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~時代の節目に立つ中小企業~
大企業を牽引役に我が国全体の景気が回復するなか、中小企業の業況も緩やかに改善しているものの、その回復度合いは業種や地域によって「ばらつき」が出ています。また、グローバル化の進展により我が国経済と東アジア経済との関係が近年急速に深化し、中小企業を取り巻く経営環境は大きく変化しています。
このような経済状況下、今回の白書では、中小企業にとってどのような経営環境の変化が起きているのか、また、どのような取組みが求められているのか等について分析しています。加えて、我が国は2005年から人口減少社会に突入し、今後、少子高齢化の進行が予想されることから、後継者不足による事業承継問題や、中小企業が高齢者・女性・若年層等の就業の場として重要な役割を果たしていることについても紹介しています。
1990年代以降、我が国経済が長期低迷するなか、中国をはじめとする東アジア諸国の急成長もあり、我が国企業の海外戦略は大きく変化してきました。このような変化のなかで、事業の新展開と拡大を求めて積極的に海外展開を行う中小企業も増加しています。
図表1の海外展開後の日本本社業績との関係を見ると、業績が停滞・悪化傾向にあった企業は、海外展開により日本本社の売上高、営業利益率が好転している企業も多く、経営上プラスの効果があったことがうかがえます。特に図表2の受注取引への影響を見ると、東アジアへの展開が現地での新規開拓や国内取引への発展等にプラスの影響を与えていることがわかります。
図表1 海外展開後の日本本社業績(直近10年間)との関係
~1990年代初めに東アジアに拠点展開した企業は、日本本社の売上高・営業利益率に好影響を与えている~

資料:三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)「最近の製造業を巡る取引環境変化の実態にかかるアンケート調査」(2005年11月)
(注) 1991~95年までの間に東アジアに初めて進出した企業について、進出当時の売上高・経常利益についての経営状況が「増加基調」「減少基調(横ばい含む)」に分類し、その企業の最近10年間(1996~2005年)の売上高・営業利益率の傾向について集計し、東アジアに拠点展開をしていない企業と傾向を比較した。
図表2 受注取引への影響
~現地での新規開拓、国内取引への発展、大手企業との直接取引などの効果がある~

資料:三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)「最近の製造業を巡る取引環境変化の実態にかかるアンケート調査」(2005年11月)
(注) 複数回答可
表面処理、精密機械加工を手掛けるA社は、納品先が海外展開を積極的に始めていることに加え、コストダウンの要請が強かったことや、中国市場の潜在需要を考慮し、2001年に上海へ進出しました。進出当初は、工数がかかり日本ではコストダウンの難しい部品を中心に製造していましたが、現在は日本、中国工場ともに同様の製品ができる製造ラインを構築しており、数量や価格帯などに応じて、双方の工場で分担して製造を行っています。
中国に進出している日本企業に「日本と同水準のものが現地調達できる」という話が口コミで広まり、中国国内向けの販路開拓に成功しています。また、日本国内でも短納期の製品は国内工場で対応しつつ、中国工場で生産した安価な製品も提供できるようになったことから、日本国内の受注も増加し、日本本社の業績が向上するなど、中国工場との相乗効果が現れています。
国内にとどまる企業においても、国際競争力を意識した経営を行う必要があります。近年、量産品の製造拠点が東アジアにシフトし、国内では多品種小ロット生産に対応する必要性が指摘されています。しかし、図表3の調査結果を見ると、多品種小ロット生産への対応力を強みとした企業は、それを強みとしなかった企業と比較して、売上高や営業利益率といった経営パフォーマンスが低くなっています。国際競争力を意識した経営を行うに当たっては、多品種小ロット生産への対応だけでなく、コスト削減などの生産プロセスの改善も併せて行っていく必要があります。
一方、図表4を見ると、得意分野の工程に特化した企業はより良好な経営パフォーマンスを示しており、経営資源に限りのある中小企業においては、特定分野に自社の経営資源を集中して投入することで、より良好な経営パフォーマンスを得られる傾向が見られます。
図表3 多品種小ロット生産への対応力と経営パフォーマンス
~コスト削減を始めとした生産プロセスの改善を併せて行う必要がある~

