員との討議を経て、工会(日本の労働組合に相当)又は従業員代表あてに意見を提出し、労使平等に協議したうえで決定しなければならない〔第4条〕と規定しています。この規定による手続きを踏まずに決定された会社規則や労働契約内容については、仮に董事会(日本の取締役会に相当)が承認しても、効力を持たないことになります。
労働契約法では、雇用関係の成立した日(又は労働契約法施行日〔第97条〕)から1ヶ月以内に書面による労働契約を締結することを義務付けています〔第10条〕。雇用開始から1ヶ月超1年未満に書面による労働契約の締結を行わなかった場合、当該労働者に毎月2倍の賃金を支給しなければなりません〔第82条〕。
労働契約法では、労働契約の種類を(1)期限付き労働契約、(2)無期限労働契約、(3)一定作業任務の完了を期限とする労働契約に分けています〔第12条〕。
労働者自らが期限付き労働契約を申し出る場合を除き、下枠の条件を満たす従業員と労働契約を締結する場合、雇用者は無期限労働契約を締結しなければなりません〔第14条〕。
雇用者側がこれに従わない場合、労働契約を締結しなければならない日より、毎月2倍の賃金を支給しなければならない〔第82条〕としています。
なお、雇用開始日より満1年を経過しても、労働者と書面による労働契約を締結しない場合は、無期限労働契約が締結されているとみなされます。
<無期限労働契約を締結しなければならない条件>
労働法では単に6ヶ月以内と規定されていた試用期間は、労働契約法では、以下のとおり、労働契約期間によって具体的に分けられています〔第19条〕。

なお、同一労働者に対する試用期間の設定は1回しか認められません。
また、試用期間中の賃金は、同一職務の最低レベル賃金あるいは労働契約にて約定した賃金の80%、かつ雇用者所在地の最低賃金基準を下回ることはできません〔第20条〕。
労働契約法では、研修後の義務勤続期間の制定を明確に規定し、労働者がその約定に違反した場合には、雇用者が提供した研修費用を超えない範囲で約定に基づいた違約金を支払わなければなりません〔第22条〕。
守秘義務を負う労働者に対して、労働契約又は機密保持協議の中で競業避止を約定することが可能になりました。ただし、競業避止の制限をかけられるのは、全従業員ではなく高級管理職、高級技術職及びその他の守秘義務を負う労働者に限られ、競業避止の期間は2年以内に限られています〔第24条〕。
また、労働契約解除又は終了後、競業避止期間内は月毎に労働者に経済補償金を支払う必要があります。一方、労働者が競業避止の約定に違反した場合には、約定に基づく違約金を支払わなければなりません〔第23条〕。
労働契約法では、労働者側、雇用者側がそれぞれ労働契約を解除できる要件及び労働契約解除に当たって支払わなければならない経済補償金(日本の退職金に相当)について明確に規定されています〔第46条〕。
<雇用者側から労働契約を解除できる場合>

なお、疾病等治療期間中の労働者、妊娠・出産・授乳期間の女性、勤続15年以上かつ定年退職まで5年未満の労働者等に対する労働契約の解除は禁止されています〔第42条〕。
労働契約法に違反して契約解除又は終了した場合は、経済補償金の2倍を賠償金として支払う必要があります〔第48条、第87条〕。
経済補償金の金額については、勤続年数1年につき1ヶ月の賃金としています。勤続6ヶ月以上1年未満の場合は1年で計算し、6ヶ月未満の場合は半月分の賃金を基準として、支給対象の勤続年限は最高12年となります〔第47条〕。
また、労働契約解除又は終了後、雇用者は転職のための退職手続きを15日以内に行わなければなりません〔第50条〕。
労働者側からの労働契約の解除については比較的制約が緩く〔第36条~第38条〕、労働者が30日前(試用期間中は3日前)までに書面で労働契約を解除する旨を通知すれば、雇用者はそれを拒むことはできません。
労働契約法に定義される労務派遣とは、臨時的、補助的又は代替性のある職務で実施されるものを指します〔第66条〕。労務派遣会社は、(1)労働者との2年以上の期限付き労働契約を締結すること〔第58条〕、(2)労働者の業務の有無に関わらず、契約期間中は給与を保証すること〔第58条〕等、従来よりも条件が厳しく課されることになりました。
労務派遣会社が雇用者と締結する労務派遣合意には、職務、人数、派遣期間、労働報酬及び社会保険費の金額及び支払方式、合意内容への違反責任を明記する必要があります。また、雇用者は連続する派遣期間を短く分割した短期労務派遣合意を締結してはなりません〔第59条〕。
今後は、労働者が労働派遣会社を通して、雇用者に対して派遣期間の延長や派遣費用の引上げ等を求めてくることが予想されます。
労働契約法では、他社の労働契約が存続している労働者を雇用し、前の雇用者に損害を与えた場合、その損害について労働者と連帯して賠償責任を負わなければなりません〔第91条〕。
したがって、労働者の新規募集・雇用についても十分注意する必要があります。
以上のとおり、中国は労務制度の大きな変革期を迎えています。日系企業においては、従来から法令を遵守している企業が多く、労働契約率が高いため、労働契約締結のあり方という面では、影響は限定的という見方もできます。しかし、労働組合の権限強化等により、労務管理の負担が増加し、経営の自由度はかなり制限されるものと予想されます。
したがって、雇用者においては今後の不測の法務リスクに備えて、労働契約法が施行される前に、自社の労働契約書及び就業規則と照らし合わせて不備な項目がないかどうか等、再度従業員との雇用関係の見直しに取り組む必要があります。
(日中経済協会上海事務所 鈴木 仙人)