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中小公庫「経営情報」No.343

海外特集号

自由貿易への取組み~注目の4カ国~

タイ

FTAへの取組み

 タイが関わるFTA(自由貿易協定)で最も先行しているのはAFTA(アセアン自由貿易地域)である。1993年から段階的に関税が引き下げられ、2006年5月現在、原加盟国間では対象品目の99.8%が関税率5%以下に、65.1%が関税率0%になっており、新規加盟国を含めたASEAN10ヶ国合計で見ても91.3%が関税率5%以下、47.6%が関税率0%に達している。最終的には、ASEAN原加盟国は2010年に、新規加盟国は2015年までに関税を撤廃する予定である。

 タイは、タクシン政権の発足以降、二国間のFTAを積極的に進めており、オーストラリア(以下、AUS)とは2005年1月に発効し、タイ側は約半数の、AUS側は83%の品目の関税を即時撤廃した。また、ニュージーランド(以下、NZ)とも同年7月に発効した。中国とは、2003年10月から野菜、果物の関税を先行撤廃し、2005年7月からは通常品目の関税を引き下げている。同様にインドとも2004年9月から自動車部品、家電製品など82品目を先行撤廃した。日本とは2005年9月に基本合意し、米国等とは継続交渉中である。

FTAの効果・影響

 現在、タイからFTAを利用して輸出できる国は、ASEAN諸国を除いてはAUS、中国、インド及びNZである。NZを除く3カ国向けの輸出における2005年のFTA利用状況は、図表1のとおりである。AUSの2005年の輸出は前年比28.5%増であるが、その約3分の2がFTAを利用した輸出である。特に、自動車・同部品の輸出は前年比66.3%増と急増しており、AUSの輸出全体に占める割合も39.3%である。また、インド向けの82品目の輸出は、前年比130.8%増と大幅な伸び率を示したが、このうち約8割がFTAを利用した輸出で、FTAがインドへの輸出拡大に大きく貢献しているといえる。一方、中国については、農産物以外の品目でFTAを利用可能になったのが2005年後半からであったことを考慮する必要があるが、それでも利用率は高くない(図表1)。これは、関税引き下げがまだ本格化していないこと等が原因と考えられる。

図表1 タイにおけるFTAの利用状況

図表1 タイにおけるFTAの利用状況

今後の方向性

 このように積極的に推進され、相応の成果が出てきたタイのFTA政策であるが、2006年に入って大きく減速している。タクシン首相一族の株取引を巡る国民の不信感の高まりにより、2月の下院解散、4月2日の総選挙に対する選挙無効判決等、政治の混迷が続いており、4月3日に締結が予定されていた日本とのEPA(経済連携協定)は、やり直し選挙後の新政権誕生まで延期されている。そこへ今度は、9月19日、国軍と警察によるクーデターが発生し、正式な政府の誕生は今後さらに1年以上を要する見通しとなっている。今後のタイのFTAは、政治の安定を待たなければならない状態にある。

(ジェトロバンコクセンター 秋山 修一郎)

ベトナム

市場経済の導入

 長期にわたる戦争と計画経済を経験し、経済低迷と国際的孤立に陥っていたベトナムは、市場経済システムを導入して、経済の工業化・国際化を図るため、1986年の党大会でドイモイ(刷新)政策を採択した。ベトナム政府の狙いは、外資系製造業を誘致して産業・技術の集積を進め、高付加価値製品を製造・輸出して経済成長を牽引することであった。そして、この政策が本格化した90年代半ば以降、ベトナムの貿易は輸出入ともに大幅に拡大し、増加傾向にあった貿易赤字も2005年には減少に転じた。この貿易拡大及び赤字の縮小に貢献したのは、外資企業部門である。

図表2 ベトナムの輸出入額推移

図表2 ベトナムの輸出入額推移

未発達な国内産業

 しかし、外資企業部門の輸出内訳を見ると、原油が過半を占めており、原油の輸出増加が貿易赤字の縮小要因であることが分かる。仮に原油を除くと、外資部門の貿易赤字はむしろ増加傾向にある。その要因は、現地で原材料及び生産設備を調達しづらいことから、生産活動に必要な資本財の多くを輸入に頼らざるを得ないためである。