資料:三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)「最近の製造業を巡る取引環境変化の実態にかかるアンケート調査」(2005年11月)
図表4 事業の核となる強みの創出と経営パフォーマンス
~得意分野の工程に特化し強みをもつことで、他の取組みとの相乗効果ができる~

資料:三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)「最近の製造業を巡る取引環境変化の実態にかかるアンケート調査」(2005年11月)
また、近年は顧客ニーズが多様化しており、特定分野に経営資源を集中すると、多様化したニーズに対応しきれなくなる懸念もあります。そこで、地域に蓄積された地域資源(農林水産資源、大学等の技術シーズ等)の活用により強みを創出することも有力な取組みとして考えられます。有用な地域資源の1つとして「産業集積」があり、収益の好調な企業は、「産業集積」の機能を有効に活用していることが分かります(図表5)。つまり、中小企業単独では、経営資源に限りがあることから自社の強みの創出に経営資源を投入しつつ、幅広い集積ニーズに対しては地域資源の活用により柔軟に対応することが、有効な手段の1つであると考えられます。
図表5 収益状況による事業環境の優位性差異
~利益好調企業は集積の機能を有効に活用している~

少子高齢化・人口減少といった我が国が直面している人口構造の変化は、中小企業にも様々な影響を与えています。図表6の55歳以上の経営者の事業承継に対する検討内容を見ると、約半数の企業は、後継者が決まっておらず、さらに、後継者が存在しないため廃業を検討している企業もあり、事業承継の問題においても少子高齢化・人口減少の影響を大きく受けていることがわかります。
図表6 55歳以上経営者の事業承継に対する検討内容

今後、総人口が減少に転じることが見込まれるなか、少子化を食い止めるためには、「子供を産み育てやすい社会」の実現に向けた取組みが必要となり、そのなかでも、我が国の雇用の7割を支える中小企業の役割は重要です。
「子供を産み育てやすい社会」の実現のためには、①若年層が出産・育児が行えるだけの安定した雇用・収入を確保すること、②働く女性にとって大きな課題である仕事と育児の両立を実現することの2点が重要となってきます。
<若年層の安定した雇用・収入の確保>
近年、就職してもすぐに離職してしまう者の増加等から、フリーターの増加や失業率の上昇といった若年層の雇用問題が深刻化しており、若年層の安定した雇用・収入確保のためにはフリーター等、正社員として就労していない人材の活用が重要となってきます。
一般的にフリーターを正社員として雇用することは敬遠されがちですが、図表7の実際にフリーターを正社員として採用した企業に対する満足度調査では、新規学卒者からの採用とフリーターからの採用に大きな差異はなく、若年層の採用に際しては、フリーターと新規学卒者を平等に評価することも必要であることがわかります。
図表7 フリーターと新卒者の間で正社員になったときに差があると感じるか
~企業規模に関係なく7~8割の企業が、元フリーターと新卒者の正社員の間に差がないと回答している~

<仕事と育児の両立>
中小企業では、妊娠・出産しても継続して就業している女性社員や、一旦育児のために離職した後、復職する女性社員が多いことから、女性社員の1人当たりの出生子供数は、従業員規模が小さい企業ほど多くなっています。図表8の仕事と育児の両立支援策の整備・利用状況を見ると、従業員規模が大きい企業ほど制度の整備により対応している一方で、従業員規模が小さい企業ほど制度は設けずに柔軟に対応していることが分かります。中小企業では、制度の整備ではなく従業員の個別の事情に応じた柔軟な対応によって、仕事と育児の両立を実現させていることが特徴といえます。
図表8 仕事と育児の両立支援策の整備・利用状況
~従業員規模が小さいほど「柔軟に対応している」~

電気機械器具の製造を手掛けるB社は、女性従業員が継続して就業できるよう、勤務時間の短縮などに取り組んでいます。原則残業はなく、年間の休日数は140日(日本企業の平均休日数は120日)で、日本企業の平均をかなり上回る水準となっています。
B社では、「現場が一番現場を知っていて、上司に相談するより、従業員に自分の頭で考えさせる」という企業文化の下、営業マンには商談におけるすべての権限を委譲し、工員には工場の生産管理を任せることで、B社の従業員は勤務時間内で能率や生産を上げています。現場に最大限の裁量を与えることにより、徹底した業務の効率化を図り、結果的に仕事と育児を両立しやすい職場環境を実現しています。
(中小企業庁 護摩堂 忍)