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中小公庫「経営情報」No.351

第8回中国進出中小企業実態調査/
ベトナム投資環境

~「労務費上昇」が顕著な中国 &「プラス1」の魅力と課題~

 中小公庫では、お取引先の中国現地法人を対象に毎年「中国進出中小企業実態調査」を実施しています。今般、「第8回(07年4月実施)」の調査結果を取りまとめましたので(有効回答社数:425、現地法人ベース)その概要をご紹介します。

 今般の調査結果から、中国では「労務費の上昇」が経営課題として顕著になりつつあることが分かります。このような状況に対して、最近では「低廉豊富な労働力」、「優秀な人材確保」等を目的に、ベトナム投資への関心が高まっています。

 そこで今回は、「チャイナ・プラス1」として筆頭格であるベトナムの投資環境の魅力と課題も併せてご紹介します。

第8回中国進出中小企業実態調査

最近の業況(売上・損益動向)

 直近決算期の損益は、黒字企業割合が55%、収支トントン15%、赤字が30%となっています(図表1)。また、売上高の前期比較でみると、増加企業割合は71%となっており、前々回(78%)、前回(73%)と比較するとそのペースは鈍っています(図表2)。

 一方で、前期と比べて損益が改善した企業割合は52%となっており、前々回(60%)、前回(52%)と比較すると、ここ数年の低下傾向に下げ止まり感が見られます。

図表1 損益状況

図表1 損益状況

図表2 売上高増減(前年比)

図表2 売上高増減(前年比)

図表3 損益状況(前年比)

図表3 損益状況(前年比)

経営課題

図表4 経営課題

今後の見通し

 前回調査と比べ、売上増加、利益増加を見込む企業割合は共に低下していますが、自動車関連では共に増加を見込む企業割合が高くなっており、中国国内での自動車メーカー増産体制による効果が窺えます(図表5)。

 当面の経営方針としては、拡大する企業割合が65%で、前回調査まで続いた減少傾向は底をうち、前回調査(65%)並となっています(図表6)。

図表5 売上・利益増加見通し(最終用途別)

図表5 売上・利益増加見通し(最終用途別)

図表6 拡大方針の前回調査比較(主要業種別)

図表6 拡大方針の前回調査比較(主要業種別)

(経営情報部 林 智哉)

ベトナム投資環境の魅力と課題

 ベトナムは現在各国から注目を浴びており、投資ブームの活況に沸いています。06年の同国への外国直接投資の認可額は、100億ドルに迫る勢いで大幅に増加しました(図表7)。

 中小公庫が実施した「第8回中国進出中小企業実態調査」でも、ベトナムは中国に次ぐ中長期的な投資有望先国に選ばれており、「チャイナ・プラス1」としての存在感を呈しています。

