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経営者の高齢化が進行するなか、親族内での後継者の確保がますます困難な状況となっており、後継者が決まっている企業は、中小企業全体の約4割にとどまっています。また、中小企業庁からは「事業承継ガイドライン」が公表されるなど、事業承継に対する問題意識も非常に高まっています(注)。
本号では、円滑な事業承継を実現するためのポイントを紹介します。
(注)「経情Weekly」2006-8-7では「事業承継ガイドライン」について紹介しています。
中小企業の多くは同族企業であり、事業承継問題と相続対策は密接かつ不可分の関係にあり、多額の財産の譲渡に人間関係が複雑に絡み合い、調整は簡単ではありません。利害の対立が先鋭化することもあり、家庭裁判所に持ち込まれる遺産分割調停の件数は、着実に増加しています(図1参照)。また、近年子息・子女・親族による承継の減少が顕著となっており(図2参照)、親族内承継が期待できない場合は、後継者候補を選定・育成し、親族・従業員に認知してもらうのに十分な時間が必要となります。
事業承継は親族や従業員などの利害関係者が「幸せに生きる」ために非常に大切な問題ですが、様々な課題を伴います。そのため、必要な対策は余裕を持って検討し、その施策を落とし込んだ中長期の事業承継計画を策定し、着実に実施していくことが大切となります。
図1:全国の家庭裁判所に持ち込まれた遺産分割調停件数

出所:司法統計年報(最高裁)
図2:先代経営者との関係

出所:(株)東京商工リサーチ「後継者教育に関する実態調査」(2003年)
【事例1】計画的に事業承継を進めたケース
オーナー社長Aには親族内に後継者がいなかったが、優秀な社員Bへの事業の引継ぎをにらみ、社内の業務改善の責任者を命じるとともに、営業も担当させ、数年かけて経営全般の理解に努めさせた。Bが各分門に習熟するにつれ、会社内外から後継者の有力候補として認知されるようになり、社長の親族も既成事実として承継を認めるようになった。
経営者としての身分を保証するために、Bは自社株式を取得。そのために、役員報酬の引き上げなどを行った。また、従来からの借入金の連帯保証については、A社長が当分の間、「財務担当の会長」として連帯保証を継続することとした。
現在では、A会長が連帯保証している借入金の残高はほとんどなくなり、事実上後継者Bへのすべての承継が完了しようとしている。
事業承継について特段準備をしてこなかった経営者でも、大病を期に事業承継について熟慮し、コンサルタントなどの助けを得て事業承継計画を立案したという話もあります。とはいえ、一般的に、事業承継という問題は「今そこにある問題」ではなく、しかも周囲からは口を挟みにくい問題であるため後回しになりがちです。そのため、経営者自身が従業員や親族・後継者の幸せを願い、率先して事業承継計画の立案に取り組む必要があるのです。
事業承継計画を立てるときは「誰が」「何を」「いつまでに」行うかということを明確にし、行動計画表に落とし込み、進捗を管理します。また計画を立てる際は改めて自社の経営理念やビジョンを明確にし、後継者に何を期待し、何を伝えるのかを整理しておきます(図3参照)。
図3:行動計画表作成例

「事業承継ガイドライン20問20答」より修正引用
事業承継には後継者以外にも多くの利害関係人が関わることになります。そのため、コミュニケーションを怠ると円滑な承継が困難となってしまいます。
息子に跡をついでもらうためには、自社の事業に興味を持ってもらう必要があります。そうした認識のもと、小さい頃から時間をかけて、経営の魅力や商売の魅力を伝え聞かせていった経営者もいます。楽しそうに働いている自分の姿を見せ、家庭では仕事の不満は言わないという徹底ぶりでした。こうした地道なコミュニケーションを図り、この経営者は息子への事業の承継に成功したのです。
利害関係人への十分なコミュニケーションは、短期間で簡単にできるというものではありません。伝えるべきことは早い段階から明確にし、地道にコミュニケーションを図っていくことが、事業承継を行うにはとても大切なのです。
【事例2】伝えるべき理念を明確化したケース
オーナー社長Cは、後継者を従業員から選ぶことを決めていたが、どの候補者もリーダーとして社員の信望を十分に得ているとは言い難く、事業承継は暗礁に乗り上げていた。
そこでC社長は、経営をオープンにすることを決め、決算内容・経営全般について社内公表するとともに、理念策定プロジェクトを立ち上げ、社員の総意により「理念」と「行動計画」を策定した。また、この内容については外部の関係者も呼んで発表することとした。
こうした試みの中で、社内のコミュニケーションが活発化するとともに、「自分たちの作った理念の実現」のために行動するという自発性が生まれ、後継者候補Dを推す雰囲気が醸成された。この機を捉え、Dを後継者として宣言し、数年後には経営権を委譲した。
中小企業における事業承継といえば「相続対策」と一般的に考えられているほど、株式や財産をいかに後継者に伝えていくかという問題は非常に重要なテーマです。平成18年5月1日に施行された「新会社法」では種類株式の活用の幅が大きく広がりました。また、平成19年度の税制改正では種類株式の一部について評価方法が明確になる見込みです。他にも、同税制改正では事業承継円滑化を目的とした税制が盛り込まれる予定です。こうした新たな制度の活用も視野に入れて、早いうちから税理士などの専門家や金融機関に相談しておくことが必要です。
【事例3】納税資金を確保できなかったケース
E社は、急成長をしており業績に連動し自社株評価も非常に高額となっていた。しかし、社長も後継者もともに相続に関する知識がなく、何ら対策を行わないでいた。会社の後継者である長男が実際相続する段階となり、多額の相続税が発生することが判明。長男が所有する自宅や預貯金では到底払いきることができなかった。
また、自社株を第三者に売却しようとしても、適当な売却先を見つけることができなかった。
事業承継対策を行う際は、手をつけるべき課題が非常に多いため、余裕を持って行うことが必要です。最初に自社の外部環境・内部環境について現状をしっかりと把握したうえで、以下のようなステップで進めていくと、より円滑に進めることができます。

「事業承継ガイドライン」を参考・修正
関係者との意思疎通を図りながら、自社の内部・外部環境についてしっかりと把握し、承継方法を確定します。昨今はM&Aの環境も整備されてきており、後継者が確保できない場合などには一考に値します。早い段階から専門家などに相談しておきましょう。
(経営情報部 藤川 直貴)