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~地域の強みを活かし変化に挑戦する中小企業~
今回の白書では、地域間や企業規模間の「ばらつき」に焦点を当てた分析を行っています。
「地域間のばらつき」に関しては、景況感等の地域差が大きくなる中で、地域に根付いた中小企業が活躍し、地域経済を活性化させるための方策について分析を行っています。
また、「企業規模間におけるばらつき」に関しては、大企業に比較し、厳しい状況に置かれている中小企業が、取引のオープン化や雇用環境の変化といった、経済構造の変化への対応をどのように行っているのかを分析し、またどのように対応すべきかについて紹介しています。
総務省「事業所・企業統計調査」によれば、我が国における事業所数は1989年調査をピークに減少を続け、開業率は低迷しています。しかしながら、これまでの開業率・廃業率算出手法では、近年増加していると考えられているSOHO(Small Office Home Office:個人事業者。特に、ネットワークを利用して在宅で仕事をする形態)やネット上の仮想店舗などの把握が難しく、加えて、データの更新頻度が低いため、開業後まもなく廃業してしまうような企業の把握もできず、実態を反映していないのではないかとの指摘もされていました。そこで今回の白書は、各種分析の基礎となる開業率・廃業率を、NTTの「タウンページデータベース」を用いて算出するという新しい試みを行いました。その結果を、従来から用いられている「事業所・企業統計調査」による開業率・廃業率と比較したものが図表1・2です。
図表1 タウンページデータベース、事業所・企業統計調査による業種別開業率
~情報・通信、事業活動関連サービスにおいて、両統計の乖離幅が大きい~

図表2 タウンページデータベース、事業所・企業統計調査による業種別廃業率
~ほとんどの業種において、タウンページデータベースによる廃業率が事業所・企業統計調査による廃業率より高い~

ほとんどの業種において「タウンページデータベース」に基づく開業率・廃業率が「事業所・企業統計調査」に基づく比率よりも高くなっており、特に「情報・通信」や「事業活動関連サービス」(例:人材派遣業、リース業等)といった業種で開業率に大きな差が見られます。この結果から、これらの業種においては、(1)短期間での新陳代謝が活発に行われていること、(2)外観からは把握しにくい小規模な形での開業活動が盛んになってきていることがわかります。
地域経済が総じて厳しい競争環境に置かれている中で、大企業に比較し資本力に劣る中小企業が存続・成長していくためには、その所在地特有の経営資源(地域資源)を活用し、商品・サービスの差別化を図ることが1つの方策であろうと考えられます。
地域資源の代表例である農林水産関連商品に関して、商品を高価格で販売している中小企業とそれ以外の企業について、地域資源の認識状況を比較したものが図表3です。これによると、高価格帯の商品を取り扱っている企業では、地域資源の存在を認識している割合が高く、地域資源を新商品の開発や商品のイメージ向上に活用することで企業業績にプラスの効果を与えている可能性があります。
図表3 地域資源の活用に対する認識
~市場で高価格で販売できている企業は、地域資源を認識している割合が高い~

地域の活性化のためには、地域の中小小売事業者の活躍が欠かせませんが、一方で中小小売事業者の発展には、地域の活性化、魅力あるまちづくりが必要です。中小小売事業者においても、単に良い商品・サービスを提供するだけでなく、積極的に魅力的なまちづくりに参加する必要があります。消費者、地方自治体の双方から、中小小売事業者へのそうしたニーズが強まっていますが、こうしたサービスを提供できる民間主体は現状では限られています。図表4を見ると、こうしたサービスの提供能力がある民間主体が存在するのは、福祉分野に限られています。また民間と行政との連携についても、十分な体制が構築できていないのが現状です。
図表4 公共的サービスの民間主体へのニーズと集積確保の見通し
~まちづくり、産業振興等では、期待に見合うだけの民間主体がいない~