 ベトナムは2001年以降、アジア諸国に対しては輸入超過に、米国・EUに対しては輸出超過となっている(図表3)。すなわち、アジア諸国から原材料を調達して製品を作り、それを欧米へ輸出するという大まかな構造が読み取れる。近年、ベトナムはアジアの中で輸出生産基地の一つとして分業体制に組み込まれつつあるものの、技術の向上や外資系企業が求めるような裾野産業の発達は依然として進展しておらず、労働集約的かつ付加価値の低い製品を作る工場が増える一方である。

図表3 主要国・地域別貿易収支

図表3 主要国・地域別貿易収支

FTAへの取組み

 こうした発展度合いは、ASEAN諸国内部でも課題視され、ベトナムが1996年に参加したAFTAでは、ASEAN原加盟国が2003年までに対象品目のほとんどの関税を5%以下に引き下げたのに対し、ベトナムは2006年までに5%以下に引き下げることとなった。また、ASEAN・ 中国FTAについては、2002年11月の首脳会議 で「包括的経済協力枠組み協定」に調印し、ASEAN原加盟国は2010年までに関税を撤廃することで合意しているが、ASEAN新規加盟国であるベトナムは2015年までとなっている。

WTO加盟に向けて

 現在ベトナムは、WTO(世界貿易機関)への加盟を外交の最重要課題として取り組んでおり、今年中の加盟が見込まれている。加盟すれば、国内市場の開放、国際的なルールに則った貿易・経済制度の改革を進めざるを得ない。技術の向上や裾野産業の発達を外資からの直接投資に頼らざるを得ないベトナムにとって、計画経済時代から引きずってきた不透明・不公正な商習慣や制度運用からの脱却は、外資企業の誘致を促進する絶好の機会である。また、現在政府は海外からの支援を仰いで国内のインフラ整備にも精力的に取り組んでおり、WTO加盟後のベトナムは大きく飛躍する可能性がある。

(国際金融情報センター 谷口 俊作)

中国

自由貿易への取組み

 中国は、2001年12月にWTOへの正式加盟を果たして以降、これまで閉ざしていた国内市場を段階的に開放し、外国資本の受入れや貿易の促進により高い経済成長率を維持している。2005年の貿易総額は、前年比23.2%増の1兆4,221億ドルにのぼり、2004年に続いて1兆ドルを突破した。そして、次なる対外通商政策として、FTAを通じてアジア地域における影響力を拡大しようと活発な動きを見せている。

 中国における初めてのFTA締結は、香港特別行政区(以下、香港)との間で2003年6月に締結されたCEPA(経済貿易緊密化協定)である。

 CEPAは、モノの貿易の関税・非関税障壁の撤廃、サービス貿易の自由化促進、貿易や投資の円滑化促進を目的としている。CEPA締結により香港原産品の輸入関税が撤廃されつつあり、2004年1月1日から宝飾品、電気・電子製品を中心に273品目の関税が撤廃されたうえ、サービス分野については、会計、広告、建築、不動産、銀行、証券及び保険等17分野について、WTOへの公約を前倒しして開放している。

ASEAN諸国との自由貿易の推進

 CEPAに次いで最も進展しているのが、ASEAN諸国との交渉である。2000年11月に開催された中国・ASEAN首脳会議で中国側から提案され、翌年11月の首脳会議では、10年以内のFTA実現に合意、2002年11月には「包括的経済協力枠組み協定」に調印した。本協定では、①アーリーハーベスト(注)として農産品8分野の自由化措置を2006年(ASEAN新規加盟国であるカンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムの4カ国は2008~2010年)までに前倒しで実施すること、②前倒し分野以外については2005年から関税を段階的に引き下げ、2010年(ASEAN新規加盟4カ国は2015年)までに関税を撤廃し、FTAを完成させること等が合意された。近年の中国とASEAN諸国との貿易は、2001年以降、急速に拡大しており、今後なお一層の進展が期待されている(図表4)。