 しかし、このような大きな期待が寄せられる一方で、今後も投資先としての魅力は持続するのかと不安視する声も聞かれます。

 そこで、以下に同国の今後を見据えた投資先としての魅力と課題についてまとめました。

図表7 世界からの対ベトナム直接投資

図表7 世界からの対ベトナム直接投資

(出典)ベトナム計画投資者

投資先としてのベトナムの魅力

  • (1)安価、勤勉、そして優秀な労働力
     ベトナムにおけるワーカーの賃金は、他のアジア主要都市と比較しても安いと言えます。それに加えて、「勤勉」、「手先が器用」といったワーカーの質の高さも評価されています。
  • (2)政治・治安の安定
     ベトナムは共産党一党独裁ですが、合議制による慎重な政策決定により政治運営は安定しています。また、政府の統制・監視により治安も良く、近年の経済成長の恩恵が広く国民にも享受されていることにより、社会的にも安定しています。
  • (3)順調な経済成長
     ベトナムは、06年の実質経済成長率が8.2%、01~05年の平均成長率も7.5%と安定した高成長を続けています。人口は8千万人を超え、経済発展に伴う国内マーケットの拡大も海外企業にとって大きな魅力の一つとなっています。
  • (4)WTO加盟
     ベトナムは07年1月に念願のWTO加盟を果たしました。これにより、各分野で対外開放が大きく進むことが期待されています。中でも、これまで規制で守られてきた金融や流通等のサービスの分野には多くの外国企業が進出を検討しています。
  • (5)投資環境の改善
     WTOの原則に従った公平な競争を目的として、06年7月1日より、従来の「外国投資法」に代わって、外国企業、地場民間企業、国営企業が全て共通して準拠する「統一企業法」及び「共通投資法」の2法が施行されました。外国企業の投資に関して特に改善が見られた点としては、1)出資比率制限の撤廃、2)知的財産権保護の明記、3)投資手続きの簡素化・迅速化及び4)投資の自由度・多様性の向上等が挙げられます。
     その他、工業団地や東西回廊(注)等道路の整備も急ピッチで進んでおり、法制度においてもインフラ面でも投資環境は着実に改善されてきています。
  • (6)その他
     中国とアセアンの中間に位置する地政学的優位性があり、原油や石炭等資源も豊富です。
  • (注)東西回廊:ベトナムのダナン港から、ラオスのサバナケット、タイのムクダハンを通って、ミャンマーのモーラミャインまでを繋ぐ運輸インフラです。

投資先としてのベトナムの課題

  • (1)未成熟な裾野産業
     近年、大企業の進出に伴ってサプライヤーの進出もみられるようになってきました。しかし、依然として裾野産業の発達は遅れており、部品の内製化が進んでいる大企業であっても、その原材料は輸入に頼らざるを得ない状況です。
  • (2)専門事務職員の不足
     経理関係や中間管理職等、専門事務職のワーカーは中心市街地での就職を希望する傾向があり、また、そもそも彼らの絶対数が少ないため、特に地方の工業団地進出企業では中間管理職の確保・育成が大きな課題となっています。ただし、ベトナムの人口構成は、30歳以下が全体の過半数を占めており、人材の質・量の両面において今後5~10年先には状況の改善が期待されています。
  • (3)電力不足
     ベトナムでは、急激な電気の需要増加に供給が追いついていないのが現状です。水力発電が全発電量の35%(北部では60%)を占めるため、乾季には電力不足が起こりやすくなります。また、主要工業団地では優先的に電力供給を受けられるものの、07年3月には全国で計画停電が実施されました。南部では、07年5月にヒアリングした際には、週に1~2回、数時間の停電の協力を政府から要請されていました。現在、急ピッチで発電所の建設が行なわれていますが、供給が需要に追いつくのは数年先と見込まれています。
  • (4)その他
     商慣習としての裏リベートや、行政の末端では汚職や賄賂が散見されます。
     また、知的財産権についても、法制度は整備されたものの、その徹底にはまだ時間がかかりそうです。
     さらに、最近、ホーチミン周辺では工場用地不足も生じており、市内から1時間半以上の遠隔地でないと適当な土地を見つけることが困難と言われています。
     都市部では、未熟な交通インフラも今後の発展の阻害要因となることが予想されます。道路が狭いため、今後、自動車が普及すると、渋滞で都市機能が麻痺する恐れもあります。

課題も踏まえた今後のベトナム投資

 以上、ベトナムの魅力と課題をまとめてみましたが、同国が計画経済を脱し、経済の市場化・国際化を始めたのは90年代のことであり、この間の急成長を考えれば、現在の課題面を認識しつつも、5年、10年先のベトナムを見据えて同国と付き合っていくことが大切でしょう。

 ベトナムは、8千万人の人口のうち、現在その半分以上が農民であり、今後は農業から製造・サービスセクターへ移動していく人口が増えることが見込まれます。また、ベトナム企業は、日本企業に対して投資や技術支援、販売先の紹介等の潜在的な期待も大きいと思われます。したがって、増大する直接投資の波に乗るだけでなく、間接投資や業務提携によるベトナム企業との連携等、企業の個性に応じた多彩なビジネス展開によって、さらなる飛躍を遂げる日本企業が出てくることが期待されます。

(国際金融情報センター 谷口 俊作)