地域と中小企業の関係で見ると、地域金融機関の役割も重要です。特に従業員規模が20名以下の小規模企業の場合、地方銀行、信用金庫、信用組合がメインバンクである企業が8割を超えており、安定的な資金調達には地域金融機関と良好な関係を築くことが重要です。ところが、メインバンクとの取引満足度を調査したところ、企業規模が小さいほど満足度が低いという結果が得られました(図表5)。メインバンク担当者との接触頻度と取引満足度との間には、正の相関があることが確認されていますが、小規模企業の方がメインバンクとの接触頻度が低く、特に都市銀行と取引している場合において、接触頻度の低下が見られます。
これらの企業では、メインバンクの変更が頻繁に行われており、メインバンクとの関係は流動的であると言えますが、中小企業がメインバンクから安定的な資金調達を行うためには、両者のコミュニケーション頻度をできるだけ高め、貸し手と借り手の間で情報の共有を十分行うことが重要と言えます。
図表5 メインバンクとの取引満足度
~小規模企業ほど満足度が低く、不満度が高い~

1990年代以降、グローバル化やIT化を背景とした経済構造の変化に伴い、「系列取引」と言われる長期安定的な企業間取引構造は変化したと指摘されています。仕入・販売などの取引がよりオープンな形で行われるとともに、取引先数が増加するという意味での取引構造の「メッシュ化」が進展してきました。個々の企業の取引先数が増加すると、従来行っていたような密接な情報のやりとりは難しくなると考えられますが、今回の白書調査では、過去10年間で仕入先や販売先が増えた企業の多くでは、主要販売先との情報のやりとりも増加していました(図表6)。また、販売先数の増加と情報の緊密なやりとりを両立させている企業では、売上高が堅調に推移しています。今後中小企業にとって単に取引先を増やすだけではなく、製品の差別化や技術交流に努め、情報のやりとりを緊密化し、企業同士の交流を深めていくことが重要です。
図表6 取引先企業数の変化と1社あたりの情報量の相関
~取引先を増加させた企業は、特に情報のやりとりが増加傾向~

取引構造の「メッシュ化」が進み、企業間関係が変化する中、中小企業と販売先の取引条件についても変化が見られます。販売価格の決定方法を例に挙げると、(1)主要販売先に決定権がある、(2)双方の話し合いで決める、(3)自社がイニシアチブを持っている、の3つに大別できます。中小企業の場合、主要販売先が決定権を持っているケースが2割強、自社が決定権を持っているケースは約1割となっており、それ以外は話し合いで価格を決めていますが、図表7を見ると、販売先数が多くなるにつれて自社で価格を決定している割合が高くなっています。この結果を踏まえると、取引構造の「メッシュ化」が進展し、販売先が多様化することで、中小企業の価格決定にとってプラスの影響がもたらされる可能性があります。
中小企業においては、営業活動の強化等により販売先を多様化していくことや、多様な販売先を得られるような技術・製品を開発していくことが、価格交渉力を高めていくためには必要です。
図表7 販売価格の決定方法(販売先の多様化度合い別)

我が国では、長期的な雇用関係を前提として人的資本を蓄積してきましたが、1990年代に進められた雇用のリストラによる人的資本の毀損が懸念されています。特に中小企業においては、キーパーソン(企業の中核となる人材)の確保が、今後大きな課題となってくると考えられます。
企業経営を支えるキーパーソンは、大企業では当初から有望と見込まれた上で、新卒で採用されるケースが多いと考えられますが、中小企業ではキーパーソンを他社での正社員・正職員経験者から中途で採用する場合が最も多くなっています(図表8)。ただし、採用時点では特段キーパーソンとなることを前提とはしておらず、入社後のキャリア形成においてキーパーソンへと成長していくものと推測されます。我が国の景気が回復しつつある中で、中小企業の採用環境は厳しさを増してきています。今後、中小企業が競争力を持って成長を続けていくためには、個々の企業において中核人材を育成し、その力を十分発揮させていくことが重要と言えます。
図表8 中小企業のキーパーソンの採用経路
~中小企業におけるキーパーソンは中途採用が多いが、入社時点ではキーパーソンであるという前提で採用はされていない~

(中小企業庁 護摩堂 忍)