図表4 中国におけるASEAN各国との貿易総額

図表4 中国におけるASEAN各国との貿易総額

中国のFTA戦略

 中国がFTA交渉を積極的に進めている第一の理由には、欧米では欧州連合(EU)や北米自由貿易協定(NAFTA)等が形成されているが、東アジア地域はFTAの空白地帯ともいわれており、中国としては東アジア地域FTAの主導権を握りたいという政治的意図が考えられる。また第二の理由としては、中国とASEAN諸国は製造業等いくつかの分野で競合する関係にあることから、ASEAN諸国の間では「中国脅威論」が囁かれており、ASEAN諸国側の関心が高い農産物分野で中国側が譲歩を示すことで、「中国脅威論」を和らげ、良好な経済関係の構築を目指していることが挙げられる。

 さらに、中国は、日本、韓国、インド、オーストラリアに対してもFTA協定締結を提案している。日本及び韓国は、中国がWTO加盟後、間もないこと等を理由に消極的な姿勢を示しているが、インド及びオーストラリアとはFTA締結に向けて基本合意しており、中国は今後ともFTA締結に向けて積極的な動きを進めていくと見られている。

  • (注)アーリーハーベスト
  • 自由貿易地域を設定するまで、ASEAN諸国が国際競争力を有する熱帯農産物等8分野についての関税率を先行して引き下げる計画。

(日中経済協会 林 智哉)

アメリカ

米国の通商戦略

 2006年米国通商政策の重点は、①WTOドーハ・ラウンド交渉の終結、②FTAを通じた二国間の経済関係強化、③通商ルールの積極活用による利益と権利の保護の3つである。WTOドーハ・ラウンドの2006年末までの交渉妥結が困難視されるなか、米国通商政策の重心はFTA交渉に移りつつあり、最大の関心は韓国との交渉となっている。

韓国とのFTAへの期待

 米国政府は米韓FTAをNAFTAに次ぐ15年ぶりの大型FTAと強調している。これは、今までの米国のFTAは政治的な観点を重視した小国とのものが多く、産業界は経済面でより重要な国とのFTAを期待していたからである。

 米韓FTAの発効による米国側の最大の利点は、農産品の輸出拡大である。韓国は農産品輸入の約4分の1を米国に依存している。USTR(通商代表部)は、韓国農産品の平均実行関税率が52%であるのに対し米国は12%で、米国にとってメリットの大きいFTAと説明している。また、非農産品分野でも韓国の平均実行関税率が7%であるのに対し米国は3.7%で、同様に米国にメリットがあると指摘している。

 一方、韓国側の利点は巨大な米国市場にアクセスできることに加え、米国からの投資などを通じて東アジア経済圏のハブとしての機能が期待できる点である。

農業と医薬品での対立

 こうした背景を踏まえ、第1回米韓FTA交渉は6月5~9日にワシントンDCで、第2回交渉は7月10~13日にソウルで行われた。交渉の詳細な内容は明らかになっていないが、これまでの記者発表や各種報道ぶりを見ると特に農業と医薬品の分野で意見の隔たりが大きいようである。

 農業においては、米国が韓国に例外なき関税自由化や関税割当制度の透明性の向上を求めているのに対し、韓国は米の例外化やセーフガード措置の導入を求めている。

 医薬品は、第2回交渉で両国が最も対立した分野である。論点は、2006年9月に導入予定の韓国の薬価策定適正化制度である。同制度は、新薬の効能や費用対効果を考慮したうえで、健康保険制度の適用対象とするかを決めるものであるため、米国は薬価の高い米国製の新薬が不利になる恐れが高いとして反対を表明した。首席交渉担当のカトラーUSTR代表補は、「制度の導入にあたり十分な交渉の機会がない。審査方法も不透明で不公平である」と述べた。一方、韓国は、制度の予定どおりの導入を主張し、両国間の溝は埋まらず交渉は中断した。

今後の交渉

 医薬品分野での交渉中断を受けて両国は、その後予定していた複数分野の交渉を次々とキャンセルした。第2回交渉は予定を1日早く切り上げて終了したが、両国政府は6~8週間ごとに協議を続け、2006年末までの交渉妥結を目指すと発表している。第2回交渉の対立は、一種の政治的な駆け引きや交渉戦術の一つと認識されており、米韓FTA交渉自体が決裂したものではない。

 米韓FTA交渉は、現在中断中の日韓EPAや将来の日米EPAの議論に影響を与える可能性があるため、日本にとっても目が離せない状況である。

(ジェトロニューヨークセンター 福田 直人)